ECO PLANT(対話篇) その4
炭素循環農法の誤解
炭素循環農法を理解できる人は少ない
パンダ:5000人以上が農場を訪問して、理解できたのは10人に満たない。ウェブサイトには、多少とも農業の知識あれば200回、全く知識がなければ20回以上熟読するようにとあります。炭素循環農法を理解したつもりになることは簡単でも、本当の理解は難しい。
オートくん:農業の知識がない方が理解しやすいということは、「農業の常識」が理解を妨げるということでしょうね。『バカの壁』を知ってますか。
パンダ:養老孟司氏のベストセラーですね。人間は『知りたくないことは、自主的に情報を遮断する』。
オートくん:無肥料の方が収量が多い、病害虫防除は不要というのは、常識に反します。特に農業者にとってはこれまでの自分を否定されるようで受け入れられないのでしょう。
パンダ:残念なことに、炭素循環農法のつもりで、間違ったことをしているケースがよくあります。代表的なものを見ていきましょうか。
1.「肥料の代わりに炭素資材を入れる」間違い
パンダ:肥料の代わりに廃菌床を使うというのはよくあります。
オートくん:炭素循環農法=廃菌床農法という理解ですね。
パンダ:そもそも、「肥料の代わりに炭素資材を入れる」が間違いですね。
オートくん:養分収支の思考パターンから抜け出せないと「炭素の不足を投入で補う」という発想に陥りがちです。
パンダ:作物を育てるのは微生物の仕事。人間の仕事は微生物を飼うこと。サイトには『生き物は「水、餌」以前に酸素が必要。息ができなければ話になりません。』とあります。なにはともあれ『「乾かして」「過剰な水分」を抜き、土にも頭にも「空気」を入れて下さい』と。
オートくん:『土を使う農業をする限り、微生物抜きでは人は何もできない』。なので作物の栄養管理は微生物に任せる。ここが肝心なところです。その手段の一つが炭素資材の投入=微生物のエサやりです。
2.「土壌炭素を増やせばよい」とする間違い
パンダ:「土壌炭素」は学術的にも肥沃度の指標です。そこに結びつけて、完熟堆肥や炭を使って土壌炭素を増やせば良いと考える人がいます。
オートくん:有機物投入は、微生物へのエサやりです。微生物が増えれば、微生物の体組成である炭素も増える。大事なのはこの結果です。
パンダ:つまり、生きた微生物の炭素量=土壌肥沃度となる。
オートくん:投入した炭素がエサになるかどうかが重要です。
パンダ:完熟堆肥は微生物の残飯、炭は微生物が食べられない炭素です。なお腐植については「腐植は過去の栄光」と林氏は断じています。
オートくん:そもそも「微生物を飼う」のは仕事をさせるためです。微生物の仕事量=炭素の消費量ですから、重要なのは消費量。蓄積量ではありません。
3.「C/N比40を絶対視する」間違い
パンダ:C/N比40でなければダメだ。あるいは、C/N比が同じなら何でも同じという考えが見受けられます。
オートくん:そもそもC/N比40は登熟期の牧草から来た数値です。C/N比40はあくまで目安です。
パンダ:植物の炭素には、糖、デンプン、セルロース、ヘミセルロース、リグニンがあります。同じC/N比でも、糖やデンプンが多いと分解は速く、リグニンが多いと分解は遅くなります。
オートくん:分解スピードだけを見れば、温度で大きく変わります。そこで峯氏の言に照らせば重要なことは、キノコ菌優先で分解が進むことだと分かります。
4.「炭素投入量」の間違い
パンダ:炭素資材の投入は「十分な分解量」が基準です。C/N比が小さく分解速度が速いものは頻繁に、C/N比が大きく分解が遅いものは大量にいれる必要があります。
オートくん:その通りです。ただし、「十分な分解量」は変化します。
パンダ:土壌肥沃度=生きた微生物の炭素量ですから、圃場が肥沃になるほど「十分な分解量」は大きくなりますね。投入量を増やす必要がある。
オートくん:そこは、植物の光合成量次第です。微生物の炭素消費と植物の光合成量はバランスします。サイトには畝間に緑肥作物を植える例が紹介されています。これは、バランス点を高める工夫でしょう。
パンダ:逆に、炭素資材の量を減らすべき場面もありますか。
オートくん:可能性はあります。肥沃度が高くなった圃場で、投入ゼロの方がよくなった例が確認されています。
5.「無機栄養説を否定する」間違い
パンダ:化学肥料の基礎である無機栄養説は間違っていた、と受け取る人があるようです。
オートくん:炭素循環農法は無機栄養説を否定していません。無機栄養説による現象の解釈も見られます。
パンダ:たとえば。
オートくん:雨で圃場が滞水し、微生物が酸欠で大量死すると無機養分が大量放出され、作物はこれを一気に吸収します。贅沢吸収と呼ばれる現象です。炭素循環農法では、これが病虫害の引き金であるとしています。
パンダ:どこが無機栄養説なんですか。
オートくん:微生物が死んでいても、作物は無機養分があるから生育できると言っています。基本的に炭素循環農法は既存の知見に反したことは言っていません。施肥か無施肥かで法則は変わらない。ただ、前提条件の違いで、現象が変わるという説明をしています。
6.「現象を否定する」間違い
パンダ:炭素循環農法がうまく行かないことがありますが。
オートくん:よくあります。が、肝に銘じるべきことは、現象は常に正しいということです。炭素循環農法をやっているつもりで、炭素循環農法ではないかもしれません。冒頭の「200回読め」に通じますが、サイトを読み直すのも悪くありません。
パンダ:サイトは絶対正しいと言うことですか。
オートくん:いいえ。サイトで紹介されている現象は事実です。これに正しい、誤っている、はありません。他方、炭素循環農法という理論はあくまで現象の解釈のひとつです。解釈には正誤があります。解釈から導かれる理論も同じです。サイト執筆者もそう断っています。
パンダ:要するに、炭素循環農法がうまく行かない場合は、現象に照らしてつぎの2つをやる。1つは、自身のやり方が炭素循環農法に合致していたか点検する。もう1つには炭素循環農法の理論を修正する。ECO PLANTはその作業から出てきたということですね。
(つづく)