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いま求められる完璧なゆるさ!マンガもドラマも楽しい「めんつゆひとり飯」
・はじめに
まさに冬のシーズンと言われた前期の冬アニメから、一転して鬼滅の刃、水星の魔女、アイマス、爆炎、僕ヤバ、推しの子、天国大魔境、ゴールデンカムイ……とビックネーム作品が押し寄せる2023年春のシーズン。
だがしかし、そんな強力ラインナップの前に超強力なマンガ原作の実写ドラマが現れた!アニメ見てる場合じゃねぇ!!
…そうかな?そうかも。
そのドラマの名は「めんつゆひとり飯」
ぼっち・ざ・ろっく!に続き、ピンクジャージの主人公が大暴れかも?
ドラマ版:製作 BS松竹東急と松竹・BS松竹東急<BS260ch>にて放送中・松竹東急オンデマンドで見逃し配信、DMM TVにてプレミアム会員向け配信中!
原作:瀬戸口みづき・竹書房・エッセイささくれーる連載中(まんがライフ休刊に伴い移籍)・単行本現在5巻まで発売中!
・あらすじ
「楽がいい、楽でいい、楽しかしたくない!
ひとり暮らしのOL、面堂 露(めんどう つゆ)は楽を求めた結果、ひとり飯最強ツールの使い手となった。そのツールの名は『めんつゆ』。究極のズボラ料理で最高のタイパを得るために鍛えられた露の発想力は、次々と新しいめんつゆレシピを開発するのだ。
出来るだけ手数を少なく、洗い物を少なく、包丁なんて使わない。カット野菜も電子レンジもある時代、めんつゆさえ使えばみんな茶色くみんな美味しい料理になる!
一方、露の同僚・同期である十越 いりこ(とごし いりこ)はしっかりものの兼業主婦。主婦業も社長秘書もさらりと完璧にこなすいりこはどんな料理でもあとひと工夫を考え、めんつゆすら鰹節や昆布から自作してしまう。まるで露とは逆な人間である。
そんなふたりはライバルと書いて友……ではなく、ただのゆるい友達なのだが、お互いの料理を『美味しい。それもありなアイディア、でも基本わたしはやらない』として生きている。
だが、互いの料理が気になるあまり、いつしか料理を作る時におたがいにイマジナリーフレンド『心の十越さん』『心の面堂さん』が現れるのであった。『心の十越さん』は露に手間を求め、『心の面堂さん』はいりこにめんつゆを強く推す。
時にはダメだし、時には応援するが、イマジナリーフレンドなので肝心なレシピは自分の能力以上のものは出してくれないのが残念な心の人たち。
それはともかく究極のめんどくさがりと至高のきっちりさんのゆるいおすそ分け対決。同僚たちはそれを微笑ましく見守りながら、今日もふたりの料理をご相伴にあずかるのである……」
・さっぱりすっきり時々お肉
マンガも連載も、とにかく肩の力が抜ける、今どきの疲れた人々が自宅でヒロインの露のようにゴロゴロしながら見るのに最適である。露もいりこも他人に負荷を与えない人間である。
めんつゆから距離を取り、もう一手を作るいりこに対しても露は「十越さんらしい(笑)」で終わるし、自分の料理を圧倒的手抜きで再現しようとする露に対しても十越さんは「面堂さんらしい(笑)」で終わるのだ。
だいたい料理中に心の中のどちらかと話して作っているから、その時点で些細な差異は解決されているのである。
ただし、仲良くお互いの料理をおすそ分けして食べていても、『料理バトル』は存在している。ふたりも仲間もあまり意識していないけれど、そこに『料理バトル』とうんちく、そしてレシピという料理マンガに必要な要素が存在しているのがこのマンガの新しさかもしれない。
ごはん(炭水化物)と肉が全てな元イケメン現丸い男の保ケ辺、その保ケ辺にちょっとヤバい恋をして同じごはんと肉の住人になりたい白田、めんつゆ使いの露を庶民の代表として可愛がり、庶民の食を求めるも会話が雑で翻訳にいりこが必要な社長。同僚たちも茶色い料理があればいい人材が揃っているのである。
※ おかずの縁で露と保ケ辺が親しいのに対して横恋慕する白田だが、露は保ケ辺を食欲魔人としか見ておらず、白田に対しては行動が微笑ましいと思っているので、そこに三角関係は成立しない。成立するのは三角おにぎりだけなのだ。
・めんつゆという日本最強?の調味料
出汁と醤油とみりんと砂糖。めんつゆは和の調味料が合わせられた、究極完全体の調味料である。冷やしても熱しても旨い、かけて焼いても旨い、つけるだけでも旨い。
さらにはチーズやパスタと合わせて和風〇〇という魔改造洋食も作れるのである、恐るべし。
世には手抜き料理の代表としてめんつゆ料理を否定している人が数多くいるが、このマンガはそもそもヒロインが手抜きの手段として堂々とめんつゆを使うのである。楽でいいのだ。
だいたい食品メーカーが叡知を振り絞って作り上げためんつゆが、素人が真面目に作った味にそうそう負けるわけもないのだ。このマンガでは料理名人であるいりこの存在と、なにより明朗快活でさっぱりした露の性格とさっぱりを目指した露のキャラクターデザインでめんつゆ否定を中和する。
ドラマでは料理にひらめくと、飛び回るめんつゆの中で露役の鞘師里保さんが見得を切るシーンがある。白の背景と衣装、そして飛び回るめんつゆが、サブリミナルのように白飯と茶色いおかずを視聴者にイメージさせ、それを肯定させるのである。飯テロにも程がある(笑)
※ なお、めんつゆに関しては本作とともに「そばもん ニッポン蕎麦行脚」(山本おさむ・小学館)をお勧めしたい。少しギャグもあるが骨太にそばを描く、そばマンガの最高峰。もちろん出汁とかえしという名のめんつゆも何度も描かれ解説されている。noteの記事も書いているので、お時間があれば。
・納得のキャスティングと綺麗な絵作りのドラマ版
ドラマ版の露は鞘師里保(さやし りほ)さん。モーニング娘やハロプロで活躍したアイドルだったのだが、ドラマ初主演とは思えない程に明るく元気でズボラなヒロインの露を完璧に演じている。
前述したようにマンガではさっぱりなキャラデザインの露なのだが、美人系の鞘師里保さんが、とてもさっぱりでマンガの露そのままに見えるのだ。メイク等の力か、演技力からなのか、とにかく露以外の何者でもない。恐るべし完璧なキャスティング。そしてエンディングのダンスはキレッキレ!
その他の面々も、清楚で美人ないりこ役はこれも完璧にフィットして演じる山口まゆさん、元イケメンから肉魔人となった保ケ辺をイケメンから高木ブー役まで体形も変えてこなす加治将樹さん、恋愛依存症の若手な白田は元おはガールで芸歴の長い岡本夏美さん。
露たちの会社の社長についてはドラマ化にあたって残念美女から社長に相応しい年齢の女性に変更されたのだが、演じているのがふせえりさん。元ビシバシステムの布施絵里さんなのだ。早くも2話にして素晴らしい怪演である。文句が出て来るワケもない。
北海道以外の人は知らないかもしれないが、実はあの最強ローカル番組「水曜どうでしょう」は初期は大泉洋・鈴井貴之のゴールデンコンビ以外の企画が数個あり、アーティストインタビューや雅楽戦隊ホワイトストーンズRと並んでビシバシステムのコント企画も存在していたのだ。
※ 現在は「水曜どうでしょう 外伝 ビシバシステム傑作選」としてHTB 北海道テレビの動画配信サイト「hod」で有料視聴可能である。
そして絵作り。基本的には室内劇だが、これもさっぱりした絵で、やさしく暖かいライティングが見ていて疲れない。配信の動画も画質が高くてありがたい。
一番登場頻度が高いかもしれない露の台所は、面倒だからよけいなもの(包丁など)を使わない露の設定のおかげでシンプルに綺麗。一人暮らしにしては大きくも感じるカウンターキッチンだが、今の時代では違和感もない。
もちろんいりこの台所も綺麗。主婦設定から白ベースの広いキッチンをダイニングテーブルとかも映るようにして露との違いを出している。カットによっては椅子などを左右対称にしたレイアウトで「きっちりさん」であるいりこを表現している。
・おわりに
正直言って、極上のマンガの実写ドラマ化である。4コマベースの小品ではあるが、マンガの実写ドラマ化として最高峰であるアオイホノオや、同じ飯テロ物である孤独のグルメに引けを取らない完成度だと思う。鞘師里保さんを主役に据えた人は素晴らしい仕事をしている。いや、関係者全てがいい仕事をしているのだろう。
昨年の春から開始したBS松竹東急、正直言うと現状ではかなりニッチな放送局という感じがする。だからこそ現状はどの作品もキラーコンテンツとしてしっかりと作られているのかもしれない。これからは番組表のBS260chもしっかりチェックする必要がありそうだ。
マンガも竹書房で「めんつゆひとり飯」、芳文社で「ローカル女子の遠吠え」をヒットさせ、いまの王道4コマの中心人物といえる瀬戸口みづき先生の作品である。個性あふれるキャラクターを存分に楽しく動かしており、「めんつゆひとり飯」についてはマンガで楽しんだ後に簡単にめんつゆを使って再現可能なレシピという強味も素晴らしく上手く使っている。
※ 地方マンガの王者「八十亀ちゃんかんさつにっき」完結の今「ローカル女子の遠吠え」がその座にあるのかも知れない。静岡に興味のあるあなたに。
とにかく極上のマンガの実写ドラマ、なかなか見つかりにくいけれどとてもいいドラマなので多くの人に見て欲しい。そして面白ければ原作マンガも手に取って欲しい。ドラマ2期の分量はたっぷりあるので、このクオリティで引き続き2期が、いやそれ以降も製作されるコトを祈りたい。