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#024 DMOのエリアマネジメントは事業の企画から実施まで一気通貫して行うことが重要(狂犬ツアー①)

日本全国で312の登録DMO(2024年9月24日時点)でありますが、多くのDMO(観光地域づくり法人)は、市役所の観光部局が企画立案した事業の実施機関となっています。

もちろん、市の観光部局も、DMO側に事業内容について、相談はしますが、予算を出す側として、主導権を持っていることが多いのが実情です。

そして、市観光部局が考えた事業を財政部局の費用対効果のチェックや市議会による内容のチェックを経て予算化されることになります。

で、最後に、DMOが実施することになるのですが、ここに問題点が潜んでいます。


1.行政が考えた事業をDMOが実施する問題点

(1) 責任の所在が不明確に

事業の企画者と実施者が異なることで、責任の所在が不明確になることが一番の問題になります。

万が一、事業がうまくいかなかった場合、事業の企画者たる市は、DMOの事業推進のやり方が悪かったから、事業がうまくいかなかったと主張し、DMO側は、そもそも事業の企画内容が悪かったから、成果を上げられないと主張する恐れがあります。

事業の企画者と実施者を一致させ、最終責任者を明確にすることで、よいプロジェクトが生まれます。

(2) 顧客理解が浅い人間が考えた事業はうまくいかない

観光客を誘客し、地域にお金を落としてもらい、地域経済の活性化を図る事業は、まさに、市場活動です。顧客(観光客)のことを理解し、顧客から地域が、選ばれる理由をつくる必要があります。

10月3日から5日に開催された長門湯本温泉(山口県)のエリア再生を学ぶツアーで、木下斉さんや長門湯本温泉まち株式会社のエリアマネージャーの木村さん等から、長門湯本のエリア再生のお話を伺いましたが、その中で、木村さんは、「行政だけで、エリア再生をやったら絶対にうまくいかない悩みがある。行政は、色々な人の要望を聞いたり、それを失点なく、計画に落とし込む。で、国の補助金をもらうため、国が求めるその時の流行りに合わせたものをつくることにより機能が拡充させてしまう。計画ができあがった時には、3人目の担当者となり、デカくなった箱ものをそのままつくるのが実情になってしまう。」とおっしゃっていました。

箱ものをつくる事業と観光のソフト事業を同一視して論じることはできませんが、共通点はあります。

少なくとも、行政は、顧客ではなく、組織内外の色々な関係者の要望を聞き、事業を組み立てる傾向があります。マーケットインではなく、プロダクトアウトになってしまいます。

また、行政の担当者でも、顧客理解ができる、マーケット感覚がある人もいますが、2年から4年で異動となってしまいます。

市場活動たる観光事業を行うのに、顧客から遠ざかった中身ではうまくいかないのです。

2.長門湯本温泉の挑戦 エリアマネジメント会社が事業の企画立案・実施を担う

長門湯本温泉は、そぞろ歩きが楽しめる温泉街を目指してエリア全体のリノベーションを進めてきました。開湯600年、温泉街の象徴である立ち寄り湯「恩湯」が再建されたほか、温泉街の中心部を流れる音信川沿いには川の魅力を楽しめる川床やベンチ、山あいの地形を活かした竹林の階段や季節の魅力を演出する夜間照明を整備。およそ3年間にわたる整備を経て、2020年春にリニューアルが完成いたしました。

音信川に設置された川床
安心してそぞろ歩きを楽しめるよう歩道を広く、車道を狭くリノベーション
民間投資により瓦そばやスイーツが楽しめるお店も

その長門湯本で、新たなエリアマネジメントのスタイルが成果を上げています。

そのスタイルとは、エリアマネジメント法人が客観指標・エリア価値向上の状況について、外部の専門家や有識者で構成される長門湯本温泉みらい振興評価委員会でチェックを受けます。さらに、市議会で、評価委員会でチェックを受けているプロセスについて、チェックを受け、実際に事業を実施するのがエリアマネジメント法人になっているというものです。

長門湯本温泉みらい振興評価委員会の委員は次のとおり。年2回、星野リゾートの星野社長など観光のプロからフィードバックを受けています。

國學院大学 梅川 智也 学識経験者
株式会社ディスカバージャパン 高橋 俊宏 メディア
熊本大学大学院 田中 智之 建築・空間デザイン
株式会社WAKU WAKUやまのうち 中尾 大介 まちづくり・金融
旅ジャーナリスト 野方 成子 ジャーナリスト
株式会社ロフトワーク  林 千晶 コミュニティデザイン
星野リゾート 星野 佳路   観光業
長門湯本温泉まち株式会社 代表取締役 伊藤 就一民間事業者
長門湯本温泉まち株式会社 エリアマネージャー 木村 隼斗 民間事業者
長門湯守株式会社 共同代表 大谷 和弘 民間事業者
事務局
長門市長 江原 達也
経済観光部 堀 俊洋

長門湯本みらいプロジェクトHP

客観指標としてのモニタリング項目もRevPAR(レヴパー)※、新規投資、従業員満足度、生活者関与度、メディア露出、人気温泉地ランキングなど、他のエリアでは見かけない斬新なものが並んでいます。

※RevPAR(レヴパー)とは、販売可能な全客室からの合計収益を客室総数で割ったもの。Revenue Per Available Roomsの略称で、ホテル全体の収益力を指標化したもの。OCC(客室稼働率)にADR(平均室料)をかけても求められる。

長門湯本みらいプロジェクトHPより抜粋


そして、過去の評価委員会の質疑は、大部分をYouTubeで一般公開されており、誰でも視聴可能な状態となっています。

事業の企画立案と実施を同一の組織(長門湯本温泉まち株式会社)が行うため、責任の所在が明確であり、公開の場で、観光のプロである評価委員会のチェックを受けることになるので、プロジェクトも着実に進むことになります。実際に、星野リゾートの星野社長も、「期待以上の結果になっている。体験等の充実により、全国に先駆けて、連泊できる温泉地になる可能性がある。」と大きな期待を寄せています。

一方、長門湯本温泉まち株式会社の苦労は、並大抵ではありません。事業の推進もさることならが、評価委員会の資料作成にも、相当な時間がかかっていると思われます。実際に、エリアマネージャーの木村さんもそのようにおっしゃっていました。

ただ、やっている事業の自己評価や評価委員会の外部評価を公開しつつ、PDCAサイクルを回しているしながら、着実に成果を上げているからこそ、行政や関係者の信頼を受け、事業の企画立案から実施まで、一気通貫して取り組めていると感じました。

木下斉さんからは、「日本と違い、アメリカやヨーロッパなどのエリアマネージャーは、成果を出せなかったら、当然、クビになります。」とのコメントもありました。やはり、適切な緊張感の中でしか、成果は生まれないのです。

3.まとめ

DMOのエリアマネジメントは事業の企画から実施まで、一気通貫して行うことが重要です。ただ、それを実現するためには、少なくとも、取り組んでいる事業の自己評価や外部評価を可視化し、DMO自身で成果をアピールすることが不可欠になります。

それなしには、DMOが、行政や議会、事業者、住民等の信任を得て、長門湯本のように、入湯税などの公的なお金を財源に、地域の事業を任せてもらうことは難しいでしょう。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
それでは、また。


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