外国語学習を効果的におこないたいときに用意しなければならないもの=学習方法のお話(その5)=

「言語」学習と「言語活動」学習の両方を意識してやるとよい

 外国語学習を効果的におこないたいときに用意しなければならないものについてお話する前の前提として、外国語学習方法についてひとつだけ強調しておきますと、外国語学習の方法としては、「言語」の学習と、「言語活動」の学習と、両方やらなければならない、両方やるとよいということです。
 「言語」と「言語活動」との違いと関連については、今後も繰り返し、お話することがあると思うので、この点を頭に入れておいて下さい。

学習目的と動機づけと意欲、そして調査能力

 さて、外国語学習を効果的におこないたいときに用意しなければならないもの。そのひとつは目的です。
 高校生のあなたは、なぜ英語を積極的に学ぼうとしているのですか。
 簡単にマスターできない英語の外国語能力を高めるには、一般論ではなく、きわめて個人的なものとしての、学習目的と動機づけと意欲、さらに調査能力が必要になってきます。
 私も長年英語教師をやってきましたから、学習目的については、いろいろと言えます。まぁ正直はぐらかしてごまかすこともできます。でも、高校生ひとり一人が説得され納得しなければ意味がありません。
 たとえば、野球部の生徒が、大谷翔平投手のように、将来MLBに挑戦したいから英語をやるとか、個人的な目的や動機づけや意欲が決定的かなと感じます。犯罪でなければ、これはなんでもよいので、自分独自の関心をもちましょう。隣にいる高校生とあなたは違うのです。これは大声では言えませんが、「必要もないのにやらされてやっても意味がない」と強調したい気持ちが実は私にはあります。
 外国語とはわからないもの、いろいろと自分で調べてわかるようにしなければならないものです。辞書はもちろん、聞く、教わる、自分で調べることが不可欠です。この点、インターネットもふくめてオンライン環境が活用できるので、注意しながら、いろいろなツールを使って、自主的・調査能力を高めていきましょう。英語学習にかぎらず、これからの世界を生きる高校生にとってこれはすでに必要とされる能力になってきていますね。
 学習目的と動機づけと意欲、そして調査能力も、外国語学習の際に用意しておかなければならないものです。

テキスト教材・音声教材を用意していろいろな環境で使えるようにしよう

 さて、いよいよ具体的に、外国語学習の際に用意しておかなければならないものについて触れます。それは何かといえば、あたりまえのことですが、テキスト教材・音声教材を用意しなければなりません。
 音声とテキストを準備するのは当たり前のことですが、どういう音声とテキストを用意しなければならないのか。
 それは、目的のところで説明しました、あなたの興味のあることに限ります。あなたが意欲のもてる、わかりたいという気持ちになれるもの。調査も厭わない対象となる教材です。
 英語ならとりあえず何でもアクセスしてみようという気持ちになるのは共感できるのですが、やはり対象をもっと制限してみたい。
 いまの時代なら、それが可能ではないでしょうか。
 「内容」と「段取り」でいうと、以上は「内容」のお話。今度は「段取り」で言うと⋯。
 音声教材の場合、ラジオやポッドキャストのように、音声だけのもの。こうした動画のない音声だけの教材は集中して聞くことができる利点があります。また、機材も、周囲の騒音を消音することのできるヘッドフォンをつかうとか、音声を聞く環境も考えたいものです。
 また動画で音声が流れるものは、動画の画像を通じてすでに多くの情報を得ながら音声を聞く環境であることに留意が必要です。動画つきの音声は、メリットもデメリットもあるということです。さらに、字幕が活用できる動画であるとか、テキストがダウンロードできるものとか、外国語学習に役立つ教材は、細かな点もチェックして、あれこれと条件を自主的に変えて活用することも大切です。
 たとえば、洋画を見るとき、まず日本語吹替えで見る。字幕ありで見る。字幕なしで見る。映像なしで音声だけで聞く、などさまざまな条件や環境を考慮に入れて、あれこれとアクセスすることが肝心です。

繰り返し何度でも、味わいつくす、消費する、楽しむことがポイントです

 長年英語教師をしてきましたから、我が家には、「言語」学習関連でいうと、たくさんの本・洋書・ガイドブック・新聞・雑誌・辞書があります。また「言語活動」学習関連では、レコード・テープ・CD・MD・ビデオ・DVDがあります。実はこれは「ありました」と書きたいところなのですが、いまいわゆる断捨離中なのです。テープ・ビデオ・MDはあらかた処分しましたが、まだ継続中です。
 それはともかく、いまは YouTube がありますから、英語学習教材の単価はその価値ががくんと落ちて、高校生のみなさんはお金を出さずに膨大な英語教材にアクセスできます。これを活用しない手はありません。
 ただし、逆に、あまりにも厖大過ぎて、何を教材にしたらよいのかわからない、さらには、膨大にあることに安心して、結局やらないという問題が生じているかもしれません。
 私も、生徒向けのためにとっておこうと、取っておいただけの積読の教材も実は多いのですが、想像されるように、教材は持っているだけではちっとも賢くなりません。教材は、くり返し何度でも味わいつくす、きちんと消費する、なにより楽しむ姿勢が大切です。この意味で、今日私のように教材をたくさん集める必要は全くありません。収集自体を楽しんでいるのは、収集家の好事であり、収集そのもの自体は、外国語習得には全く役に立たないものなのです。

外国語学習を効果的におこないたいときに用意しなければならないもの、それはなんてったって時間でしょう

 母語にしても、第二言語にしても、外国語にしても、コトバの習得にはなんと言っても時間が必要です。
 実はつまらぬことに時間を取られる日本社会では、こうした本当に割くべき必要な時間の確保が最も難しいのではないですか。
 だから、時間貧乏な私たちは、英語とどこまでつき合うのか、限定を考える必要があります。
 漫然と、与えられたからやるのではなく、自分の人生にとって英語の何が必要なのか。もし英語なんて必要ない、私には韓国語が必要だという人がいれば、それは個人の生き方として尊重されなければならないのではありませんか(なぜ日本では外国語が選択できないのでしょう)。
 たとえ英語をやるにしても、読み書きに強くなりたいのか。聞いて話せる会話能力を伸ばしたいのか。スピーキング力は少しでよくて、むしろリスニング理解を伸ばしたいのか。やるにしでどこまで行きたいのか、イメージしておくことも無駄でないどころか、効果的であると思います。
 外国語学習は、こうして、時間の管理学が必要になってくるのです。

もうひとつ大切なものは言語環境です

 書き忘れてました。もうひとつ、決定的に重要なものは言語環境です。必要性のあるアウトプットというものを考える際に言えることは、日本の言語環境で必要なモノ、それは日本語です。アメリカ合州国の言語環境で必要なモノ、それはアメリカ英語です。

もう一つあるとすれば挫折と奮起でしょう

 私たちは島国育ちで温室育ちのところがあります。国際的な交流に全く慣れておりません。挫折と奮起も用意すべき必要なものと言えるでしょう。

BBC Learning English を例にとってみましょう

 英語学習者向けのBBC Learning English という番組があります。
 最近のニュースである韓国の戒厳令危機についてアップされていました。

 もし高校生のあなたが国際情勢に興味がある。あるいは、お隣りの国だから知っておかないと、と考えたとします。
 サイトで見るなら、これは、リーディングになるわけですね。読者のスピードで自由に読めますから、これは、「言語」学習です。

YouTubeなどの動画をリスニングすれば「言語活動」学習になります

 BBCですから、イギリス英語です。
 フィルという男性とべスという女性のふたりの会話時間は、7分33秒。全語数は1098 語。145WPMでした。
 この二人の会話は、「韓国の政治危機」を話題にして、ストーリーを語り、各「新聞の見出し」である3つの見出しをネタにして、語彙的な説明をしています。時間にして7分とちょっとですから、さっと終わってしまいます。
 この二人の会話で紹介されるストーリーは、先ほど紹介したBBC Learning English のサイトのほうにもテキストとして載っていて、サイトを読んでいれば、内容的に同じものなのですから、リスニングの際もそれが生かされると思います。
 言いたいことは、テキストと音声のそれぞれをチェックして、「言語」学習的にテキストを読んだり、「言語活動」学習的にテキストを聞いたりすることを、行ったり来たりして、繰り返して学習するのが学習方法としておすすめだということです。

ノートを清書するより英語そのものにアクセスすることに時間を使おう

 わからなかった単語を書き留めて単語帳をつくることも、ときに大切です。否定はしません。ただし、初級者にも役立つかもしれませんが、上級者のほうが、より活用できるかもしれませんね。
 高校生のときのわたしは、きちんとノートにとるような学生でした。記録としてそれが残っている意味もありますし、それはそれで、地道な勉強が力になったと思います。けれども、もし清書する時間があるのであれば、その時間をもっと英語そのものにアクセスする時間に割いたほうが良かったのではないかとも思っています。でも当時は教材そのものが貴重でしたから仕方ありませんでした。
 そもそも、本のところでも積読のお話しましたが、本を持っているから、単語帳に書いたから、ノートに記録したからといって、それが外国語学習の成果として身についたかといえば、そんなに簡単に身につくのであれば、そもそも苦労はしません。

語彙学習においては頻度数が決定的に重要

 けれども、英語にアクセスする時間を割けば割くほど、「あ、この単語、また出てきた。前に調べたんだけど、どういう意味だったかな」という経験は、語彙学習あるあるです。
 単語は、人間関係と同じだというアナロジーをよく生徒に言ってきました。高校生のあなたにも、たくさん時間をつき合っている人、付き合わなければならない人と、年に1回くらい、さらには4年に1回くらいしか、つき合わない人もいますよね。病気でもない限り家族を忘れる人はいませんが、遠い親戚で「ほら、田舎からやって来たおじさんで、お年玉だってもらったじゃないの。このおじさんに」と言われても、8年前にしか会ってないおじさんであれば覚えていないのが普通です。単語もこれと同じなのです。つまり、決定的な要因は頻度数ということです。

語彙のもっている意味を認識する作業は、彫刻刀をもって時間をかけて彫刻をつくるようなもの

 water はもちろん、水という名詞ですが、これが、水をやるという動詞に使われるのを見て、「ああ、water という名詞は動詞にもなるんだ」という認識を得ます。
 壊すという動詞の break も名詞になり、"Give me a break." となれば、「かんべんしてよ」という口語になります。
 単語は、基本的な意味から、派生して、多義性を得ます。
 これは、「言語活動」の中で、いろいろと言語活動が展開されて、表現として豊かになり、今度はそれが「言語」となって定着するものは定着し、今度は、その「言語」をコマとして用いて、創造的「言語活動」をおこなうという、言語と言語活動とは相互媒介的に統一された関係にあります。
 外国語習得としての語彙習得は、こうして、彫刻刀をもって時間をかけて彫刻をつくるようなものではないかと思います。だから、それは過程であり、習得にも終わりがないと。習得過程はデジでなくアナログなのです。

日英辞書、英英辞書、そして語源辞典

 そもそも、日本語と英語ほど、言語間の距離が離れている言語は、A=Bのように、一義的に対応していません。ですから、英日辞書を使うなら、定義を縦に読んで全体的イメージをつかむことが重要ですし、高3くらいになれば、いわゆる英英辞典を使ってほしい。そういう日が遠からず来ます。高3くらいになれば、接頭辞や接尾辞、語幹のもっている語源学習も効果的だと思います。



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