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スミレ  DEPAPEPE


#2014年、リリース、アルバム「Kiss」に収められた一曲。
ギターデュオのDEPAPEの曲は、押しつけがましくなくて、それでいて心の奥に届く曲が多くて私はよく聞いていた。
特に、「スミレ」は、心が死にそうにしんどいとき、苦しくて苦しくてたまらないときに、助けてくれた曲だ。



6年前、長女が躁転し、薬の見直しのため、リーマスが処方された。
その前から服用していた、リスペリドン、カルバマゼピンを服用しながら、リーマスの投薬が始まった。
リーマス(リチウム)は双極性障害によく使われ、効果があるとされている薬だ。
アメリカのテレビドラマ、「ホームランド」の主人公も、躁転するとリーマスを服用する。

初めは、うまくいくかと思った。
リーマスの処方で、躁病はおさまり、穏やかな生活を送ることができるようになれるかと期待した。
けれども、長女にはリーマスは合わなかった。
そして、数々の副作用が出始めた。

躁病はいっとき、おさまるかと思えたが、激しい症状は続き、多弁、大声、易怒性は増していった。
副作用としては、
「みず。みず。」と言って、頻繁に水を欲しがる。
「トイレ、トイレ」と言って、頻繁にトイレに行く。
じっとしていられなくて、うろうろする。
アキシジアの症状が出始めた。
早朝から、出かけたがる。家にじっとしていられない。
毎朝、起きると一緒に、近所をゆっくりゆっくり歩いた。

そして、とうとう、パーキンソンのような症状が出始めた。
顔が鬼瓦のようにこわばってしまい、道を歩く子どもから、
「怖い顔の、おばあさん。」といわれた。
長女は激しいショックを受けたようだ。
足が思うように動かせず、ふらふら歩く。
階段の一番上で転んで顔面を撃ちくちびるを切った。
嚥下がうまくできなくなったので、おかゆを食べるようになった。

そして夜寝なくなった。
睡眠導入剤をのんでも、すぐ起きる。
起きると、5分ごとに、
「トイレ、トイレ」と言って、ふらふらしながらトイレに行く。
心配なので、トイレについていく。

10分でも、まとまって寝てもらえないだろうか。
そうしたら、私も眠れるのに。

そのような日々が、続き、とうとう母親の私が限界を迎えた。
何日もまともに眠っていないので、頭は働かず、体はギシギシで、胃が痛く食事ができなくなった。
そこで、主治医に訴えた。
「このままでは私が死んでしまいます。
どうか長女を入院させてください。」

そして長女はかかりつけのクリニックの連携病院に入院することになった。
入院当日、なんといって、病院に連れて行こうか。
悩んだ末、こういった。
「もう、お母さん一人では、あなたを助けられないよ。
病院の先生や看護師さんに手伝ってもらおうね。」
前日に予約しておいた、タクシーの運転手さんは、静かなやさしい女性の方で、たすかった。
もちろん、精神神経センターというところへ行く患者さんには、気を使ってくれるのだろう。

てんかん病棟への入院だったが、主治医、看護師すべてのスタッフの方が発達障害への理解があった。
看護師長によれば、母親のレスパイトが緊急に必要だったということだった。
「娘さんは任せて、お母さんは休んでください。」
とてもありがたい言葉だった。
もちろん、いちばんつらいのは長女だけど。
ただでさえ、躁病は大変なのに、知的障害、自閉スペクトラム症、てんかん、加えて、薬の副作用によって、相当こじれていた長女も、入院による薬合わせ、作業療法などにより、40日ほどで退院することができた。

本当は心配で毎日でも面会に行きたかったけど、週2回だけ、一緒に洗濯をするということにして、病院に行った。




長女が入院する数か月前、激しい躁状態が始まった時、水泳カウンセリングに連れて行った。
水泳の先生に長女をお任せした後、死んだような心を引きずっていた私は、プールの外へ出て、ベンチに座り、ひたすらこの曲を聞いたのだ。
DEPAPEPEのスミレ。
リピートで、何回も何回も、数十分も聞いただろうか。
歌詞がないギターデュオが耳から心に届き、心が少しずつ動き始めた。
大丈夫だよ。
私の心は大丈夫だよ。死なないよ。
ギターの音色が話しかける。
大丈夫だよ。
大丈夫だよ。

そして長女がプールから上がってきて、私はまた元通りの生活に戻った。
ほんの、数十分でも、心が慰められた。
いったい、いつまで続くのだろう。
躁病とのお付き合いに終わりはないのだろうか。
あの頃は、本当に、出口のないトンネルの中にいた。
でも、そのあと、長女は入院して、親子ともにリセットできた。

今でも、長女の躁病は治ったわけではなく、気分の波はあるが、6年前のような激しい症状は出ていない。
薬合わせは今後も続くだろうし、生活を整えたり、体調管理はなかなか大変だけど、今は、とにかく生きることができている。

つらいどん底にいたときに、助けてくれた、
DEPAPEPEのスミレ。
ありがとう。

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