Career Creation STORY #6:(株)坂ノ途中 正木久美子さん
今回インタビューをさせていただいたのは、株式会社坂ノ途中で法人営業をされている正木久美子(まさき くみこ)さんです。正木さんは新卒で製薬メーカーに入社後、ドラッグストアの営業・学術部門を経験したのち、株式会社坂ノ途中に中途入社されました。現在は、約200件の農家さんから仕入れた野菜を百貨店やスーパー等に置いてもらうための販路開拓等を担当されているそうです。
インタビューでは、中学生時代にまで遡る学生時代のお話から現在の仕事に関わるお話、将来の目標等を通じて、正木さんのキャリア選択の動機や、大切にしている価値観についてお伺いしました。
健康に興味を持った学生時代―家族の生活習慣と予防医学への関心―
―学生時代についてお伺いします。いつ頃から“健康を支える”ということに興味を持ったのですか?
中学生の時、父親が脳梗塞で倒れて手術をしました。父親のヘビースモーカー、飲酒、野菜嫌い、運動不足…といった生活習慣の悪さが病気に直結するということを間近に感じました。
―健康に関心を持った中学時代の経験は、大学での就職活動にどう影響しましたか?
就職活動時は、健康を支えることに貢献したいと考えていました。健康を支えるというと大きく分けると①病気になってから治療する、②病気にならないように予防する、という2つのアプローチがありますが、前述の父親が病気になった経験から、後者(②)の予防医療に興味がありました。私が就活をしていた10年くらい前は、未病や予防医学がそこまで浸透していなかったように思うのですが、当時第一志望だった製薬メーカーは、薬を扱いながらも、東洋医学に基づいた食事業などを推進していたのが印象的で。「日々の健康は生活習慣にあって、病気にならないようにするのが大切で、必要なときに薬は使うものだ」という考え方を持っている会社なのではと思い、そのバランス感が素敵だと思って入社を決めました。
入社後の学びと違和感
―新卒で入社された製薬メーカーでのお仕事について教えてください。
入社後は、一般用医薬品やスキンケア化粧品の営業に携わっていました。取引先のドラッグストアさんの課題に応じて、自社製品を提案する仕事です。その後は学術部門に異動し、研究開発と営業の仲介をするような役割をしていました。ざっくりお伝えすると、開発部門の方が使う難しい言葉や説明を、営業の人が自信をもってわかりやすく説明できるようにかみくだく役割でした。
―入社してよかったこと、またギャップや不満はありましたか?
よかったことは、比較的大きな仕事も任せてもらえたことです。大企業でありながら、他社に比べると少数精鋭で、他の会社だとベテランがやるような仕事も任せてもらえました。また、温かい会社で、先輩が見えないところでフォローしてくれたりと、社会人としてあるべき姿を教えていただいたりもしました。また、文学部出身の私も学術部門に携われたことで、科学的な考え方を知ることができたのも貴重な経験でした。
一方で不満というか、(後に出てくるデンマークのスタディツアーを通じての)私自身の価値観の変化とともに、必要以上に「美」に対してアプローチすることに違和感が出てくるようになりました。主力事業のひとつであるスキンケアの営業では、アンチエイジングの提案が中心です。 年をとったらシミやシワが増えていくのは当然だし、そこに抗うことを提案するよりももっとなにかやるべきことがあるように感じて。そこに自分の時間をもっと使いたいなと思うようになっていきました。
価値観を変えた、デンマークでのスタディツアー
―そもそも、デンマークに行ったきっかけは何ですか?
テレビ番組に影響されまして(笑)。 それを見て、働き方や教育システムが全然違うことに衝撃を受けました。例えば働き方でいうと、デンマークでは母親だけでなく、父親も16時に退社して子育てをするのが当たり前だったり、教育では、幼稚園からディスカッションをするというのを知って。生きていく上で必要なことを、合理的に実践している、すごい国だ!と思い、デンマークに行くことを決意しました。
―スタディツアーではどんなことを学んだのですか?
7日間のプログラムで、1日ごとに政治、働き方、エネルギー(環境問題)、教育、食(農業)等のテーマを学びました。その中でも興味を持ったのは、環境負荷の少ない方法で、持続可能な農業を実践しているということでした。これがきっかけで、私自身ももっと環境に対してなにかアクションをしたいと強く思い始めました。
―デンマークでのスタディツアーが転職の大きなきっかけになっているんですね。副業や、正木さんご自身が農家になるという選択肢もあったと思いますが、坂ノ途中を選んだ決め手は何ですか?
本業を8時間以上やる中で、残りの時間でやるのには物足りなさを感じましたし、自分には続かない気がしました。だったら、農業に軸足を置いてコミットしたほうが生きやすいのではないかと・・・。また、坂ノ途中は野菜を農家さんから直接仕入れたものを、個人さんや法人さんにお届けするというビジネスモデルで、流通の役割を担っています。農業の知識がないのにいきなり農家になるよりも、そういったことに関わる方が前職の経験も活かせるし、やることのイメージがわいていたので、転職を決めました。
自分が疑問に思っていたことに携わるやりがい
―坂ノ途中でのお仕事について教えてください。
会社としては、約200件の農家さんから野菜を仕入れて、個人さんや、小売店さんや飲食店さんなどの法人さんに向けて販売しています。私は百貨店さんやスーパーさんなどの小売店さんを中心に担当しています。
―転職して大変だったことはありましたか?また、それをどう乗り越えていますか?
飛び込み営業のような新規開拓は全く初めてでした。野菜って安くて当たり前な世界なので、付加価値は高いけど価格も高い野菜ってすぐに売れるわけではなく、予想以上に難しいなぁ、と感じています。それを乗り越えるにはたくさん数をあたったり、伝え方を変てみたり、試行錯誤です。「持続可能な農業を広めたい」などと言っても伝わりにくい部分があるので、「おいしい、品質が高い、珍しい野菜に出会える」などをお伝えして興味をもっていただけるように工夫をしてみたりもしています。でも結局、いまは農家さんが栽培してくださっているお野菜の良さに支えられていますね。
―現在のお仕事のやりがいは何ですか?
ずっと自分が疑問に思っていた課題に携われていることです。オーストラリアやデンマークでは、スーパーにオーガニックコーナーは当たり前にあったのを見たのですが日本ではそういう売り場は多くないように感じたんです。付加価値のあるものを適正価格で流通させることで、こだわってやっている農家さんを支えられるのではと思うと同時に、買い物をされるお客様側にも「少しくらい高くても、いい野菜を買いたい」という需要があるような気がしているので、もっと自由に選択できる環境を作れたら、と考えています。その部分にずばり携わっているのが、一番のやりがいです。
社会に意味のあることをしたい―将来のキャリアビジョン―
―正木さんがこれからチャレンジしたいことを教えてください。
2つあります。1つは、まだまだお野菜の販路を拡大しきれていないので、もっとたくさんの次世代の農家さんを支えられるくらい、多くの方にお野菜をお届けしていきたいです。もう1つは、漠然としていますが、地方にも関わって、農業をする人が増えるようなことをしていけたらなぁと思っています。
―転職を経た“今”大切にしている価値観はありますか?
ひとつの軸にとらわれず、社会に意味のあることをしたいと思っています。転職前は、持続可能な農業にはオーガニックがいいと思っていたけど、土地や農家さんの状況によっては一括りにオーガニックだけがいいとは限らないということも見えてきました。なので以前より考えが柔軟になり、一方の立場に立って、欲しい情報だけを取るのではなく、バランス感覚が重要だと感じています。
―記事を読む学生に一言メッセージをお願いします!
思っている以上に色々なことにこだわらなくていいんだな、というのを自分の人生を通じて思いました。正解はどこにもないので、自分の考えで決断をするのが正解だと思います。傍から見て「何でそんな仕事してるの?」と言われても、「私はこういうことがしたいから」、「この課題が気になったからチャレンジしてる」と自分の言葉で言える大人だったら、世間体やお給料がどうかよりも、それだけでカッコいいと思います。自分の言葉で誇りをもって仕事のことを言える人が増えたら素敵だと感じます。頑張ってください!
インタビュー後記
正木さんのお話を聞き、「社会的に意味のあることをしたい」という価値観を持って、環境が変わってもやりたいことへ挑戦していく行動力に感銘を受けました。中学時代の体験や、会社での業務、はたまたテレビまで、日常生活の様々なところでアンテナを張って疑問を持ち続けたからこそ、その熱意と行動力に繋がると感じています。
これから就職活動を控える私にとって、「自分の言葉で言える大人はそれだけでカッコいい」という正木さんの言葉にはとても勇気をいただきました。正木さん、お忙しい中お時間をいただき、誠にありがとうございました!
(インタビュアー:ECCL修了生 大学3年 行宗文佳)