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レゲエを通して見える、人々の生活、感情

「夏だレゲエだ」という世間一般が抱く概念はどこから来ているのか。きっとジャマイカが美しいカリブ海に浮かぶ常夏の島国だからなのでしょうが、あの世界的スーパーレジェンド、ボブ・マーリーですら、〜海辺でゆったりのんびり〜といった類の楽曲はほとんど歌っていません。

レゲエの真髄は、心の叫びを表したメッセージ性であると思っています。それはメントからスカが生まれ、ロックステディを経てレゲエとなり、ダブやダンスホールへと発展していった過程で常に重要視されてきた部分であり、社会体制への批評、情熱的なラブソング、育った環境への感謝まで、幅広い感情が表現されています。

今回はそんな等身大の想いが込められた筆者のおすすめ作品を、年代別にご紹介します。

文:小池杜季(Ecostore Records)

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Bob Andy / Song Book(1972年発表)


ロックステディ。ジャマイカの老舗レーベルStudio One=スタワン、そしてロックステディを代表する大傑作。60年代から活躍したコーラスグループ ”パラゴンズ”のオリジナルメンバーとして活躍後、ソロでもその才能は健在。聴き手がどんな感情であっても寄り添ってくれる、優しい歌声が素晴らしいシンガーです。捨て曲どころか、一秒たりとも退屈な瞬間がない、ジャマイカ音楽史に残る名盤。年代的にロックステディからレゲエへ移り変わる時代で、黎明期であったルーツレゲエの予感もほんのり感じることができます。

土埃の匂いがするような、人間的な温もりを持つ作品は是非ともレコードで聴きたいですよね。


Linton Kwesi Johnson / Bass Culture(1980年発表)


ダブポエトリー。ダブミュージックに詩を乗せ朗読する《ダブポエトリー》というスタイルを確立した、リントン・クウェシ・ジョンソンの3rdアルバム。大枠のジャンルはレゲエやダブとして括られますが、そのどちらでもあり、またそのどちらでもない、正に唯一無二なアルバムが本作。

社会体制への批判や、移民としての苦悩など、反骨精神や赤裸々な感情を露にしたレゲエらしい内容が詩に落とし込まれており、音楽でありながら非常に文学的な作品。プロデュースはUKレゲエの巨匠 デニス・ボーヴェル。ディープなダブサウンドをベースにしつつ、ジャジーなテイストも加えられており、どろっとしすぎていない耳馴染みの良さがあります。そこも名盤と呼ばれる所以の一つでしょう。素晴らしい音楽の上に、一言一言、言葉を置いていくようなフロウ。レゲエでもダブでもダンスホールでもない《ダブポエトリー》を体感してみてはいかがでしょうか。


Dennis Brown / Love Has Found Its Way(1982年発表)


ルーツレゲエ。ラスタらしいコンシャスなリリックから、情熱的なラブソングまで、幅広いメッセージを世に放ってきたデニス・ブラウン。プリンス・オブ・レゲエの異名を持つ彼ですが、本作はそんな彼の魅力が最大限に発揮された、愛をテーマとした作品。ウィリー・リンドとジョー・ギブス共同プロデュースのもと制作され、世界的なヒットを記録した傑作です。特に表題曲は80年代のレゲエを代表するラバーズソング。レゲエ独特の泥臭さが一切なく、都会的で洗練されたサウンドと彼の甘い歌声が絶妙にマッチしたメロウで美しい一曲です。他、ディスコテイストな要素や、王道ルーツレゲエなども盛り込まれたバラエティ豊かなアルバムに仕上がっています。メジャーレーベルからのリリースなだけあり、ビギナーでも比較的聴き易いレゲエアルバムです。


Garnett Silk / It's Growing(1992年発表)


コンシャス・ラガ。当時「ボブ・マーリーの再来」とまで言われた実力者。透き通るような美しいヴォーカルを活かし、当時主流であったセクシーなダンスホールとは真反対の、コンシャスと呼ばれるシリアスで真面目な楽曲を多く生み出してきました。その歌詞の深みや質感が「ボブ・マーリーの再来」と巷で囁かれていた所以でしょう。そして彼もまたラスタファリアニズムを掲げたアーティスト。確固たる人生観を持ち合わせたラスタの人々が書くリリックは、我々非ラスタの人間の心にも響きます。
そんな彼は94年、人気絶頂の中、事件に巻き込まれ生涯を終えています。非常に短い活動期間でありながらも、90年代を代表するアーティストの一人として現在でも世界中で聴き続けられている素晴らしきシンガーなのです。
表題曲である「It's Growing」は今なお多くのレゲエファンを躍らせ続けている、ダンスホール鉄板ソング。アルバム全体を通して、伸びやかな歌声の中に強い生命力を感じる彼の1stアルバムです。90s クラシック。



Protoje / A Matter Of Time(2018年発表)


ニュールーツ。近年、ラスタミュージシャンを中心に、ルーツレゲエ・リバイバルが世界的な盛り上がりを見せています。彼はそのムーブメントの中核的存在に位置するアーティストで、シングジェイと呼ばれる、ダンスホールのDEEJAYフロウとシンガースタイルの中間的歌唱スタイルを武器に、新たなレゲエを奏で続けています。本作はトラックからしてもかなりダークに寄せているのだなという印象。常に気が張り詰めているような、臨場感溢れる楽曲には社会情勢への不満や苦しみの現状、”REBEL=反逆”な内容が乗せられています。18年作品らしいクリアでシャープなダンスホールテイストのサウンドにもセンスが光る。

時代の流行も汲み取りつつ、ラスタらしくルーツの魂も込められた傑作です。




今回、メッセージに重きを置き作品を紹介しましたが、勿論どのアルバムも素晴らしい音楽性を持っています。音楽はあくまで聴いて嗜むコンテンツであるので、最も大切なのは聴いていて心が動くかどうか。自分の耳に合う音楽を見つけたうえで、文化や歴史背景、歌詞の意味、込められたメッセージを探求していくのも面白いかもしれません。音楽に限らず、カルチャーに触れることは、自分とは異なる場所、時代を生きた人々の生活や感情を疑似的に体感することができる点において、非常に興味深いことだと感じています。その文化や思想に染まり切らなくてもよいのです。各々の楽しみ方で音楽を聴いて頂けたら、レコードに携わる人間として嬉しく思います。

筆者紹介:
小池杜季(こいけ・とき)
中央線生まれ中央線育ち中央線在住。毎日がRoad to Jamaica。

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