犬のフィラリア症について

犬フィラリア症とは

フィラリア(イヌ糸状虫)という寄生虫が、犬の血管や心臓の中に寄生する病気です。
発症に気づかず治療が遅れてしまうと、命に関わる様々な病害を引き起こします。
犬だけでなく、猫や人間など他の哺乳類にも感染することがある恐ろしい病気です。

フィラリアのライフサイクル

人間を吸血する蚊(シナハマダラカ、コガタアカイエカ、トウゴウヤブカなど)がフィラリアを媒介しています。
フィラリアのライフスタイルは複雑で、犬と蚊の体内を行ったり来たりしながら増殖をしています。

①蚊がフィラリアに感染した犬の血液を吸血する
②蚊の体内にフィラリアの幼虫が入る
③フィラリアの幼虫が体内に入っている蚊が別の犬の血液を吸血する
④吸血された犬の体内にフィラリアの幼虫が入りフィラリア症に感染する


①~④を繰り返すことで、感染が広がっていく。

犬の体内に侵入したフィラリアの幼虫(体長0.25~0.3mm)は、組織液などを接種して体内を移動しながら成長(体長2cm程度)し、約3ヶ月で心臓に到達します。 
心臓や肺動脈に寄生したフィラリアは、約3ヶ月で繁殖が可能なまでに成長(オス体長10~15cm、メス体長20~30cmのそうめんの様な虫体)し、同時期に繁殖可能なオスとメスが寄生していれば、幼虫を産むようになります。
そして、産まれた幼虫は血流に乗って全身の血液中に運ばれ、蚊がこの犬を吸血すれば、再びフィラリアの次のライフサイクルが開始されることになります。

フィラリア症の予防

一番の予防対策は、犬が蚊に刺されないようにすることですが、蚊を生活環境から全排除したり、絶対に刺されないようにすることは不可能です。
フィラリアの幼虫を定期駆除することができる予防薬を適切に使用すれば、ほぼ確実にフィラリア症の発症を防ぐことができます。

万が一、体内にフィラリアの幼虫が大量にいる状態で予防薬を使用すると、大量に幼虫が駆除されてショック反応を起こす可能性があります。
駆除されたフィラリアの幼虫の死体が血管につまり、循環不全を引き起こしてしまうのです。
これらの障害は投薬後1時間以内に起こり、3~5時間以内に犬は回復するか、死に至ります。

予防薬の投与の開始時は、自己判断で予防を開始するのではなく、あらかじめ動物病院でのフィラリア症の検査が必要です。

予防薬の投与期間は、蚊の出現し始める時期から、蚊のいなくなった後1~2カ月間です。
蚊がいなくなった後の投与を忘れると、蚊が発生していた時期の最後に刺され、寄生してしまったフィラリアを駆除することができません。

フィラリアの予防薬は、蚊がいなくなっても最後の投与を忘れずに行いましょう。
予防薬が余ってしまった、与え忘れた時期があった場合は、必ず速やかに獣医師に相談しましょう。

予防薬の種類

錠剤

フードやおやつに包み込んで与えたり、喉の奥に入れて飲み込ませます。

食物アレルギーがある犬や、皮膚が弱い犬でも安心して与えることができます。
また、ジャーキータイプなど工夫がされた予防薬に比べ価格が安いので、必要な用量が多い大型犬や多頭飼いの家庭など、コスト面では大きなメリットとなるでしょう。

味覚が繊細で錠剤を吐き出してしまう犬には投与が難しくなります。
初めて錠剤を投与したときは、吐き出していないか確認が必要です。

チュアブル錠

薬剤が練り込まれたおやつ状のもので、口の中で噛んでから飲み込む錠剤です。

錠剤の飲ませづらさが解消され、投与しやすいタイプです。

ほどんどの犬に使用できますが、食物アレルギーがある犬への投与は注意が必要です。
使用する前に、かかりつけの獣医に必ず相談しましょう。

滴下薬(スポットタイプ)

薬剤の入った液体を犬の首の後ろに塗布して使用するタイプです。

錠剤やおやつを受けつけない犬や、食物アレルギーがある犬でも安心して使用することができ、錠剤やおやつのように吐き出すことがないので、確実に投与することができます。
塗った薬剤は皮膚から吸収されるので、塗布後に一定時間が経てば予防期間中のシャンプーも可能です。

犬がなめることができない箇所に毛をかき分けて塗布する必要があるので、激しく動き回ったり、触られるのが嫌いな犬には塗布が難しい場合があります。

注射

動物病院で皮下注射を行う方法です。

効果は最長で12ヶ月間得られるものもあるので、年に1回の注射で予防が可能となります。
予防薬の投与忘れのリスクを減らし、確実に予防することができます。

薬の用量は投与時の体重に基づいて決まるため、成長期の犬や体重が変わりやすい犬には使用できません。

フィラリア症の症状

フィラリアは肺に血液を送る役割を持つ、肺動脈や心臓の右側に寄生するので、主な症状は心臓と肺にあらわれます。

右心不全

元気や食欲がない、咳がでる、呼吸困難や心臓の雑音、むくみや腹水などの症状がみられることがあります。
血管の中で赤血球が壊れてしまい、赤い色の尿が出たり、白目や歯茎が黄ばむことがあります。

肺障害

肺への血管が硬くなってしまったり、肺が傷ついたりします。
咳き込みや呼吸困難、チアノーゼ(舌や歯茎が真っ青になる、または白っぽくみえる)といった症状が出ます。

右心不全と肺障害は命にかかわるもこともあるので、早期の治療が必要です。

フィラリア症の治療法

心臓や肺動脈に寄生している成虫の駆除を行いますが、フィラリア症に感染した犬の年齢や身体状態、寄生状況などによって行う処置が変わってきます。

外科手術による成虫の摘出

血管の中に細長いカテーテルを挿入して、肺動脈に寄生している成虫を釣り出します。
麻酔のリスクなど、犬の身体に大きな負担がかかるので、全ての犬に適応される治療法ではありません。
また、手術設備と高度な技術が必要なので、行える獣医師や動物病院が少ないのが実情です。

薬剤による成虫の駆除

死滅させたフィラリアが、肺や血管に詰まったり絡まったりして状態が悪化する危険性があるので、投薬時には呼吸状態や肺障害に細心の注意を払う必要があります。

じわじわと成虫を弱らせる投与法や、複数回にわけて投与する方法があり、治療期間には数カ月~1年半以上かかることもあります。

※フィラリア駆除薬として有名な「イミドサイド」はとても強力かつヒ素を含むため危険性が高く、犬の肉体と精神にかなりの負担がかかることなどから、2014年に日本国内での販売が中止されました。

予防薬の長期投与

予防薬を通常とは異なる方法で使用します。成虫の感染数が少なく、症状が出ていない場合に行われることが多い治療法です。

新しく蚊の吸血時に入ってきた幼虫を駆除し、もともと寄生している成虫の自然な減少を期待します。

この治療法でフィラリア症から回復したとしても、発症によって血管や肺、腎臓などに与えられた障害は残ってしまいます。

対処療法

犬が外科手術や薬剤の投薬に耐えることができないと判断された場合、寄生しているフィラリアに対しては何もせず、溜まった腹水を除去したり、咳を抑えたりするなどの対処療法を行います。

これにより症状が緩和され長期的に生存できることもありますが、急激に症状が悪化して死に至ることもあります。

できる限り心臓や血管に負担をかけないように配慮し、栄養価の高いバランスの取れた食事や療法食を与えます。

まとめ

犬フィラリア症は、発症すると愛犬にとって命取りになる恐ろしい病気ですが、飼い主がしっかりと予防を行えば、ほぼ確実に発症を防ぐことができる病気です。

近年、インターネットなどで犬フィラリア症の予防薬が販売されていますが、フィラリア症の予防薬は法律で獣医師の指示なしに処方することが禁止されている薬です。

毎年、必ずかかりつけの動物病院で血液検査、予防薬の処方を受けるようにしましょう。

最後まで読んで頂きありがとうございました♪

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