2024年のマンガまとめ!
1.はじめに
あっという間に2024年ももうすぐ終わりを迎える時期に。
2024年の個人的なマンガの感想について纏めてみようと思う。今年も色々と面白かった。ありがたい!!
2.今年も王者は「メダリスト」
自分が読んでいる限りで、やはり今年も「メダリスト」(つるまいかだ・アフタヌーン)が強かった。画力、ストーリーとも文句なし、なによりも1ページ毎の画面構成が素晴らしい。連続して躍動する技の動きを全て入れ込み、さらに競技説明と登場人物の感情という恐ろしい情報量をロジカルに読ませるコマ割り、だがロジカルなのに美しいコマ割り。美しさと狂気を両立させる白と黒による絵のマジック。
2025年突入と共についにアニメもスタートする。推しの声優に主人公役を与えるために、絶対アニメ化させるという信念で描かれた稀有なマンガ。PVは上々の出来、OP曲は原作を全人類に読んでもらいたいという米津玄師が紡ぐ「BOW AND ALLOW」。弓と矢、最大限に技術と心の弓を引くコーチとブレずにまっすぐメダリストになるため羽ばたき飛んでいく選手。バディの話であるメダリストの解釈としてはこれ以上ないタイトルだ。
あとは製作スタジオ次第。大きな武器である白と黒のマジックは使えない(使うのが難しい)、ロジカルだが複合的で情報量の多いコマ割りをどう動画として映像化するかも難しい。大変な仕事だが、頂点を獲らなくてはならない原作なのだ。去年も書いたがアニメスタッフは覚悟を持って頑張って欲しい。
3.コンボイを形成して海を進む野上船団
「はるかリセット」(チャンピオンクロス・野上武志)を脅威的な速度で描きつつ、なろう小説の強者である樽見京一郎先生(挿絵THORES柴本先生)の「オルクセン王国史 ~野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか~」(一二三書房・樽見京一郎・野上武志)コミカライズの連載も手掛ける野上武志先生。
さらに「はるかリセット」のキャラ、ユイ・阿羅本の元ネタ阿羅本景先生の原作で別所ユウイチ先生が作画する、ユイ・阿羅本主役のスピンオフ「今日もビールでがんばらない~ユイとケイのカンパイリセット~」(阿羅本景・別所ユウイチ・チャンピオンクロス)。
紙面やX(旧twitter)での連携を取りながら突き進む様はさながらコンボイ(護送船団)のようである。全てSNS等でコマとページの画像キャプチャの使用を認めており、二次創作も問題ない(実は二次創作については他二作と違いオルクセン王国史はコミカライズ書面では言及がないが、原作の樽見先生がオルクセン関係の二次創作に#野生のオルクセンというタグをつけてXで紹介しまくりの状況なのである)。
とにかく面白いから流行らせたいという気持ちが見える。そして実際キャプチャが使えるのは紹介しやすく、二次創作で推しやすいのはファンにとってありがたいコトしかないのだ。もちろん野上先生自体がガチプロマンガ家でもありつつ、これまでもこれからも二次創作界の雄であって、ファン心理をがっちり握れるからなのだろうが。
実際に「はるかリセット」は仕事で疲れた心身の癒し方の紹介自体が癒しになるという素晴らしいマンガだし、「オルクセン王国史」は原作が素晴らしい兵站主役の異世界戦記で、かつ野上先生が得意の戦場作画の真骨頂を見せまくる圧巻の傑作だし、「カンパイリセット」は個人的に大好きなクラフトビールの楽しみ方の話であり読むと涎が湧いてくる作品で、クラフトビールのファーストタッチには最適なマンガ。どれも素晴らしい作品である。
このコンボイには二次創作も集まり、他種族が笑顔で過すオルクセン王国のようなマンガの楽園として進みそうだ。映画の「コンボイ」やSF護送船団の傑作「宇宙空母ギャラクティカ」のようにコンボイの前には邪魔が待ち受けるが、そうはならないで長く続いて欲しい。
4.面白さが止まらない「令和のダラさん」
去年と変わらないラインナップな気もするけど、やはり「令和のダラさん」(ともつか治臣・カドコミ・ニコニコ静画)は今年も面白かった。
登場人物も世界もゆっくりと増やしつつ、前半の過去話とメインの日常話の融合性がどんどんと高くなっている。もちろんギャグはキレッキレのままだし、なによりももはや変身ヒーロー(?)かつメインギャグキャラとなったオロチさんのキャラの魅力たるや……いや、悪役なのだけど。
とにかく癖(へき)の強いキャラクター揃いだけど、その濃厚な癖が読者を引き寄せるのである。ダラさんとオロチのダブルヒーロー(宿敵同士)と、それを操る少女たちの化かし合い(変換で馬鹿試合が出てきたがそれも言い得て妙)が楽しいのだ。
すっかりダラさんはコスプレ強者だしなぁ……
5.ジャンプ+脅威のアニメ化2期決定率
今期ジャンプ+からは「ダンダダン」( 龍幸伸)「2.5次元の誘惑(リリサ)」(橋本悠)「株式会社マジルミエ」(岩田雪花・青木裕)がアニメ化されたが、現時点で既に全作の2期製作が決定されている(判断が速い!)。円盤が指標になった時代が終わり、配信による即時データで2期決定の速度が速くなったのか、はたまた契約上でそもそも2期が用意されたのか?
でもこのタイミングで夏アニメだった「ラーメン赤猫」(アンギャマン)の2期製作決定の発表もあったりなのでなかなか判断が難しい。ラーメン赤猫大好き民にはありがたい話だが。
現在までのジャンプ+アニメ化作品が21作、うち2期製作作品が決定を含め11作。なかなか厳しい現状の中で5割以上が2期製作されるのだ。アニメ化作品の量もどんどん増えており、とにかく強力である。当初は酷いアニメ化もあったのに。
個人的にジャンプ+は長期連載が弱いと感じていたのだけど「2.5次元の誘惑(リリサ)」は途中でのコンセプト変更の後は泣けるスポ魂作品として(コスプレだけど)とても安定している。夏と冬のコミケが高校野球マンガの春の選抜・夏の選手権のように機能して、そこへ話の頂点を持っていくスタイルに化けたのは英断だった。
一方でダンダダンはシャトルランだ。もちろん大枠でのストーリーはあり、最近は宇宙人・妖怪・御伽噺のからくりが読者にも見え出したのだけど、マンガのスタイルとしてはダッシュの繰り返しで作者も読者も酸欠になりそうな凄さと面白さなのだ。週更新ペースのマンガとしては異常な作画と濃度を保ちつつ。
6.驚異のバズりマンガたち
「ドカ食いダイスキ! もちづきさん」(まるよのかもめ・ヤングアニマルWeb)
驚異のバズり作品。血糖値スパイクでの気絶を「至る」と宣い、通常(男性)の3倍くらいなカロリーを腹に叩き込む。腹が空いたときの異様な行動は奇行種のごとくで、食べる時には語彙が減り「うまい」「しよっぱい」と食べ物マンガとしてはありえない、あってはいけない状況に至るのだ。
絵のインパクト、ネタのインパクトどれも秀逸すぎて恐ろしい。もちろんもちづきさんの食欲こそが恐ろしい。そしてこんなマンガを見つけて、あっという間にヒット作に仕立て上げたマンガ強者たちは心底恐ろしいのだ。
「サンキューピッチ」(ジャンプ+・住吉九)
「ハイパーインフレーション」でゴリゴリの金融話にポンポンとバカを放り込んで、英知バトルだかバカバトルだか分からない異様な作品を作り出した住吉九先生の新作は野球マンガ。しかしやっぱりポンポンとバカを放り込んでいたのだが、野球部監督の古典の阿川先生という野球知識皆無の巨女を出したトコでX上にて一気にバズったのだ。
「ハイパーインフレーション」で戦闘民族な巨女ダウーというヒロインを作り上げた作者だけのコトはある。癖(へき)なのか、癖なのか?とにかく皆がヤベー女が出て来たと思ったのは面白い。いや、サンキューピッチというネタから作り上げる話もしっかりと面白い。英知とバカのやや斜め上なバランス感覚が異常に良いのだ。
「スターウォーク」(浅白優作・WEBコミックガンマ)
X上でSFマンガ好きどころかSF作家も巻き込んで「凄いSFが出て来た」と皆に言わしめた作品。主人公ミアが宇宙船で人口睡眠から起きたら目的の地球は動いていた。しろわんと言うペット型AIと共になんとか地球のなんとかなにそうなトコに降り立つと、見知らぬ怪物が……
って導入もしっかりとロジカルだけど、でもふんわりした絵なのにハードSF……それからの展開がまあびっくり。1巻の巻末ではさらに驚きの展開に……
いやいや、こんなSFが出て来たらそりゃみんな驚いてバズるわな、ゆるふわでハードSF。でもしっかりと地球が動いてたらという「ひとつの大ウソを成り立たせる」という王道のSF。どこに向かうのかさっぱりわからないという点ではとても楽しみな作品だ。
7.2024年に完結したマンガたち
「らいか・デイズ」(むんこ・まんがホーム・まんがタイムオリジナル)
21年間35巻、日本の4コママンガの王道を進んだ「らいか・デイズ」が終わった。天才小学生春菜来華と仲間たちは2024年、ついにいわゆるサザエさん時空を超えて、小学6年生を終えた。きらら系の展開の横で芳文社の往年の4コマ誌を屋台骨として支え続けた傑作だった。むんこ先生の花丸町ワールドはまだ色々と続くとは思うけど、とても寂しい。来華の大好物のサンマを食べるたびに思い出して泣きそうになりそうだ。
「毎月庭付き大家つき」(ヨドカワ・コミックNewtype)
百合パートナーに捨てられたマンガ編集者アサコとアイドルを引退した大家さん=ミヤコの同居生活。百合マンガにありそうな陰湿ジトジト展開もなく、爽やかな日差しの縁側みたいな話で、全話が本当に面白かった。特にアサコの担当マンガ家であるハトさん、ミヤコ推しだったハトさんの数度の死に様(笑)は完璧。
百合マンガだけど、大家さんの藤子的居候マンガ要素も強く、百合を意識しないで普通の恋愛コメディとして楽しめる稀有なマンガだった。単行本の装丁もとても良い。
「夏目アラタの結婚」(乃木坂太郎・ビックコミックスペリオール)
児童相談所職員の夏目アラタと猟奇連続殺人犯の品川真珠の恋愛。極上のミステリーを至高の画力で描いて来た傑作もついに終了。真珠の「犯罪」の全てが明らかになり、最期の別れに向かうアラタ。そして罪の償いへと向かう真珠。
全てのキャラクターの心の底を見せて終わる清々さ、そしてラストのちょっと老けてよりカッコよくなったイケおじアラタの顔の素晴らしさ。傑作請負人、乃木坂太郎先生の素晴らしい仕事だった。
「ディアボロガール 」(須田信太郎・ミュージック・コミックス)
悪役レスラーのディアボロマン、彼の歌うマネージャー、ショウグンJKサクラダが亡くなった。どうしても歌が必要なディアボロマンは、音楽学校に通うサクラダの娘桜田ミチコをマネージャーにしたいと頼み込む。しかしミチコはシンガーソングライターへの道と片思いの鈴木君のコトだけに集中したい…恋のライバル、生意気なレスラー、色々と襲ってくる中で、いやいやマネージャーとして変装して正体を隠し歌うミチコ。弱者の人間賛歌とプロレスを描かせたら天下一品の作者が「ふたりのマスクマン」を描いた、酒飲んで泣きたい時に読むための作品だ。
『「たま」という船に乗っていた』(石川浩司・原田高夕己・Webアクション)
伝説のバンド「たま」のパーカッショニストなランニングの石川さんの華麗なる(?)音楽遍歴。音楽への興味から上京、楽しい仲間や泥棒な仲間と暮らしながら、いつしか「たま」を結成、三宅裕司のいかすバンド天国にてグランドキングとなり、メジャー志向のないままメジャーの中のメジャーになっていく。そしていつしか時がたち、「たま」という船から降りる時が……。「イカ天」の時代に若者だったオッサンたちに、そして「ぼっち・ざ・ろっく!」でバンドに興味を持った若きミュージシャンの卵たちに読んでもらいたい音楽まんが道だった。
8.専門誌という離島からやってきた大傑作「オーイ!とんぼ」
2024年、自分のnoteで一番読まれた記事は『専門誌という離島からやってきた大傑作「オーイ!とんぼ」(ネタバレ注意)』だった。
アニメの一話を見て全巻買い、その素晴らしさに何度も涙を流した。特にとんぼが育った島を離れる時に書いた作文のシーンは何度読んでも涙が溢れて来る「オーイ!とんぼ」(かわさき健・古沢優・週刊ゴルフダイジェスト)。
週刊ゴルフダイジェストというゴルフ専門誌でずっと描かれたとんぼをアニメ化へと持って行ったのは小学館集英社プロダクションである。
集英社が元々小学館の娯楽部門で、現在も同じ一ツ橋グループなのは有名だが、版権管理、特に映像化とマーチャンダイジング(グッズ化)の多くは小学館集英社プロダクションが行っている。ポケモン、コナンの映像化、SPY×FAMILYやダンダダンなども小学館集英社プロダクションが手掛けている。
そんな中で、ほぼ関係のないゴルフダイジェスト社のコンテンツである「オーイ!とんぼ」が他社コンテンツであるにも関わらず選ばれてアニメ化された、それこそが専門誌という離島からの発見だったのだ。
現在アニメ2期もストーリーとしては一区切りまで進んだ。優れたスポーツマンガとしてしっかり楽しめるアニメの作りはより強くなり、やや原作のギャグは少なくなったものの素晴らしい作品となった。ニコニコ生放送のアンケート結果ではあの「ダンダダン」よりも高いスコアを出したりしているのだ。
よこしまなコメントも多数あり(個人的にはそれもアリ)、でんでん現象(視聴数が減ったためスコアが上がりやすくなる)だと揶揄するする人もいるかも知れないが、ニコニコ生放送のアンケートで90%を超えるスコアを連発する作品に駄作・凡作はまずない。視点を変えてコメントで遊べるが、傑作なのも間違いないという結果だと思っている。
アニメ3期がどうなるかはまだ不明だが、原作を読んで、なおアニメが面白くて泣ける、笑える、熱くなれる傑作スポーツマンガである。もうすぐ54巻となる長編であるが、年末・年始にお勧めのマンガである。
9.おわりに
2024年は長く愛飲していたおいしいビールの味が変わり絶望したり、面白いと思っていたマンガが自分に合わなく感じたりと、残念なコトも多かった。
でも面白いマンガはどんどんと増えて来る。自分は真面目なものよりもギャグのほうが難度が高いと思っている人間だが、そんな中で「ドカ食いダイスキ! もちづきさん」とか「サンキューピッチ」とかのバカをどんどん放り込んでくるマンガのヒット要員と発見の場としてSNSが機能して、ヒット作になっていく現状は素晴らしい。もちろん色々怖い面もあるけれど。
今年の王者も「メダリスト」これは異論を認めない。だが「ダンダダン」現時点の最新178話などはすさまじく面白いのだ。絵的に月刊連載に負けない恐るべき作品が話も真に良くなり続けている。「オルクセン王国史」と「令和のダラさん」も個人的にはトップ争いの第一集団にいる。
※ 月刊マンガと週刊マンガをどう比べるかというのは答えの出ない問題だ
日本のマンガは世界最大・最高峰のコンテンツバトル場なのだ。月1000冊も商業単行本が出て、日に世に出て来るマンガ作品は300~1000以上と言われている。Webサイトの増加もあり、なかなか面白いマンガを探すのも難しくなっては来ているけれど、このコンテンツバトル場がずっと続くのを観ていたい。
そして2025年も面白いマンガを探してゆくのだ……