説得力を増すための、あの手この手
聖夜に向けた下準備
夕方ごろ、何やら職場で偉い人たちがザワザワしている。何か仕事での重大事が起きたのかと思っていたら、「子供のクリスマスプレゼントの希望が変わった」と奥さんから連絡があったとのこと。
クリスマス本番まで残りわずかなのに、準備が間に合わないと色めきだっていた。職場では地位がかなり上の人なのだが、家では良きお父さんのようだ。
我が子が希望する品を求めて寒空の下お店を巡る様子を想像してなんとも微笑ましい気持ちに・・・ならなかった。正確にいうとなる余裕がなかった。
この時の私は、役員に決裁をもらわなければならず、説明準備に追われていたのである。
絶対に失敗できない会議の準備は、当然ながら入念に行わなければいけない。資料に掲載する情報の取捨選択を行い、「こんな質問がきたらどう答えよう」と自分の中でセルフツッコミを繰り返す。
自分の視点だけでは漏れが起こるので、各課の担当者と何度も打ち合わせを重ね、あらゆる角度のツッコミを受けながら表現を磨き上げてゆく。
そして、会議の30分前はスケジュールをあえて空けておいて、資料の事前読み込みに使う。これは話すべき内容を思い出しながら脳みそを温めて、口の動きを滑らかにする効果がある。同じ説明箇所を何度もなぞることの効用は馬鹿にできない。「もっと端的な表現があるぞ」と気づくことが多いからだ。
さらに、最後までセルフツッコミを加えることで、「できることは全てやった」という開き直りの境地に達することもできる。覚悟が決まると、自分でも分かるぐらい声の調子や振る舞いが堂々とする。
プレゼンにおいて重要な、自信に満ち溢れたマインドに変わるため、これからも重要会議に出る際には事前の読み込みは必須だと感じた。
この過程で、偉い人たちが普段何気なくやっている説明が、言葉の一つ一つに驚くほど細かく神経が張り巡らされていることを知った。
社会人なりたての頃の私は華やかなパフォーマンスに目を奪われていたが、ハイレベルなことを通常運転として淡々とやるのが真のプロである。
最後に自身のプロジェクトに対する理解度を試す上で、便利なツッコミをここに挙げておこう。
表現を磨くのに便利な質問たち
的確な具体例が即座に出てくるか
具体的な事例もないのに心配ばかりしているとどんどん不便なシステムになってしまう。
仮に出てきたとしてもマニアックすぎて大勢に影響を与えなさそうな事例だと、「それっていらないんじゃない?」というツッコミに勢いを与えてしまう。
相手に「それは備えなきゃダメだね」とピンときてもらえるような事例を捕捉しておかないといけない。
ちなみに、事例を確かめる上で私が注意されたのは、「脳死でベラめくりをしないこと」だった。仮説を立てたり、ある程度ターゲットを絞ってからデータを一個ずつ開いて事例を確認しないと、効率が大きく落ちる。
時間がない時ほど慌ててしまい、手順がパッと思いつくものから着手してしまいがちだが、アプローチの仕方が杜撰だとその時点で期限に間に合わないことが確定してしまう。
定量数値が頭に入っているか
「この事例は年間でこれぐらい」という規模感は検討する上で必須だ。ただし、やたらめったら数字を取ればいいというものではない。
言葉の説明だけで決着がつくものや、「明らかに超レアケースでしょ」と結論がつくものはいちいち調べてはいけない。
直感的には感覚が掴めず、設計方針に大きな影響を及ぼしそうな数字をしっかり把握しにいくことに注力しよう。
特定分野において短期間で専門家並みに詳しくなってしまう人間は、「定量的な数値が必要な事項」の絞り込みが迅速かつ的確だ。
全体構造を図でシンプルに書けるか
これは自然界の不思議な法則なのだが、極限まで本質を突き詰めてゆくと、なぜか物事は非常にシンプルになる。
思考の漏れがないように膨大なマトリクスを書き上げ、各ケースの検討に血道を上げていたのに、出てきた結論は文章1行にまとまったという経験を何度もしてきた。
ツッコミ内容は中堅層やトップの右腕あたりが一番細かく、役員クラスになると芯を捉えた部分だけが議論の対象になる。
その言葉が磨き上げられた純度の高い1文なのかは役員が聞けばすぐに分かってしまう。1ミリの曖昧さも許さない姿勢が、その人を役員たらしめているのである。