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霊園の陽だまりは穏やかな空気に溢れ
春先の天気は変わりやすい。
今日は雨が降りそうな重たい空だが、昨日は晴天だった。
空は青く心地よかったが、私の心はなぜかどんよりして、落ち着かなかった。
こういう時は歩くに限る。
私の家の前は、桜並木で、大きな公園墓地に続いている。
霊園の参道なのだ。
夜になると真っ暗で、お店もない。
そういうところだから、散歩するには最高の並木道だ。
桜並木の歩道を進み、霊園の門の中に入る。
一歩霊園に入ると、もう空気が違う。
公園墓地なので、樹木が多く、良質な酸素が溢れている。
深呼吸しながら、舗装されていない土のところを歩く。
土の柔らかさ、暖かさが足に伝わってくる。
下を見ながら進むと、クリスマスローズの群生や、クロッカスの花が咲いているのが目に入る。
ああ、春だ。
霊園の中はもう春になっている。
日当たりの良いベンチに腰掛ける。
ぽかぽかとした、日差しのおかげで、汗ばむほど。
足の先まで暖かくなる。
霊園の中で、こうして坐っていると、何も考えない、何も思い煩ったりしない、何も心に浮かばないという心地よい時間が過ごせるから不思議だ。
霊園の空気は穏やかで、小鳥のさえずりしか聞こえないほど静かだ。
それはそうだ。
ここには死んでいる人しかいないのだから。
死んでしまえば、みな穏やかで静かになる。
周囲の人たちは、相続だとか、恨みつらみだとかで、ごたごたするだろうが、死んでしまった人は、何も言わない。
だからなのか、霊園の空気は澄んでいる。
おかげで、私の心は温まり、静まり、ゆっくりと溶け出してきた。
コチコチに固まった私の心をほぐしてくれるのは、やはり霊園の空気だ。
いつまでも、ベンチに座っていたいと思うが、そうもいかない。
勇気を出して、人間世界に戻ろう。
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