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あなたにも教えたい、ECMの美しい世界

「美」と「クオリティ」。そこに溶け込んで調和する「サウンド」。その美しいアートワークと、アーティストが奏でる繊細な音にはこだわりを感じます。1969年、当時まだ20代半ばだったドイツ人レコードプロデューサー兼ベース奏者、マンフレート・アイヒャー(Manfred Eicher)がジャズレーベル、ECMを設立しました。

それではECMの世界とは一体どんなものなのか、Ecostore Recordsがその魅力をあなたにお届けします。

文:福田俊一(Ecostore Records)


今回の記事作成にあたり参考にした資料

ECM公式サイト:https://www.ecmrecords.com/home / The New York Time紙記事(2009年12月23日掲載):「40 Years Old, a Musical House Without Walls」https://www.nytimes.com/2009/12/27/arts/music/27eicher.html / Geoff Andrew氏サイト内記事, 「Happy 50th birthday, ECM!」:https://geoffandrew.com/2020/01/10/happy-50th-birthday-ecm/

アイヒャーがECMを設立するまで


1943年7月9日、アイヒャーはドイツ・バイエルン州ボーデン湖に浮かぶ島にあるリンダウという街で音楽好きな両親のもとに誕生。ミュンヘンで過ごした幼少期はクラシック音楽を聴いて育ち、ヴァイオリンを習ったそう。14歳の時、ジャズに心奪われダブルベースを手にします。その後、イシュトヴァン・ケルテス指揮のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団で働きながら、アイヒャーは現地ドイツの即興演奏家やアメリカから来たミュージシャンと演奏し交流。熱心なジャズのレコードのコレクターだった彼は、そこで自分で作品を制作し録音することに興味を持ちます。

英国人映画評論家ジェフ・アンドリュー氏は自身のサイトで、アイヒャーへのこのようなインタビューを紹介しています。

「ミュンヘンにあるジャズ好きの店主がいるレコード店へ通っていると、『これでレコーディングをしてみろ』と金を渡された。それは思いがけもしない事だったのだが、音楽業界や金銭面についての知識が私には皆無だった。ドイツ・グラモフォンで制作アシスタントとして働いていた私は、ニューヨークで会ったことがあるチック・コリアやポール・ブレイらにそうして声をかけるようになった」出典:サイトgeoffandrew.com掲載記事「Happy 50th birthday, ECM!」より引用、日本語文は筆者訳


さらには、彼が2009年のニューヨーク・タイムズ紙に語ったところによると、「当時4,000ドルの価値だった16,000ドイツマルクを借り入れて会社を興した」のがECM設立までの成り行きだったそう。

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ECMの音、とは?


ECMというレーベル名は「Edition of Contemporary Music」の略で、同社がコンセプトとしたのは「The Most Beautiful Sound Next to Silence(静寂の次に美しいサウンド)」。そのサウンドは知性に富んでいて、深く、透き通るように繊細。アメリカのジャズとはまた違う特徴を持っています。

もう一つの特筆すべき点はそのアートワーク。独特な世界観はそのデザインにも現れており、”美”を強く印象付ける創造力が豊かで、もはや芸術の域に達するほど。サウンド面でもアートワークの芸術性でも、他にはない革新的ともいえる音楽に対する哲学で、ジャズの歴史に新たな1ページを刻んだのは言うまでもありません。同レーベルの初期作品を担ったのは、キース・ジャレット、チック・コリア、ポール・ブレイ、ゲイリー・バートン、パット・メセニー、ジャック・ディジョネットら米国ジャズシーンで活躍する名うてのミュージシャン達。

記念すべきレーベル第一作目は、ビリー・ホリデイの伴奏でも有名な米国人ピアニスト、マル・ウォルドロンの『フリー・アット・ラスト』でした。

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Mal Waldron / Free At Last(ECM 1001, 1970年発表)



他にも、1975年発表のキース・ジャレットの『ザ・ケルン・コンサート』は史上最も売れたソロ・ピアノ作品としても有名な1枚。また、1984年にはアルヴォ・ペルトの録音をはじめとする、New Seriesと名付けられた現代音楽・クラシック音楽に焦点を当てたシリーズを開始。



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Arvo Pärt / Tabula Rasa(ECM 1275, 1984年発表)



当初はジャズ専門のレーベルでしたがクラシック音楽、現代音楽の作品もリリース。多岐に渡る音楽性と共に、設立から50年以上を経て作品数が今では1,600タイトル以上にも及びます。



作品紹介


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Wolfgang Dauner / Output(ECM 1006 ST)

1970年リリース。内容を例えようとしても、”○○みたいな”や”○○っぽい”といった表現がもはや意味を成さないほど、実験的で破壊力抜群なその音はECMファンのみならず必聴。「ナッシング・トゥ・ディクレア」は録音から50年経った今聴いても格好いい楽曲です。未だにCD化されていない作品なので、聴くならやはりレコードで聴くのがお勧め。

一度見たら忘れられない、そのジャケットもインパクト大です。




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Chick Corea / Return To Forever(ECM 1022 ST)

キーボード奏者、チック・コリアの1972年発表のソロアルバム。60年代中頃まではストレートアヘッドなモダンジャズ作品で知的はピアノを披露していたコリア。68年にはマイルス・デイビスのバンドに加入、『ビッチェズ・ブリュー』等、エレクトリック・ジャズ期初期作品でキーボードをプレイし人気を集めました。その後、フリージャズ・グループ「サークル」を結成し即興演奏をするように。

しかし、転機は1972年、それまでのコリアの音楽とはまた更に異なる同作をリリースし大ヒット。ECMだけでなく、70年代のジャズをも代表する歴史的な作品に。直後には参加メンバー、ジョー・ファレル、スタンリー・クラーク、フローラ・プリム、そしてアイアート・モレイラと組んだ同名のグループ「リターン・トゥ・フォーエヴァー」を結成。当時のジャズシーンに大きな影響を与えることになりました。

海の水面を掠めるように飛ぶカモメの写真も美しい、印象的なジャケットです。




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Eberhard Weber Colours / Silent Feet(ECM 1107 ST)

ドイツ人ベーシスト、エバーハルド・ウェバーを中心として結成されたグループの1978年作。同グループには50年代から米国ジャズ界で活躍するサックス奏者 チャーリー・マリアーノの他、ピアノ奏者 ライナー・ブリューニングハウス、そして英国人ドラマー ジョン・マーシャルが参加。1曲目の「シリアスリー・ディープ」では、ウェバーのベースの音が響くと空間が果てしなく広がり、そこにふわりと漂うようなマリアーノのソプラノサックスの音色が何とも幻想的。まさにECMらしいサウンドで、聴いたことがない方にもお勧めです。




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Marc Johnson / Bass Desires(ECM 1299)

1986年リリース。70年代終わりにはあのビル・エヴァンスのバンドにも在籍した米国人ベーシスト、マーク・ジョンソン。そんな彼にとって初リーダー作となった1枚。コルトレーンの名作『至上の愛』から「決意」をカバー。同作には、ビル・フリゼール、そしてマイルスのバンドでも活動したジョン・スコフィールドという2人のギタリストが参加。また、ドラマーのピーター・アースキンも元ウェザーリポートで、彼は80年代にジョン・アバークロンビーらと共同名義で作品を2枚発表。90年代にはECMに自身のリーダー作を残しています。ファンの期待を裏切らない素晴らしい内容です。




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David Torn / Cloud About Mercury(ECM 1322)

1987年発表作品。米国人ギタリスト、デヴィッド・トーンにとって同レーベル2枚目となるリーダー作。参加したドラマー ビル・ブルーフォードとベース奏者トニー・レヴィンの2人はプログレッシブ・ロックの代表的バンド、キング・クリムゾンで活躍した元メンバー。ジャズに加えてロックの要素も感じさせる、ECMらしい、一つの音楽ジャンルに収まらない魅力たっぷりの一枚です。



思えば、ジャズの名門ブルーノートの創設者アルフレッド・ライオンもアイヒャーと同じくドイツ人。素晴らしき音楽、優れたジャズのDNAの元をたどれば共にドイツにあるのは不思議な縁を感じさせます。

先進的であり、芸術的。音楽性だけでなく、アートワークひとつとっても優秀なレーベルです。

ECMのレコード作品をカテゴライズするなら、ジャズやクラシックという枠組みにただ収めるのではなく、そのオリジナリティゆえに「ECMだ」と表現するのが実は相応しいのかもしれません。



筆者紹介:
福田俊一(ふくだ・しゅんいち)
FTF株式会社 IT事業部/販売部兼務。買取部門のコラムやnoteのほか、販売部門の特集コラムを執筆。大学卒業後にレコード収集に興味を持ち、約15年かけてジャズレーベル、ブルーノートの(ほぼ)すべてのLPをオリジナルで揃えた。


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