「解体屋ゲン」91巻!たったひとつの冴えたやりかた。
・はじめに
もはや毎月恒例となりそうな解体屋ゲンだが、この91巻はコロナ禍との戦いでの強烈な退却戦……な回があるので、また纏めたい。いや、まだまだコロナ禍が終わったワケではないが、とても苦く悲しく暖かい話なのだ。
・901~903話 銚子電鉄を救え!
「銚子電鉄を救うために動く、よろず無料相談のたまの湯メンバーに銚子電鉄の調査結果を報告する野島とゲン。犬吠埼灯台を始めとした観光インフラはしっかりしており、銚子電鉄とレンタルサイクルによる『スピードの遅さ』を売りたい野島。だが、コロナ禍が収まるまでは打つ手がない。
そんな中で銚子電鉄がやっていたのは映画製作。『電車を止めるな!』というドコかで聞いたようなタイトルのそれは、心霊列車をテーマにしたホラームービー。でも笑いもあるらしい……。
起死回生の映画を作っていても危機は続く。融資や公的援助の期限もせまる銚子電鉄。動画チャンネル、『犬のおやつ』『銚電マンシール』『イワシに乗った壮年』などの竹本社長ダジャレ商品になにか足せないか?
そんな中でまたいつものケンカ。そして1年間のトイレ掃除をかけて女子チームvsゲンとヒデのプレゼン勝負が開催されるコトに。
女子チームは銚子食べ歩きな調査に。ゲンとヒデは『線路の石』『カットしたレール』『電車の音』まで売っている銚子電鉄に舌を巻く。ネタ出しに苦労するゲンとヒデ、だがヒデは光のパスワードを知っていた。悪い顔をする男ふたりはいったい何をする気なのか……?」
900回記念、銚子電鉄コラボシリーズは毎度の女子チームとの戦いに。野島というコンサルがいる女子チームが有利だが、まさかゲンとヒデが。まあ、あれだ、サングラスがもう少し長かったら……。プレミアムとしょうが味、食べたいなぁ……。
・904話 仕事の面白さとは
「輸入雑貨ショップを畳み、父親に日和見建設の施工管理の仕事を紹介された墨田敦子。ちょうどその頃ゲンは慶子から日和見建設の社長から現体制の問題点の調査をしてくれと頼まれた話を聞く。
現場に入ったゲンだが、コロナ禍なのにマスクを下したり鼻を出している作業員が全員参加の歓迎会と言い出す状況に喝を入れる。時短もない建設業は恵まれている、感染者を出すなと。
朝礼のリモート化をうまく作業員への飴とするなど効率化と労働者目線での対処をするゲンに、昼食も管理したいと提案する敦子だが……。」
期待のニューフェイス、敦子ちゃん登場。じっとゲンの背中を見る敦子ちゃんはまさか……。
・905~906話 経営の多角化へ向けて
「ゲンに興味を持った敦子。社長が足場組立と囃し、作業員の鏡という日和見建設の作業員の話に乗っかるゲンにコケる敦子。たがそれでも敦子はゲンに、ゲンの元で働きたいと言う。
そんな中で女子チームは仕事の多角化、自分たちのクローバー事業部を再検討する。これまで少しずつ手掛けていた不動産事業、農業など新しい事業、だが人手は……。
疲れて事務所に戻るゲンだが、そこには敦子が。人手不足を感じていた慶子に面接を申し込んでいたのだ。事前に相談しろというゲンだが、状況は完全にブーメランだった。
日和見建設の足場組立の仕事に自分の会社を隠してトシとヒデに向かわせたゲン。トシとヒデの話を聞いた後に、日和見建設の問題点を報告に向かうゲン、すべてはゲンの掌の上だったのだ……。」
敦子ちゃんの五友爆破入社と建設業のウミ出し、建設業の人手不足、そして今後の解体屋ゲンの多角化方向の志を描く2話。日和見建設の作業員に起こりつつも職人の技量はしっかり褒めるあたりが現場主義のゲンらしさ。
・907話 逆転の発想
「クローバー事業部の再開初仕事。慶子・敦子・野島で取り掛かる案件はさくら商店街『のみくい処大山』の立て直しであった。商店街の顔の大山の店もコロナ禍でさんざんな売上に。
宴会キャンセル、時短、緊急事態宣言と悪夢に襲われる大山。そして敦子が輸入雑貨ショップを畳んだのもコロナ禍の売り上げ減少が原因だった。
大山は鮮魚店を畳んだ田上を雇っており、彼を切るワケに行かない。耐震改修の借入金もある。しかし、大山の店の常連だった近隣学校の保護者や会社員は動けない。
コストダウンや宅配重視を考える野島と慶子だか、コロナ終息後に客足が戻るとは限らないと言う敦子。とんでもなく難しい問題なのだ。
田上が事務所に来て、5歳の娘と嫁を心配し、クビなら早く言って欲しいと嘆願する。彼もまた必死なのだ。あと半年持つかどうか、鉄太すら心配するゲンの家の夕食時に敦子が持ってきた改善策。それは、慶子や敦子、野島には考えられない方法だった。」
敦子ちゃんの改善策。慶子たちだけではなく、ゲンを読んで来た人間にも考えつき難いそれは、長期連載の怖さと強味を体験させるものだった。ゲストキャラがこうなる話はなくもない。だが、900話を超えた時点でコレを持ってこられると、ちょっと泣きそうになる、そういう話だ。救いもあるが、コロナ禍の厳しさを見せつけられる話である。
・908話「となりの芝生」
「同級生の遠藤の知り合いからの依頼で巨岩爆破に向かうゲン。でも今日は誰も使わずひとりの仕事。仕事上で他人のエゴに振り回されるゲンは全ての悩みを抱きかかえて山を登る。
依頼人の柿内と(ゲッターロボのムサシみたいな顔で)合流したゲン。集中豪雨で流れた巨石が山道を塞いでいる。一人で爆破準備を進めるゲン。
昼飯の握り飯を食べるゲンたち。今は山でなんでも屋をやり、山を眺める柿内だが、バブル時は商社マンとして派手な生活をしていた。実は柿内は相場の魅力から逃れるために山に籠っていたのだ。
さて爆破は……。」
ゲンの息抜き回。たまにこういう回が挟まれるからゲンの人間味に厚みがある。解体爆破の息抜きに爆破をするゲンはまるでマンガの息抜きにマンガを描く高橋留美子先生のようだ。
・おわりに
結構明るくなるハズの話が多いのに、やっぱりコロナ禍の重さが滲む91巻。期待のニューフェイスの敦子ちゃんの活躍に……活躍に……。
なんといっても「907話 逆転の発想」。さくら商店街では一番好きなキャラクターの大山と大山の店がああなってしまうとは、でもコロナ禍の中で守るためにはあれしか方法がない。
その方法は是非91巻を手に取って確かめて頂きたい。
敦子ちゃんの「たったひとつの冴えたやりかた」は900話の重みも多重に使った素晴らしい改善策だった。コロナ禍に沈む飲食の厳しさを一話で綺麗に纏めたふたりの作者の技量に恐れ入るばかりである。
表題の「たったひとつの冴えたやりかた」はハヤカワ文庫SF、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア氏によるSF小説のタイトルをお借りしました(訳:浅倉久志氏・早川書房)。