センスの良いキャッチセールスと、店舗の生き残り戦略
センスの良い街中での声掛け
渋谷の街を歩いていると、声をかけられた。
「お兄さんぐらいの体格の人に向けた服を取り扱っているんです。私も同じぐらいの背丈なので。私自身が立ち上げたブランドなんですが、よければ見ていきませんか?」
なかなかセンスの良い声の掛け方だ。背丈の話を持ち込むことで「相手のためを思っての提案なんです」というニュアンスが出ているし、安心感を醸成する自然な笑顔。闇雲に話しかけやすそうな人に声をかけるキャッチセールスやアンケートの人とはきちんと差別化をしている。
「うちはこの辺りでは一番長くやってるお店なんです。コロナの影響もあってまわりのおみせはどんどん消えていってしまって、みんなワーキングスペースになっちゃったんですよ」
なるほど、地域に根を張った人間ならではの情報提供。生き残ってきただけあってツボを心得たトークだ。自分から積極的に声をかけに行くところも、ひたすら来客を待つ受け身な他の店舗とは違う。そこでチラシを手渡された。
「うちは服も取り扱いつつ、壁をアーティストな人たちに貸してギャラリーもやっているんです。もちろん服も良いものを取り入れてますよ。是非寄ってみてください」
食傷気味な高級志向
ここまで模範的なセールストークだったが、「良いもの」というワードに引っかかり、「他を見てみてからまた来ます」と回答してその場を離れた。
高級志向、高価格帯の商品だなと思ったからだ。その場を離れ、手渡されたチラシからお店の情報を検索する。
インスタのページはあるが、値段が書いてない。時価と書かれている寿司屋と一緒で、モードで高級志向な店ではないかという印象を受けた。
月に10万ぐらい服代に使っていた、ファッションに熱心だった頃の自分であれば乗ったかもしれないが、残念ながら「機能性を満たせれば安くていいや」とある種達観しているタイミングだったので食指が動かなかった。
ファッションの世界では機能性の競争は既に終わりを迎えつつあって、「いいもの」では売れない。とはいえ、トークは完璧だったのでちょっと興味が湧いた。初見だったのでその場は離れたが、もしかしたら後日フラッと立ち寄ることもあるかもしれない。
服目的でなくても、アートギャラリーを見に立ち寄る人もいるだろうから、店内で共存させるのは良い方法だなと思った(少なくともアーティストの家族とか友人はやって来るだろうしね)。
本屋とカフェの併設もそうだが、斜陽産業であっても戦略的に多目的なスペースを作りにいけば勝負できる余地はまだまだある。
想いが先走りすぎた出店
ちなみに、その場から離れて周辺を回ってみると100メートルごとにカフェが立ち並んでいた。
ファッションはコンセプトさえズラしていれば、集積してもシナジーがある。しかし、人間はコーヒーを何杯も続けて飲むような身体にはなっていないので、流石にこれは厳しいんじゃないかと思うのだが、数年後に果たして何件のお店が生き残っているだろうか。
起業して生き残っている会社は本当に少ないが、そのうちのほとんどは無謀な博打である。特定の業態への想いが強すぎてソロバン勘定が伴っていないんじゃないかなと思った。
どうやら定点観測のしがいがありそうな場所がまた一つ見つかったようだ。