<昭和レトロ>最高のレコード体験を味わえる不朽のジャズ名作4選
みなさんはかつてレコードを買って聴いた世代でしょうか。それとも、これまでレコードとは縁がない世代でしょうか。
レコードというのは盤面の溝に音楽の振動が刻まれていて、そこにレコード針の先端が接触することで振動を発生させます。その振動はカートリッジで電気信号へと変換され、さらにアンプがその信号を増幅させることでスピーカーから音楽が流れるというメカニズム。2000年以降のデジタル時代にうまれた人々にとっては何とも不思議な仕組みかも。古き良き昭和にはプレーヤーでレコードを楽しむ光景が家庭にはありました。今ではスマホひとつでどこでも音楽が聴ける時代。驚くほど便利な世界になりましたね。
そんな便利な今こそ、あえて手間暇(てまひま)かかるレコードで音楽を楽しむことを大提案。レコードが目の前でくるくると回る40分間、物思いにふけながら音楽とじっくり向き合う。なかなか趣があってステキな時間なんです。今回は、レコードは久しく聴いていない、そして興味はあるがまだ聴いたことがないという方にジャズの名作レコードをご紹介。手頃なものだと数百円で購入できる中古レコードがあり、1万円以下で購入できる新品プレーヤーもありますから、この機会にレトロなレコードの世界へと飛び込んでみてください。
文:福田俊一(Ecostore Records)
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Modern Jazz Quartet / European Concert: Vol.1(1960年録音)
モダン・ジャズ・カルテットは52年に結成。ミルト・ジャクソン(vib)、ジョン・ルイス(p)、パーシー・ヒース(b)、コニー・ケイ(ds)からなる4人組グループ。ピアニストのルイスによる影響のため、ビバップにクラシックのエッセンスを取り入れ、洗練された上品なサウンドが特徴です。本作は60年欧州ツアー中に録音されたスウェーデン・ストックホルムでのライブ作品。軽快なリズムで心地良くスウィングし、ブルースの苦味がフワッと口に広がる「ブルーソロジー」、ジャクソン奏でるヴィブラフォンの余韻が何とも美しいバラード「アイ・シュッド・ケア」「クリフォードの想い出」など秀逸。演奏後、聴衆による万雷の拍手で感動はピークに達します。
Al Cohn - Zoot Sims / From A To Z(1956年録音)
40年代にウディ・ハーマン楽団で人気を博した花形テナーサックス奏者、アル・コーンとズート・シムズによる1枚。それぞれ評価が高いプレーヤーであり数多くのリーダー作を残したふたりですが、50年代から<アル&ズート>コンビとしても活躍。双頭リーダー作を多数吹き込みました。共演はのちに30年間にも渡って続きましたが、こちらはその記念すべき初コラボ盤。テナー×2に加えてトランペット奏者ディック・シャーマンを迎えた3管編成のフロントセクションは音の厚みが抜群。コーンとシムズが余裕綽々で奏でるゴージャスなソロはどれも聴きごたえバッチリ。
Carmen McRae / Book Of Ballads(1958年録音)
ジャズ界屈指の歌手、カーメン・マクレーによるタイトル通りのバラードアルバム。彼女の持ち味は凛と溌剌とした力強い唄声。優美なオーケストラの伴奏をバックに、舞い踊るようなマクレーの唄声は思わず息を呑む美しさ。「イズント・イット・ロマンティック?」など、恋に関連した楽曲12曲を繊細かつ大胆に歌い上げます。ジャケットから盤を取り出してプレーヤーに乗せて再生ボタンを押す。ターンテーブルが音もなく静かに回りはじめると、針先に音溝が触れた瞬間、スピーカーから流れるサウンドが全身をフワッと柔らかく包み込む。部屋いっぱいに広がる恋物語。こころの底から夢見心地になること間違いありません。
Charlie Parker / Now's The Time(1952, 53年録音)
偉大なるアルトサックス奏者=チャーリー・パーカーによる《ヴァーヴ》への録音作品。彼の名声はその優れた演奏技術だけでなく、ビバップというスタイルを生み出した功績にもあります。ビバップはのちにモダンジャズの礎となり、ジャズの歴史においてはとても大きな出来事でした。パーカーは心不全のため55年にわずか34歳という若さで逝去。本作はその2年後のリリースでした。ディジー・ガレスピーやマイルス・デイビスといったトランペット奏者ら、複数の管楽器をフロントに据えた録音が多い彼ですが、今回は<リズムセクション+パーカー>というワンホーンで吹き込んだ1枚。軽やかに繰り広げられるフレーズの数々。シンプルなカルテット編成だからこそ際立つ、彼の卓越したアドリブ(ソロ)が堪能できる傑作です。ああ、幸せ。
レコードは針を落として聴くことが醍醐味。音質の良さも魅力のひとつですが、大きなジャケットから盤を手で取り出し、時間と手間をかけてじっくり味わう。音楽と真摯に向き合うことでこころが休まる瞬間。なんて贅沢な時間なんでしょう。みなさんも味わい深い昭和レトロな世界をレコードでも堪能してください。