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「脆弱」を「きじゃく」と読んでしまうのはなぜか―漢字学習の落とし穴

文責:Belfastは19街区のなか。


 「脆弱」は「もろくて弱いこと」を指す単語であり、正しい読み方は「ぜいじゃく」であるが、これを「きじゃく」と読み間違えてしまうことが多々あるようだ。「脆」は訓読みで「もろい・よわい・かるい・やわらかい」であり、音読みは「ゼイ・セイ」である。

 漢字の成り立ちは六書に基づき6つとされており、そのうち今回の問題に関わっているのが「形声文字」である。この文字は意味を表す部分と音を表す部分から成り立っており、それぞれ「意符」と「音符」という。例えば「預」の音符は「予」であり、「ヨ」という音読みを反映している。また「渦」の音符は「咼」であり、「カ」という音読みを反映している。このように漢字の読みには、音符の存在が大きくかかわっている。加納(1993)は形声文字と誤認識してしまうが、実はそうではない文字が存在すると述べ、一つ一つ覚えていったほうが効率が良いとしている。要するに「脆」を「キ」と読んでしまうのは、音符ではない「危」を音符だと誤認識してしまうことによる間違いだと言える。

 ちなみにKrings(2014; 68)によれば、「日本語学習者は一般的に音符の意識が薄い」と述べている。つまり音符かどうかを普段より紐付けて学習しておけば、読み違えることはないと言える。しかしながら奥田(2012)は、小学校の国語科で学習する漢字は漢字辞典によって由来の説明が異なり、またそもそも会意文字と形声文字の境界が曖昧であることを述べている。学習者にとって漢字の成り立ちはストーリー仕立てで意味を理解することができ、漢字習得の際の大きな手助けとなるが、成り立ちが不明であったり複数説があることにより混乱させることもあるから、そのときは素直に覚える方が良いようだ。

 そして「脆」は「月」と「危」の2つからなる会意文字という見方が強いようだが、かなりの数の異体字が存在する。異体字は手書きだったからこそ発生した文字たちだ。結局、形声文字ではないにしても、どのような成り立ちであるかは定かではない。

参考文献

加納千恵子,1993,「漢字の造字成分に関する一考察(2)――形声文字の音符について」『文藝言語研究』(24): 97-114.
Krings, Sabine,2014,「漢字の音符を教える利点についての一考察」『JSL漢字学習研究会誌』6: 68-74.
奥田俊博,2012,「小学校国語科教育における漢字の由来に関する指導について――会意文字・形声文字を中心に」『九州女子大学紀要』49(1): 205-219.

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