初心者の好運でタラウェラ湖で鱒をしとめる=英語やっててよかったシリーズ(その4)=
英語をやってて楽しかったことが全くなかったわけじゃない
長年英語教師をやってきたのだけれど、気分的には晴れることなく、常にもやもや感の残る毎日だった。
それでも、英語をやってて良かったと思えることが全くなかったわけじゃない。英語をやってて良かったと感じた数少ない経験を書き残しておくのも精神衛生上よいことかもしれない。
今回は、英語と直接は関わらないけど、海外滞在の副産物ということでアウトドアのアクティビティですね。それと、アイルランドなど、海外事情を知ることも、英語学習では大切ですね。
20年前のニュージーランド滞在のときのフライフィッシングの思い出
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アンドリューも仕事の関係で、昼食後、帰ることになった。
南アフリカ出身のチャールズも昨日帰っているから、これですでに三人が帰ったことになる。
アンドリューとも、きちんと挨拶をして別れた。
生徒は私も含めてすでに3人しかいないので、講師レイのオンボロ車で、マイケルとデイブそして私とで最後の釣りに出かけることになった。
生徒の中では、今回残ったこの三人がおそらく一番あか抜けないグループなのかもしれない。エドワードもアンドリューも喋りが得意だし、特にエドワードはスマートでクールだ。喋くりの二人がいなくなったせいで、心なしか、アイリッシュのマイケルが喋り上手になっている気がして、たまたまブラーニー城のブラーニーストーンの話になった。
アイルランドのブラニー城のブラニーストーン ー海外事情を知ることも大切ですー
ブラーニーストーンはアイルランドのブラーニー城にあり、キスをすると雄弁になると言われている石のことだが、いま書いたように、観光客がこの石にキスをすることで有名で、私もこのブラーニーストーンについてはロンリープラネットを熟読する癖があって知っていたから、そのことを話題にすると、四分の一はアイリッシュが入っていると自称する講師のレイが、あの石は観光客がいないときに小便をする奴が多いことでも有名で、俺は絶対にキスなんかしないと言ったから、一同大笑いになった。
5年ほど前に家族全員でアイルランドに小旅行に出かけたことがあって、そのアイルランド旅行中、時間が足りず、このブラーニーストーンへは行けなかったのだが、行っていたらイギリス語が少しでも得意になるようにと必ず私はキスしていたことだろう。
まさに危機一髪、危ないところだった。
ロトルア付近のタラウェラ湖
さて、この少しさえない三人組の今回の行き先は、タラウェラ街道沿いのブルーレイク、グリーンレイクを越えた先にあるタラウェラ湖である。
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この近くのロトマハナ湖は、パートナーと一緒に訪れたことがあるので、私にとってこのあたりは少しは馴染みのある場所だ。
ロトルア付近は面白いところが少なくない。
マスが釣れようが釣れまいが湖でのキャスティングは気持ちがいい
タラウェラ湖に着いて、講師レイに、何のフライがよいかと、フライの入った箱を開けて尋ねてみたら、フライフィッシングの教室で私が作ったフライを試してみようじゃないかと言う。
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レイに仕掛けをつくってもらって、ウェーダーを履いて、私もタラウェラ湖に入る。
ときたま小雨が降るが、右手にタラウェラ山を見ながらの湖での釣りは毎度のように気分がいい。
キャスティングは、スナップをきかさず、手首と手を固定し、後に強く引いて時計の1時のところでストップし、前に強くフォワードすることを注意されるが、なかなかキャスティングはむずかしい。それでも、昨日のように、ラインが絡むことはほとんど無くなっていた。
キャスティング後は、フライが沈むのに、10くらい数えてから、ラインを引き始める。インディケーターを使うことの少ない夜釣りや日中の湖の釣りでは、魚のあたりがすぐわかるように、棹を低くして、棹とラインがたるまないように真っ直ぐにすることが肝心ということは教わっていて、これはすでに身につけた。ラインを引く際には、リズミカルに、チョンチョンと引いたりすることが魚の食い気を誘う意味で効果的であるということもすでに講師のレイから学んだ。
タラウェラ山方向にマイケル、そして更に向こうにデイブがいる。
時折、彼らのキャスティングする音、ムチが空気を切るような、ヒューヒューという音が聞こえる。
前を見ると、湖には、鴨や白鳥が静かに移動している。
講師のレイは、われわれ三人のいるところを交互にまわり、風の方向や、湖の中の水の流れについてなど、いろいろな情報と技術を教えてくれる。
キャスティングがうまくいっているときでも、向かい風のときは、さすがに距離が出ない。けれども追い風のときは、下手くそな私のキャスティングでも、なんだかいっぱしの釣り師になったようにラインの距離が出て、気分がいい。
魚が釣れようが釣れまいが、こうして湖でのフライフィッシングは気持ちがいいものだ。
はるか前方遠くで、銀色に光るマスが飛び跳ねた
いつものようにそんなことを考えながら、キャスティングをしたあとで、ラインを引いて、手繰り寄せていると、なにかあたりがある。
すると、はるか前方遠くで、銀色に光るマスが飛び跳ねた。
興奮して私が叫び声をあげると(魚を捕らえたこういうときには、"I got the bastard!"と言うらしい)、マイケルの面倒をみていた講師のレイが、私の方を向いて、「棹をあげろ」「魚が逃げ始めたら、ラインを放して行かせろ」「ラインはゆるめず、巻けるときに巻け」と叫んだ。
実際、マスが逃げるときは、ものすごいスピードだ。
ジーッとうるさい音を立てながらリールが勝手に回りだす。
私も棹をあげながら、巻き返す。
また遠くで魚が身体をくねらせ光りながら飛び上がった。こいつは、かなりの大物だ。
獲物と私とのファイトには結構な時間がかかったような気がする。さすがにこいつもくたびれたようだ。ネットを持っていなかったことに気づいたが、「棹を上空に向けて上げながら、岸辺にそのまま近づけ」とレイが私に言う。
浅瀬で銀色に光るマスが横たわっている。それでも最後にひと暴れする元気は持ち合わせているようだ。
「すでにかなりのストレスがかかって魚はくたびれているから、口を、水面から少し出すようなかたちで、そのまま岸辺の方まで引いて来い」とレイが言う。
水面よりもマスの頭を少し上に持ち上げるような格好で引いてきて、岸辺付近でレイが魚を取り上げると、背びれが緑色で、身体全体は銀色の美しいレインボー・トラウトだった。
「きれいな魚だ」("Beautiful fish!")と、レイが私に顔を向けて繰り返す。
今回は私も、昨日のような子ども扱いをされず、自らキャスティングして釣り上げた大物だからなんとも嬉しい。
レイも嬉しそうに、湖で釣りに集中しているマイケルに向かって、「奴は、俺のフライフィッシング講座で作った自作のフライで、こいつを釣り上げたぞ」と叫んだ。
そう言えば、そうだった。
夢中になっていたから気がつかなかったが、自分で作ったフライで釣り上げたのだった。これは何とも二重に嬉しいことだ。
レイは、いつものように腰にぶらさげているこん棒で、マスの頭を数回殴って魚をしめた。
それにしても大きなマスだ。
人間の肩幅くらいの大きさは楽にある。中型。60センチ、3キロくらいはあるだろう。鱒と鮭は同種類の魚だが、日本なら、この大きさからして鮭と間違うだろう。
ニュージーランドではゲームフィッシングのためのマスの養殖が盛んだ
「こいつは俺のところで育てた奴だ。こいつは二年ものだろう」と、魚を見ながら、レイが言った。
釣り上げた獲物を持って、レイと一緒に、デジタルカメラで記念撮影。写真は、マイケルに撮ってもらった。
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マイケルとデイブも昨日釣り上げて、釣ったマスをリリースしているので、私の釣った魚で記念撮影ということになった。
彼らがその写真を他人に見せて、俺が釣ったんだと言っても、あながちこれは嘘にはならない。