#028 地方空港の海外への直行便の維持・拡大に向けたアウトバウンドの増
私がDMOで働き始めて、1年9カ月が経過しましたが、その間に、日本の地方空港に直行便を飛ばす海外の航空会社の方から、幾度となく、「直行便の維持・拡大には、日本人の海外へのアウトバウンドを増やすことが欠かせない。」と言われてきた。
台湾へのチャイナエアラインや上海への中国東方航空、香港への香港エクスプレス・香港航空など、海外から乗客は十分にいるが、日本人のアウトバウンドが少ないというものである。アウトバウンドが少ないと、日本便の搭乗率は高いが、海外便の搭乗率が十分でなく、路線維持すら難しい状況が発生する。
また、週3便など、毎日運航がされていない直行便については、日本入りの際は使ってもらええるが、海外への帰国の際は、羽田や福岡空港など、別のメジャーな空港から出国されることが多く、ますます、海外便の利用が見込めない状況となる。
そこで、今回は、DMOとして、アウトバウンドの増の貢献できるポイントについて、検討したい。
○パスポート保有率が低い
日本人のパスポート保有率は低下傾向にあり、コロナ前の2019年では23.8%でしたが、3年連続で減少し、2023年には17.0%となっている。パスポートを持っている日本人は6人に1人しかいない状況である。
さらに、東京都や神奈川県、大阪府などの主要空港に近接するエリアの取得率は20%から30%となっている一方、私が住む鹿児島県は、7.8%と10人に1人もパスポートを持っていない状況である。
○アウトバウンドが少ない要因
・海外へのアクセスに制約がある
地方空港は国際線の直行便や就航便数が少なく、海外旅行への心理的ハードルが高い。鹿児島空港の場合も、香港や台北、上海、ソウルへの直行便は、コロナ前から回復しているが、全体の便数の回復は、コロナ前の半数程度の状況である。
鹿児島からの出張で香港に行く場合も、日程が合わないと、片道は、福岡空港からのイン・アウトを余儀なくされる状況である。
・海外旅行より国内旅行重視
国内の観光資源が充実しており、国内旅行や地元の観光を楽しむ傾向が強く、海外旅行への関心が低い。
・円安
円安により海外旅行に対する割高感を感じている。
○アウトバウンドのターゲット顧客
アウトバウンドを増やす方策を検討する際に、重要なのは、顧客は誰かであるか、誰に喜んでもらい、その対価として、誰に旅行代金を払っていただくかである。鹿児島空港を例にすると以下の人々が顧客となる可能性がある。
1.鹿児島空港へ直行便が飛ぶ、香港、台湾、韓国、上海の観光客を受け入れる鹿児島の観光事業者(宿泊・飲食・お土産・ゴルフ)
⇒なぜ、喜んでいただけるか。
①各市場の旅行会社向けのセールスを実施することで、自社への誘客につなげられる。
②現地に行くことで顧客理解を深められるため、顧客のニーズと自社商品のギャップを埋めることができる。(各市場の物価を体感できる。相対的な日本の強みを理解できる。各市場の方が、何に関心があるかを理解できる。)
2.鹿児島の大学・短大・専門学校に通う学生
⇒なぜ、喜んでいただけるか。
①見聞を広めることができる。多面的な視点を手に入れることができる。
②海外と日本の違いを理解することで、将来の就職先や社会に対して、より価値を提供できる人材になれる。
3.20代~30代
⇒なぜ、喜んでいただけるか。
①海外旅行の写真や動画をSNSでシェアできる。
②比較的安価に旅行を楽しめる。
4.ファミリー層(30代~40代)
⇒なぜ、喜んでいただけるか。
①子供との思い出をつくることができる
②子供の見聞を広め、成長につなげることができる。
③直行便を利用することで、家族連れでも負担なく楽しめる
5.シニア層(60代以上)
⇒なぜ、喜んでいただけるか。
①仕事の現役時代は楽しめなかった念願の海外旅行の実現
②直行便を利用することで、負担なく楽しめる
○アウトバウンドを増やす方策
・海外旅行会社と直行便を飛ばす航空会社のプロモーションへの協力
海外の旅行会社や航空会社にとって、アウトバウンドを増やすことは、自国へのインバウンドを増やすことであり、各社の収益増につなげる仕事そのものである。
なぜ、香港、台湾、韓国、上海を選ぶ価値があるか。どれだけ素敵な写真を撮れるか。地方空港からの直行便を利用することで、負担なく旅行を楽しめるか。顧客を明らかにした上で価値を訴求する必要がある。
DMOとしても、予算がある場合は、旅行会社や航空会社とタイアップしたプロモーションを、予算がない場合でも、地元の集客が見込まれるイベントを活用したPR等に協力することが可能である。
・DMOの主催の市民向けセミナーでアウトバウンドの重要性を市民に伝える
DMO主催で、市民向けセミナーをする際は、海外への直行便の維持・拡大のため、アウトバウンドが重要であることを啓発できる。
○まとめ
DMO等の取組により、地方の人々の多様なニーズに対応したり、観光サイトでアウトバウンドの重要性を紹介することにより、少し時間はかかると思うが、アウトバウンドを増やすことは可能である。
ただ、DMOは観光客から地域が選ばれる理由をつくる活動全般をするのが、本来の仕事であり、アウトバウンド関連施策の優先順位はそれほど高くない。アウトバウンドが増えれば、確かに、路線維持につながるが、それだけで、地域の観光による経済効果が高まるわけではない。
DMOは限られた予算の中で、費用対効果を勘案しつつ、アウトバウンド増に貢献することが重要である。