オートくん

農業を豊かな暮らしのために生かすことを生業にしています。農業分野のプロの研究者をやって…

オートくん

農業を豊かな暮らしのために生かすことを生業にしています。農業分野のプロの研究者をやってました。頼まれ事を断るのが下手。本来の専門とは外れたしごとを押し付けられ引き受け続けた結果、一人で異分野シナジーが発揮できる(みたいな)研究者になってしまいました。

マガジン

  • 論文解説:氷山の水面下をくわしく分かりやすく

    昔の論文タイトルは、「〇〇に関する研究」が多く、論文はそのテーマについて勉強するものでした。今は、研究で得た知見が論文タイトルになっていて、論文タイトルを見て情報を収集します。これは科学が細分化し、論文が量産される時代には効率的ですが、問題もあります。知見の裏に隠れたテーマは本文を読まないとわかりません。そもそも、論文は専門家向けに必要最小限のデータと文章で書かれています。つまり氷山の一角で、水面下には多くのデータと知見が隠れているわけです。その隠れた部分を専門外の人に分かりやすく紹介しようと企画しました。  私の師匠は言いました、「研究なんてものは、本来、貴族の趣味だったんだよ」と。だからというわけでもありませんが、私は多分に趣味的な研究を、勤め人の仕事らしく包装して論文にしてきました。つまらないタイトルの裏に、たまらない真意を隠して。

最近の記事

本当にあった無肥料で高収量が続く農業(7) 結論

結論は英語でConclusion。「結論」というより、「結び」の方がしっくりくる。雑誌により異なるが、研究の目的に関して、主要な結果をもとに、明らかになったこと、まだ不明なこと、今後の研究の展望を述べるところである。関連して社会的意義にふれることもある。 結論1はこの論文は何をやったか。2-6は調査結果、7は調査結果をもとに判明したことを述べている。シリーズの第1回に述べたとおり、査読の過程でタイトルを変更したため、結論もねじれている。とは言え、短期間での熱帯における土壌A

    • 本当にあった無肥料で高収量が続く農業(6) 考察

      耕作による土壌肥沃度の低下を、高C:N有機物の投入によって克服した農地で得られた事実から導かれる真相は? 生産性有機農業は収量が低い 科学雑誌ネイチャーに掲載された研究は、既報の論文を使い、全世界の異なる土壌、気候、作目を網羅して比較した。単純に平均収量を比較したのでは技術の差は分からない。有機農業は条件の良い圃場を選んで行われる傾向があるからだ。研究は、同じ条件下であれば有機農業は慣行農法より平均で34%収量が低いと報告している。農水省は面積の割合を25%(100万ha

      • 本当にあった無肥料で高収量が続く農業(5) 結果

        「結果」はデータの身元を洗い、評価する役割を担う。まずは値が異常値でないか検討し、次に値の意味を記述する。たとえば体長30mのクジラは大きいか小さいか?ヒトに比べれば大きいが、地球に比べれば小さい。このように数字だけでは分からないものだ。そして、証拠となる数値をピックアップして読者を結論へと誘導する。立ち位置が変われば景色も変わる。まずは図と表を虚心坦懐に見たうえで文章を読むといい。 作物生育と生産性葉菜、果菜、根菜など33品目を販売 過去2年間とは、新農法への移行完了か

        • 本当にあった無肥料で高収量が続く農業(4) 材料及び方法

          調査圃場(予備知識) スザーノ市:南緯23度32分で、ほぼ南回帰線(23度26分)上に位置する湿潤な地域。ちなみに北回帰線上の国は、ベトナム、バングラディシュ、メキシコ、キューバ、エジプトなどである。 赤色系ポトゾル化土壌(Ultisols):粘土が少ない赤土。湿潤な温帯から熱帯に広く分布している。UltiはUltimate(究極)、つまり風化が究極まで進んだ土壌を意味する。塩基(ミネラル)が洗い流された酸性土壌で、鉄分が比較的少ない。そのため、粘土も分散性が高く、表層

        本当にあった無肥料で高収量が続く農業(7) 結論

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        • 論文解説:氷山の水面下をくわしく分かりやすく
          7本

        記事

          本当にあった無肥料で高収量が続く農業(3) 緒言

          科学とは、人類の知識体系の構築という、壮大な共同作業である。論文はこの体系に新しい知識を加えるものでなければならない。いわゆるオリジナリティだ。緒言は、知識体系における論文の位置を、既存の研究論文を使って示している。ただし、簡潔に。そこで、緒言に引用文献の内容を少し補ってみることにする。 耕地の肥沃度は低下する耕作による土壌炭素量の減少 近年、CO2削減に関連して土壌炭素貯蔵量の研究が多数行われている。具体的な数値には幅があるが、林や草原を開墾して耕地にした結果、土壌炭素

          本当にあった無肥料で高収量が続く農業(3) 緒言

          本当にあった無肥料で高収量が続く農業(2) 摘要

          本文一般向けリライト耕作を続けると土は痩せる 土壌炭素は土壌肥沃度の指標だ。森林や草原を開墾し、耕作を続けると土壌炭素は減少する。言いかえれば、年々収量が減ってくる。とくに熱帯では減り方が速い。そのため、古い農地を放棄し、新たな農地を開墾することになる。アマゾンの熱帯雨林の破壊が進むのはこのような事情によるもので、耕作による土壌炭素の減少を止めることが緊急かつ重要な課題となっている。 窒素施肥は土を肥やさない 土壌炭素の減少には窒素施肥が影響している。窒素施肥は作物の

          本当にあった無肥料で高収量が続く農業(2) 摘要

          本当にあった無肥料で高収量が続く農業(1)タイトル

          タイトルApplication of High Carbon:Nitrogen Material Enhanced the Formation of the Soil A Horizon and Nitrogen Fixation in a Tropical Agricultural Field (和訳)熱帯農地における高炭素:窒素比資材の投入は土壌A層の形成と窒素固定を促進する 我ながら、これでは全く主旨が伝わらないと思う。 真の主題実はこのタイトルは査読過程で変更さ

          本当にあった無肥料で高収量が続く農業(1)タイトル

          無肥料で増収して食料自給率を向上する

          食料安全保障には自給率向上が必要食料輸入は厳しさを増している 食料安全保障の観点から、食料自給率の向上が喫緊の課題となっている。気候変動や紛争により世界の食料が不安定さを増すなか、日本の経済力は年々低下し、輸入の厳しさが増しているからだ。ところが自給率を向上しようにも、日本は化学肥料を輸入に頼っている。農業現場は人手不足で、自給率向上どころか、耕作放棄地が増大している。実は、これらをまとめて解決する方法が1つある。施肥をやめればいい。論より証拠、まずは実例をみてもらいたい

          無肥料で増収して食料自給率を向上する

          星空が見える場所に住みたい

          いつの頃からか、星空を眺めることに関心をもつようになっていた。 とても幼い頃から。でも、実際に星空を眺めたことは、ひとつひとつ鮮明に覚えているほど、数少ない。 子供の頃、両親が共稼ぎだった私は、幼稚園から小学校を卒業するまで、夏・冬・春休みは母の郷里に預けられていた。中国山地の分水嶺の瀬戸内側、周囲を山に囲まれた村の夜空には、天の川がまさにミルクのようにくっきりと流れていた。 時が過ぎ、結婚が決まって、未来のパートナーをその村に案内した。私達は古風な考えを持っていたので、

          星空が見える場所に住みたい