「解体屋ゲン」93巻!コロナ禍の創作と現実。
・はじめに
解体屋ゲンは94巻もコロナ禍の話が続く。特に終わりの見えない、対策の行方が分からない時期に実話から固めた921・922話はコロナ禍を描いたマンガとして後世に残すべき話なのかも知れない。
・917話 複合災害への備え(後編)
「災害対策のための電気自動車なら車を買い替えてもいいと慶子に言われたゲン。しかし、今の住まいには充電場所がない。ゲン・トシ・ヒデは思う、これは35年ローンを背負わせ、新居を買わせるための……。
それはともかくコロナ禍にも使える災害対策。ロクの家で開催された男女チーム別の発表会で女子チームが最初に出したのは『S環』。他人の触ったものに触れないために使えて、ドコでも買えて安い一品。さらに女子陣の次の一手はインナーマスク。化粧が落ちにくくなり、呼吸が楽になる一品。
さて、男性陣が最初に出したのはソーラーパネルとポータブル電源とポータブル冷凍冷蔵庫。定番かつ最強の品々だが、さらにもうひとつ秘策が……。」
コロナ禍での防災。確かに安くて「押せる」「引っかける」という2つに使えるS環は素晴らしい。インナーマスクは男の発想からは出てこない一品。今ではKFなんとかやクリスタルなんとかなんていう三面立体構造のマスクが簡単に手に入るようになったが、安価な通常マスクを生かすにはインナーマスクは良い商品だと思う。
※ 個人的には標準体型な妹に「デブにはこれ最強」って三面立体構造マスクを渡されたのだが。使いではいいので、ゲンは三面立体構造マスクを使うべきかも。
ソーラーパネルとポータブル電源、ポータブル冷凍冷蔵庫は個人的にも揃えたけれど、購入したポータブル電源は電子レンジやドライヤーもギリギリ使えるものでとても安心感がある。ある程度の容量があると給湯器も使えるし、なにより北海道民としては既設の大型灯油ストーブをそのまま長時間使えるのは最高の防災対策だと思う(灯油は大型タンクだから心配ない)。ものによっては無停電電源の代わりとしても使えるので、とてもお勧め。
※ ただし、93巻の記事でも書いたけど、ポータブル電源の最終処理についてはなんらかの国の方策が必要だと思う。
そしてラストの一品は……停電時の、特に〇〇直〇式マンションには必須かもしれない。
・918~920話 ジョージの現場
「中国、崑海シティの高層ビル爆破解体が始まる。ゲンが身を引いた大型案件。女子陣が悔しがる中で、住菱崑海のクロエから連絡が。
『ジョージが事故で重傷』。
ジョージの意思からクロエ、内田がゲンに要請する。近々にジョージの会社であるダイナメンション・インクが爆破予定だった『ザ・ライトタワー』、そこでジョージの代理人をして欲しいと。すでに準備が整えられ、爆破解体成功率98%。あとはゲンがスイッチを押すだけの簡単な仕事だが。
ジョージの仕上げた爆破解体を譲られたくないゲンだったが、内田はアジアの爆破解体工事の主導権を日本が持ち、ゲンやジョージの実績をも取られる話だからとゲンを動かす。だが、仕事を受けたゲンの思いは……。
『ザ・ライトタワー』の工事現場をジョージの秘書、リサの案内で回るゲンと谷。ジョージの細かく繊細な仕事に驚くゲン。そして、使われる爆弾はゲンが技術をオープンにしたケースが。
住菱崑海が用意した派手な演出により爆破スイッチを押すゲン。アジアの高層ビル爆破解体の未来を担うジョージとゲンの共同作業、果たして『ザ・ライトタワー』を綺麗に消し去るのか?!」
解体屋ゲンのツンデレなメインヒロイン、ジョージ富田とゲンの共同作業。まるで今期アニメ「恋は世界征服のあとで」の最終回的な……。
それはおいておいて、親会社である日本の住菱グループを喰い、排除する住菱崑海。不動産バブルが弾ける直前の中国の勢いがよく出ている。とにかく今の日本は全てそんな状態で、大半の産業が劣勢になっている。まあ、昔のアメリカや欧州と日本の産業歴史を3倍速以上でリピートされているのだけど。
ジョージの素晴らしい仕事に圧倒されたゲン。だが一敗地に塗れるまでには至っていない。ゲンは次の目標を既に決めている。日本を爆破解体で救う大工事へ!!
・921~922話 新型コロナウイルスの光と影
コロナ禍で立ち上げた理沙のアメリカン・パイのテイクアウト専門店「PlanB」は順調に営業を続けている。だが、野島は思う。圧倒的な美女店員である早紀の魅力がマスクで隠れていて勿体ない!
そんな中で、ロクの元に曳き家の岡本から連絡が。コロナ禍で調査依頼はあっても仕事が入らない、東日本大震災から全国的に動ける体制を整えてきたのに、決まっていた仕事までもコロナの影響で消えていく。社員にも出向を頼む状況で、廃業も……。
話を聞いた野島とゲンが動くも、住宅販売は戻りつつあるが、特殊な職人仕事である曳き家は、施主もコロナで命を奪われやすい高齢であり工事の延期してしまう状態。有効な打開策は出てこない。曳き家岡本はどうなるのか……。」
「PlanB」の好調が続き、ついに理沙の目標である祖父の店、マンマ・ミアーズ復活が見える一方で曳き家である岡本さんの仕事の行方は見えない、光と影のコントラストを描いた一作。
そして、それはサイドストーリーとして進んでいた普通の開業ストーリーから、解体屋ゲンが描くコロナ禍の代表ともいえる開業ストーリーへとシフトして今に至る創作の中での理沙の「PlanB」と、コロナ禍で揺さぶられるガチの現実世界での岡本さんの「曳家岡本」の話のコントラスト。
解体屋ゲンは全てがハッピーエンドで終わるマンガではないが、長く続けられている理沙の、マンマ・ミアーズ復興の話にはハッピーエンドになって欲しい。コロナ禍で戦った飲食の成功例を見たいというのは多くの読者の思いであり、作者たちもそう考えていると思っている。
一方で岡本さんの、「曳家岡本」の話は現実。他の記事でも書いているが岡本さんは実在の方であり、解体屋ゲンと現実を繋ぐためのサブレギュラー。その岡本さんのコロナ禍は、創作の解体屋ゲンの中でも簡単にハッピーエンドには向かわない。それは読者も作者たちも求めていない。多分、岡本さん本人も。現実が向かうまでは。
世には岡本さんのように、いやそれ以上にコロナ禍に潰されている人も沢山いるだろう。もう廃業した企業だって多いだろう。でも直接の悲鳴はそうそう聞けたものではない。内情をさらけ出してくれた岡本さんの度量を賞賛したい。
そんな今、マンマ・ミアーズのモデルになったと思われる店がこの夏で世から消える。コロナ禍よりも再開発が原因とのコトだか、これで作内になにか変化は起こるのだろうか……?
・923話 だんまりの理由(わけ)
「とある現場でトシが別の会社の若手を殴る事案が発生。だがトシはなにも離さない。仲介に入ったゲンにも何も言わず、午後からのワクチン接種に向かう。接種券は慶子が忘れていたために敦子が運んで来たらしい。
どうしても殴った理由を話さないトシ。ゲンはゴンの倉庫のリングにトシを連れて行く。ふたりの話し合いはいつも肉体言語、このままだとトシの七色に光りそうなアッパーか、宇宙の亡霊を呼び起こすようなゲンのフックが……?そんな二人の拳が交わる前にゴンの倉庫に来たのは……。」
忘れたころにやってくる、粗暴かつ繊細なトシを描く話。本当にこの男は色々と面倒くさい。
そして、暴力を暴力で否定するゲン(笑)
……それにしても敦子ちゃん、センスが悪いぞ。
・924話 官からのプレゼント
「暑い夏に日本に帰って来たひとりの男。リモート会議以外では初めて会う部下の関根を連れて向かうのは国土建設省の副大臣、尾上陽子の元。
そんな頃、内田からリモートで谷とゲンに連絡が。内田の話では国土交通省から新工法の事務手続きを簡素化する通達が出たという。
谷の無人重機による施工の自動化などもその範疇だが、なによりも爆破解体が入っているという。ゲンの日本を爆破解体で救う工事の実現に一歩も二歩も前進する通達だが……。
海外から帰って来た男は国土建設省の課長補佐の縞。実は縞は以前に光が動画配信していた、ゲンが居酒屋で建設業に意見する番組にシマウマの覆面で出ていた男だった。なお、ゲンはその正体を知らないままだ。
日本経済の停滞の原因は政府と行政に責任があるという縞。だが民間との連携の手動権はこちらが握るという。
縞はゲンたち民間の味方なのか、それとも建設業を伸ばしつつも私欲を満たそうとする男なのか……?」
光の居酒屋盗撮動画配信な回で官から来たとして出てきたシマウマ仮面の男、縞がついに正体を現す(個人的にグレートゼブラと呼んでいる。元ネタはもちろんタイガーマスクの、中身は実在の偉大なあの人っぽい全身タイツな偉大なシマウマから)。
基本的に官は悪役が多い解体屋ゲン。その中で物語を、根幹のストーリーを動かすために日本に帰ってきて正体を現した官の、行政側の縞(と関根)。
副大臣とも強いパイプを持つ縞は解体屋ゲンのグレートゼブラとして建設業を動かし、ゲンの夢を叶えるひとりとなるのか?それとも……とにかく面白そうなキャラクターが増えた!(関根も)。
・おわりに
解体屋ゲンのこれからの主戦が定まった93巻。だが、やはりコロナ禍の現実を描く「新型コロナウイルスの光と影」の存在は大きい。コロナ禍が過ぎ去るのはいつの日か。ともかく解体屋ゲンにはそれまで、この禍を描き続けて欲しい。もちろん爽快な解体爆破と共に!