『米とおかず』長谷川あかりさんインタビュー /お米の魅力を再発見できる、心とお腹を満たす一冊
こんにちは。エディマートの水野です。
みなさんは日々の料理を楽しんでいますか?
毎日忙しくて、ごはんづくりが面倒……と、感じている方も多いのではないでしょうか。
今回は忙しい現代人にぴったりな、毎日の食卓を彩るレシピの数々を発信する、料理家・長谷川あかりさんのインタビューをお届けします。
2024年11月に発売された、新刊『米とおかず(光文社)』は、「お米をとことんおいしく食べるための一冊」をコンセプトに、米を使った料理と、白い米に合う料理を紹介。炊き込みごはんだけでも、シンプルな和風の炊き込みから、満足度の高い洋風の炊き込み、アジアン風、野菜をそのまま入れて炊いた素材のポテンシャルを引き出すレシピまで、バリエーション豊富に掲載されています。
そんな『米とおかず』の書籍制作を振り返っていただきながら、本づくりへの想いや読書観、そして料理に対する価値観について語っていただきました。
本を通じて学んだ料理をつくることの喜び
長谷川さんの読書遍歴について伺うと、幼い頃から本に囲まれた環境で育ったとのこと。「父が古本を集める人で、家のワンルームが書庫みたいになっていたような環境でした。ビジネス書から専門書、小説まで、本当にさまざまな種類の本があって。それを片っ端から読んでいましたね」と当時を振り返ります。
当時は内容をきちんと理解していたというよりは、文字情報にふれていること自体が好きだった、と話す長谷川さん。とくに印象に残っているのは、小学校低学年の頃にサンタさんにおねだりして買ってもらった植物図鑑。「私が想像していたおしゃれな図鑑とは少し違いましたが(笑)。それでも夢中になってページをめくっていました。本を読んでいる自分がかっこいい、そんな風に思っていたところもあったかもしれません」。
そんな長谷川さんが最初に出会った料理本は、実家にあった『お料理基本大百科(集英社)』だったそう。「家で見つけた時はまだ子供だったので、実際に料理をつくるというよりは眺めているだけでしたが、あの重厚な佇まいが好きでしたね」と振り返ります。
本格的に料理に目覚めたのは、少し辛い時期を経験した高校生の頃。「ちょうど子役から大人の活動に移行するタイミングで、将来への不安や自己否定に悩んでいたんです。そんな時、父とよく訪れていた古本屋で料理本コーナーに目が留まりました」。
食欲もなく、何を食べてもおいしく感じられない日々だったが、見たことのない食材や調理法が並ぶページに、不思議とワクワクした気持ちになった、と長谷川さんは言います。
「最初に作ったのは煮込み料理だったと思いますが、レシピ通りにつくった料理を家族が喜んでくれたことが、当時の私にとって大きな救いになりました。料理を通して、何かを生み出す喜び、そして誰かの役に立てる喜びを感じることができたんです」。
「持っているだけで素敵になれる本」をめざして
大学で栄養学を専攻された後、SNSなどでのレシピ発信を始められた長谷川さん。そのきっかけを伺うと、「大学時代は結婚したり、資格の勉強に追われたりで、とにかく忙しかったんです。それで、料理に対する考え方がガラッと変わっちゃって」と、当時を振り返ります。
それまでは時間をかけて手の込んだ料理をつくるのが好きだったものの、家事として料理をするとなると全く楽しくないことに気づいたそう。
「一回思いっきり方向転換して、超簡単で時短な料理ばっかりつくるようにしてみたんです。そしたら今度は、料理の楽しさとかおいしさを追求するのを忘れてしまって、つくるのが楽しくなくなってしまったんですよね……」。行き詰まりを感じた長谷川さんは、さまざまな料理本や雑誌を読み漁り、試行錯誤を繰り返します。
「そこでたどり着いたのが、本格料理でも時短簡単料理でもない、ちょうどいいバランスの“真ん中の料理”だったんです」。
SNSで紹介されるレシピやインターネットに載っているレシピは、時短・簡単が協調されたレシピや、エンタメ性の高い派手な味付けのレシピに偏っていると感じていた長谷川さん。
「私みたいに『なんか物足りない…』『薄味で身体に良さそうなレシピが知りたい』と思ってる人たちもいるはずなのに、そういう人たちに必要な情報が届いてない気がしたんです。また、長年活躍している料理研究家さんたちのベーシックで落ち着く味わいの普遍的な家庭料理レシピの情報の多くはお料理雑誌や料理本で完結していて、本当に悩んでいる人が潜んでいるインターネットの世界まで届いてこない・インターネットまで届いても、エンタメ性に振り切った料理に比べるとバズりにくいという課題もありました。だから、自分がSNSで“真ん中の料理”を発信することで、悩んでる人たちの橋渡し役になれたらいいなって思ったんですよね」。
その後、ご自身でレシピ本を出版されるようになった長谷川さん。書籍とSNSとの発信で意識の違いはあるのかたずねると、「違いますね」と断言。
「インターネットとかSNSの情報って、どうしても時間とともに流れていってしまいますよね。でも、本はアーカイブとして残るし、いつでも見返すことができる」と長谷川さん。「私自身、料理雑誌に育ててもらったっというのもあって、書籍という形に残ることにすごい意味を感じてるんです。あと、読者の方にとって、私の本がアイデンティティの一つになるような、持ってるだけで『私、なんか素敵!』って思えるような本をつくりたいんですよね。それは、SNSではできないことだと思っています」と、書籍制作に対する熱い想いを伺えました。
また、長谷川さんも自身が書籍を出版するようになり、本との向き合い方が変わったそうです。
「以前は感覚的に本を選んでいましたが、今は『なぜこの本が好きだと思うのか』『この本にどんな魅力を感じるのか』を言葉にするようになりました」と語ります。
「自分が一冊の本に救われたように、料理で悩んでいる人の手助けをしたい。そんな想いでレシピ本をつくっています。だから、売れ筋を狙うのではなく、自分が心から良いと思える本、昔の私のような読者に届いてほしいと思える本をつくることを心がけています」。
お米のおいしさが存分に伝わるレシピが満載
シンプルでベーシックなのにどこか新しく、食べると幸せを感じられる。そんな長谷川さんのレシピは、本やSNSを通じてこれまでにも多くの人に届けられてきました。
そんな中、今回の新刊『米とおかず』で、お米をテーマに選んだ理由をたずねると、「米離れが加速する今だからこそ、お米の魅力を発信したい」と、強い想いを込めて選んだと言います。
「“お米=太る”みたいなイメージが先行していて、お米を避けている人もいますよね。でも、お米の主成分である炭水化物って、実は糖質と食物繊維の総称。お米をしっかり食べることで必要量の食物繊維を摂取することができますし、敵視されてしまいがちな糖質も体にとっては大切なエネルギー源ですから、やはりある程度は摂らなくてはなりません。栄養学的に見ても、お米って健康的な食生活に欠かせない食材なんですよね。あとはシンプルに自分がお米が好きなんです」と長谷川さん。
『米とおかず』には、どんぶりものやチャーハン、白いごはんに合わせるとごはんが進んで止まらないおかずなど、とにかくお米のおいしさを味わうための多彩なレシピが掲載されています。
エディマート読書部の読者向けのおすすめのレシピをたずねると、「在宅ワークの方も多いと思うので、ランチにおすすめなのは『タラコと豆乳の即席クリームリゾット』。本当に簡単にできて、とってもおいしいんですよ!“え、こんな短時間でこんな本格的な味が!?”ってびっくりすると思います」と長谷川さんは笑顔で答えてくれました。
そのほかにも、炊飯器でつくる炊き込みごはんもおすすめとのこと。「『鮭と山菜の中華風炊き込みご飯』とか、材料入れてスイッチポン!でOKなので、その間にほかの料理をつくったり、家事を済ませたりできます。炊き込みごはんとスープだけでも、立派な献立になりますよ」。
また、自炊の習慣がない方や、料理の楽しさを見出せていない方に対してには、「料理なんてめんどくさい!って思う気持ち、すごく分かります」と長谷川さん。「私もよく“料理で自分を満たす”とか言ってますけど、正直しんどい時は“うるさいわ!”って思っちゃうだろうなって」と率直な想いを語ります。
「でも、一回騙されたと思ってつくってみてほしいんです。意外と簡単にできるし、想像以上においしいから、“あれ?私、料理好きかも…?”って思えるはず。私のレシピは、一見おしゃれで大変そうに見えるかもしれないけど、実はすごくシンプルなんです。“え、こんなに簡単でいいの!?”っていう驚きと喜びを届けたいと思ってます」。
終わりに
今回のインタビューを通して、長谷川あかりさんの本と料理に対する深い愛情、そして読者への温かい想いが伝わってきました。新刊『米とおかず』は、忙しい毎日の中でも、手軽においしいごはんを楽しみたいという人にとって心強い味方となるでしょう。
「毎日のごはんづくりに悩んでる人、平日はとにかく楽したい人、そんな人たちこそ手に取ってほしい一冊です。“お米ってこんなにおいしいんだ!”って再発見してもらえたら嬉しいです。ぜひ、肩の力を抜いて、気軽に楽しんでつくってみてくださいね!」と長谷川さん。お米の新たな魅力を発見できる一冊を、ぜひお手にとってみてください。
写真:早坂直人(Y’s C Inc.)/撮影協力:Y’s C COFFEE STAND