犬の名は。
この記事は1000文字です。
患者さんの個人情報とエピソードはぼかします。
Aさん(作話*の症状のある認知症)と、
Bさん(統合失調症)が同室に入院していました。
Bさんは、幻聴*に対して
犬が吠えるような声を上げることがありました。
症状を完全に取り去ることはできませんでしたが、
薬剤の調整で、症状コントロールがつき、
転院が決まっていました。
ある日Aさんは、
「ここに犬がいるんだよ。ラッシー(仮)」
と機嫌よく話していました。
Bさんの声が犬の鳴き声に聞こえたようです。
名前まで付けるほど気に入った様子。
Bさん転院後、
症状チェックがてら、Aさんに犬の話題を振ってみました。
「犬は最近いないねぇ」
淡々と答えます。
いなくなった犬への強い喪失感は感じていない様子。
作話の症状があるので、
その場で話を合わせただけかもしれませんが、
「最近いない」と表現するあたり、
(Aさんの世界にいた)犬の記憶は、保たれているようにも見えました。
それ以上は掘り下げず
「そうですか、出かけてるんですかね」とだけお伝えしました。
その後もAさんはラッシー(仮)の話題を
口にすることはありませんでした。
Bさんにとっては幻聴で辛くて出る声だったのですが、
Aさんには、癒しの犬の声として、
快の刺激をもたらしていたのかもしれません。
そして私はそのAさんに癒されていたように思います。
お読みくださりありがとうございました。
幻聴と作話について
■ 幻聴について少し説明します。
統合失調症の代表的症状です。
医療者目線なら「幻聴という病的症状」ですが、
本人にはリアルな音や声として聞こえます。
幻聴の内容は、ノイズや神のお告げのようなものもありますが、
悪口など本人にとってネガティブなことが多いです。
「ここから飛び降りないとお前のせいで親が死ぬぞ」
などの強迫的なものもあり、
逃れたくて行動してしまう患者さんもいます。
本人にしか聞こえないからとても辛い症状です。
治療で完全に除去できないこともありますが、
患者さんが日常生活に支障なくいられる程度、
幻聴を幻聴と認識でき聞き流せる状態であれば
病気と付き合うスタンスで治療を続けます。
■ 作話*について
コルサコフ症候群では記憶の障害を伴います。
物忘れを取り繕うため、つじつま合わせをするために
事実ではない話をつくりあげてしまう症状です。
Aさんは認知症とコルサコフ症候群を合併していました。
本人はわざとしているわけではないので
嘘を咎めるスタンスで接するのは適切ではないです。
否定も肯定もせず、傾聴、話題の転換を図っていました。
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