厭戦歌となった"White Christmas"(38WPM) =英語教材のお話(その21)=

やはり「ホワイト・クリスマス」はクリスマスソングとしてははずせない

 ラスヴェガスで日々ビッグショーをやっていた程度のイメージしかなく、もともとファンでなかったエルヴィス・プレスリーでしたが、1968年のカムバックショーを見て以来、認識をあらたにしたエルヴィスです。やはり King of Rock 'n' Roll であったかと深い敬意を払うようになりました。
 基本、クリスマスソングにも興味はありませんでしたが、今回、エルヴィスのクリスマスソングを一挙に聞いて、やはり「ホワイト・クリスマス」について触れないわけにはいかなくなりました。

ビング・クロスビーのホワイト・クリスマス

 エルヴィスの「ホワイト・クリスマス」を聞いて、すこし調べてみたのですが、オリジナルがビング・クロスビーの "White Christmas" で、これが、"I'll Be Home for Christmas" と同様に、第二次世界大戦中の1942年にリリースされました。
 第二次世界大戦中、これが前線の兵士たちや故郷に残された家族たちにとって、郷愁や平和への願いを象徴する特別な歌となりました。多くの兵士たちが戦地でクリスマスを過ごし故郷に帰れない中で、"White Christmas" は涙を誘うほどの共感を呼んだといいます。この曲自体は反戦歌ではありませんが、歌詞に込められた平和なクリスマスの風景や家族との再会といったイメージは、眼の前の戦争の現実との対比によって、自然と厭戦意識を掻き立てられたのではないかと推測されます。
 ビング・クロスビーがUSO(United Service Organizations)を通じて戦地を慰問し、兵士たちにこの歌を直接届けたことで、さらに深い意味を持つ歌として刻まれたようで、第二次世界大戦中、彼が戦地で慰問公演を行った際、"White Christmas"が最もリクエストが多かったと言われています。前線でビング・クロスビーが"White Christmas"を歌ったときは、多くの兵士が涙を流したといいます。兵士にとってこの歌は、家に帰りたいという彼らの切なる願いを象徴していたのです。
 ビング・クロスビーは、あくまでもエンターテイナーとしての役割に徹していたと思われますが、それが結果として、平和や希望のメッセージとなったわけです。

"White Christmas"という歌の意味を少し解説すると

 "I'm dreaming of a white Christmas"は、時制でいえば現在進行形ですね。まさに「いま夢見ている」。この of は about の意味。大昔にこの歌を聞いたとき、of a が over に聞こえた記憶があります。
 "Just like the ones I used to know"では、ones はいわゆる不定代名詞。ここではホワイトクリスマスの代用として使われていて複数形です。used to do something は「過去の習慣」をあらわします。"Just like the ones I used to know"は、「まさに昔から知ってる何度も経験したホワイトクリスマスのように」という意味になります。
 Where the treetops glisten「木の梢は輝いて」ということ。And children listenは、「子どもたちは耳を澄ませて」ということ。listen と hear の違いはジルさんの授業でやりましたね。glisten と listen はもちろん韻を踏んでいます。
 To hear sleigh bells in the snowは、「雪の中に響くソリの鈴の音を聞く」ということ。
 With every Christmas card I write「一枚一枚クリスマスカードを書くたびに」。every はひとつひとつと指さして数える感覚で「みんな」となります。だからevery は単数で受けます。
 May your days be merry and brightは、いわゆる祈願文。「あなたの毎日が楽しく輝きますように」という意。
 And may all your Christmases be white は、「そして、すべてのクリスマスが白くありますように」ということですが、個人的には、この white が気になります。そもそも 題名が "White Christmas" ですから、ホワイト・クリスマスという表現が白銀である雪から来ていることは間違いありませんが、白のもつイメージとも重なっていることでしょう。さらに、bright と韻を踏むこととも関係していると思われます。
 くり返しになりますが、そもそも "White Christmas" がタイトルですから、言ってみれば、"And may all your Christmases be white" は、とどめを刺すコトバ(clincher)であり、決め台詞なわけです。

1960年代の公民権運動のなかでの意味論的闘いにおけるブラックとホワイト

 「ホワイトが気になります」と書いたのは、1960年代の黒人意識向上運動の意味論的たたかいが脳裏に浮かんだからです。
 1960年代、白は純粋で、黒は汚いと定義する辞書がウソだと、そのようにブラックパワーが主張し始めたことは現代の高校生にも記憶にとどめておいてほしいところです。
 つまり "White Christmas" は、60年代のブラックパワーの批判に抵触しなかったのか、そして今も抵触しないのか、という問題意識です。
 1960年代には、公民権運動の高まりとともに、ホワイトが純粋で、ブラックは汚れた、不吉なといった言葉の使われ方に対する批判が起こりました。今回この点を生成AIに聞いてみましたが、"White Christmas" に関しては、こうした批判の対象にはならなかったようです。この歌が、人種問題とは無関係であることが広く認識されていたため、特定の人種的批判や議論の対象になることはほとんどなかったようです。"White Christmas" は戦時下において平和や故郷への憧れを象徴する歌として受け入れられました。その純粋なテーマゆえに、人種的・政治的な批判や議論の対象にはならなかったようです。

BTSのビング・クロスビーとのコラボヴァージョンの「ホワイト・クリスマス」

 全く詳しくありませんが、韓国の人気K-POPグループの BTS。その BTS のメンバーの一人のV(ヴィ)。そのVとビング・クロスビーとのコラボで「Bing Crosby x V (of BTS) – White Christmas」という楽曲があることを初めて知りました。伝説的歌手であるビング・クロスビーと、現代のポップアイコン V がデジタル技術によって共演したヴァージョンです。
 こうしたコラボレーションは、世代や国境を越えた音楽の力を象徴し、幅広いリスナーに感動を与えるでしょうね。
 さすがです。

エリック・クラプトンの「ホワイト・クリスマス」

 黒人文化からブルーズを学んだイギリス生まれのエリック・クラプトンのアニメ版というおもしろいヴァージョンもあります。
 この自伝的アニメは、イギリスの中産階層の師弟がアメリカ合州国のブルーズにいかに惹かれ、いかに多大な影響を受けたかよくわかる秀逸なアニメになっています。実際繰り返し観てしまいました。

エルヴィス・プレスリーの「ホワイト・クリスマス」

 エルヴィス・プレスリーのヴァージョンも載せておきますね。
 エルヴィスがビング・クロスビーを意識しすぎたのか、いつになく、かなりキワモノのヴォーカルを聞かせてくれます。

ビング・クロスビーの"White Christmas" の WPM は38WPM

 さて、高校生のみなさんのために、ビング・クロスビー版 "White Christmas" の WPM (1分間の語数)をはかってみました。
 全語数が108語。時間が2分49秒。WPMは、38WPMでした。 
 次回、高校生のあなたが「ホワイト・クリスマス」を聴くときには、厭戦気分で聴いてもらえると、「ホワイト・クリスマス」という曲にとっても本望となることでしょう。

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