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使うのは小麦粉、水、塩だけ。石窯天然酵母サワードウパンのつくり方
自給自足というからには、主食の米をつくっていると思われるかもしれませんが、栃木県北部の山間では日照が不足し水温もひくいため稲作の適地ではないので、主食作物としては小麦や蕎麦、ジャガイモやカボチャなどを栽培して、米についてはおもに県内の友人知人の作った有機玄米を購入しています。
「身土不二」の観点から、この地で栽培可能な作物を主食とすることが望ましいので、現在は小麦、特にパン用小麦の増産を目指しています。
ということで、今回は我が家のパンづくりについて書いてみます。
身土不二(しんどふじ)= 「地元の旬の食品や伝統食が身体に良い。」という意味。
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サワードウの天然酵母パンを生産
現在パン作づくりを担当しているのはボク(ジョー=この家で一番歳とったオヤジ)で、製パン歴は4年。以前はカミさんがパンを焼いていたんですが、4年前に石窯が完成したにもかかわらず一向につかってくれる気配がないので、シビレを切らして自分でネットを探して研究しはじめた訳ですが、折りしも世間では糖質制限だとか、ケトン食だとか、小麦アレルギーだとか、グルテンフリーだとか、とかくパン好きには肩身の狭くなる話題を多く見聞きするようになったので、この際少しでも健康によさそうなパンということでサワードウ(sour dough)のパン作りにしぼって研究をはじめました。
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サワードウというのは、ライ麦などに棲みついている天然酵母を小麦粉で培養したもので、パン生地を膨らませる元種のこと。なぜこれが健康に良いかというと、工業的に酵母菌だけを純粋培養したイーストとちがい、酵母菌のほかにも乳酸菌やさまざまな菌が共存しているために、糖分だけでなくグルテンの一部まで発酵させたり、フィチン酸といったミネラルの吸収を阻害する物質を分解することにより、消化によく、栄養を吸収しやすくなるためとのこと。また、一般のドライイーストには、イーストの活性を高め製パン性をよくするイーストフードや乳化剤といった添加物が含まれているので、天然酵母を使つかうことによってそれらを避けることができます。
サワードウパンの原材料は小麦と水と塩だけ
一般のインスタントイーストを使ったパンには必ず砂糖をくわえます。これは甘みをつけるためではなく、純粋培養された酵母菌が糖分しか分解できないからです。酵母は糖を食べてアルコールと炭酸ガスを作る菌のことです。ところが複数の菌類の共存する野生の酵母は糖よりも分子構造の大きなデンプンを分解することができるため生地に砂糖を加える必要がありません。その代わりイーストよりも発酵に長時間を要します。卵や牛乳や油脂を入れた柔らかいリッチなパンに対して、ハードな、リーン(痩せた)なパンともよばれる食事パンです。
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製パンプロセス
そのような伝統的な製パン技術を知るにあたり最も役に立ったのは何と言ってもYouTube。英語、フランス語、イタリア語、スペイン語圏のプロのパン職人やgeekや主婦のユーチューバーによる動画を数え切れないほど見ましたが、そもそも日本語による一般的なホームベーカリーの知識さえなかったので、特に成形の一つ一つの工程の意味がわからず暗中模索したものです。
現在メインに焼いているパン・ド・カンパーニュ(pain de campagne)の標準的な工程を簡単に説明しましょう。
まず、先に書いたサワードウのスターターをつくっておく必要があります。
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Day1 冷蔵庫で休眠しているスターターを常温に戻し、100g程の小麦粉と、同量の水を加え混ぜ合わせる。
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Day2 スターターが二倍に膨らんだら仕込むパンの重量に応じた分量の粉と水を足し再度発酵させ元種を完成させる。小麦の粒を製粉して全粒粉を用意する。挽きたての粉を使うと香りの高いパンになります。
Day3 スターターの活性を確認してパン生地の仕込み開始。
有機小麦粉3~4kg(全粒粉30%)、塩2%、水78%、サワードウスターター20%(パーセンテージは全て小麦粉に対する重量比)を乾いた粉がなくなるまでよく混ぜ合わせる。約1時間後slap&fold法でこね(約10分間)、すずしい場所で一晩寝かせる。この時必ず少量のスターターを残し次回のパンづくりのためにとっておきます。
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Day4 翌朝から暖かい室温で発酵(約18時間)。途中数度生地を折りたたみ、発酵が完了したら分割して丸める。短時間休めた生地の表面に張りをもたせるように成形してバヌトン(発酵かご)に入れて30~60分休ませる。
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2時間ほど前から薪をくべて熱した石窯の中で250℃に予熱したダッチオーブンに生地を移し、蓋をして石窯に投入して約20分焼成。蓋を外してさらに10~15分焼成を続けgolden brownの焼き色になったら完成。
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という具合ですが、サワードウの難しいところは、発酵に時間がかかり、さらにウチには温度調節のできる発酵室がないため、その日の気温により時間がよめない点。そしてさらに自動で温度管理のできない薪の石窯の火加減とタイミングをあわせるのもなかなかストレスフルなので、最近は家の暖房と割り切って余裕をもって長時間蓄熱するようにしています。
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石窯について
中東からコーカサス、東欧、西欧にかけての広い地域で、伝統的にこのサワードウを使って、粉と水と塩だけを原材料にしたパンが焼かれてきました。パンの焼成には様々なタイプの石窯が使われます。石窯には熱容量の大きな物体に熱を蓄え輻射によって調理するタイプと、ピザ窯のように窯の中で薪を燃やしながら高温の炎の対流によって加熱するタイプがありますが、我が家の自作の窯は薪の燃焼室と調理するスペースを分けた二段式なので、連続して薪をくべることで温度調節ができます。しかし、この石窯は屋内のキッチンにあるため、パンが焼けるほど火力をあげると室温が上がり、夏場は使うことができません。なので石窯パンは冬季間だけ暖房をかねて焼いているんです。この窯についてはいつか別の記事でくわしく紹介したいと思います。
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いまだに毎日のようにYouTubeでパン動画を探して研究していますが、実は、観ていて最も楽しいのは、東欧や地中海やコーカサス地方の田舎のオバちゃんが家庭の石窯で焼いているようなドキュメンタリー的な映像。トルコの加水率100%は超えていそうな田舎パンも一度やってみたくなります。手間暇をかけて見事なパンを焼くというより、ただ家族や隣人が喜ぶ品質を生活の一部として作り飛ばすようなパンづくりが理想です。
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(文:ジョー)
エコヴィレッジみよりは、栃木県日光市の山奥で自給自足生活を実践する一家です!山を切り開き、セルフビルドで建築をしました。ぜひ、こちらの記事で20年来の経験もご覧ください。