毎月の解体屋ゲンは終わらない!「解体屋ゲン セレクション版」5冊の全貌。
・はじめに
ついに連載に電子単行本の発売が追いつき、解体屋ゲンの毎月発売が無くなった2022年11月1日。だが、連載20周年としてこの日、新しい解体屋ゲンの単行本が5冊発売された。題して「解体屋ゲン セレクション版」。
今月から始まる新たな「毎月の解体屋ゲン」
今回はその最初の5冊の全話についてご紹介したい。
なお、11月15日まで一冊109円のセール中!
・爆破解体編1
解体屋ゲンと言えば「爆破解体マンガ」とにかく抱える話題の広い解体屋ゲンなのだけど、爆破ボタンをポチッとな!によってなんでも解決する爆破解体は解体屋ゲンの華!セレクションの最初はそんなゲンの初期爆破話が盛りだくさん!
◆集中連載第1話 爆破解体
「赤字続きの解体屋、朝倉工務店のひとり親方、ゲンこと朝倉巌の前に三友重機リースの美人OL大月慶子が現れる。慶子が持ってきた仕事は杉山病院という個人病院の前にある町工場の爆破解体。
下見に行くと簡単な仕事と思えるものだったが、隣の病院を覗いたゲンが見たものは……」
短期集中連載の1話。解体屋ゲンのスタートとなる話はトタン作りの町工場のハズだったのだが、話は大きな個人病院の闇に向かってゆく。
最初から爆破でドカーンだけではなかったのだ、解体屋ゲン。最初の爆破スイッチを押すのがゲンではなかったあたりが素晴らしい。
◆第1話 イヌワシの聖地
「またゲンの前に現れた慶子。今度の仕事は山奥で建設途中に捨てられた三友重機リースのホテル。だが鳥類学者の鳥丸の話ではバブルの遺産の廻りではイヌワシが繁殖を始めており、爆破の音でイヌワシの繁殖が止まる恐れがあるのだ。
慶子に資材と重機とテントを渡され現場に残されたゲン。イヌワシを驚かさない爆破は可能なのか……」
自然を守りつつバブルの遺産を爆破するゲン。近々の連載のシリーズの話とも重なるそれも解体屋ゲンの背骨のひとつ。そして必殺技はグレートマジンガーまたはゾンビランドサガの……(笑)
慶子から渡された報酬、いまは家族で使っているのだろうか。
◆第12話 橋脚爆破
「映画のアシスタントの清水がゲンに持ってきたのは映画の爆破シーン。女優の綾香は、監督五所ケ原のワンマンが酷く当たる要素がない、誰もが昔の情熱を取り戻して欲しいと慶子に言う。
そんな話を知らないゲンは五所ケ原と当然のようにぶつかり、プロの爆破を見せるという。ゲンが用意した橋の上での連続爆破の途中、綾香が転倒して……」
ゲンと映画と爆破のエピソードは結構多い。もちろんアクション・特撮映画には爆発は欠かせないし、今では別の映画バカ二人がセミレギュラーとなっている。連載最新話でも元ハリウッドの爆破技師が大暴れだ。
そして、そんな多くの映画話は、今の日本映画への作者からのエールなのだろう。有名タイトルでも監督が発表されるとえ~となる現状を打破するのに足りないのは金か情熱か……。
◆第16話 呪い岩
「山間の村に横たわる巨大な岩。呪いがあるというその岩の廻りでは奇怪な足音や体調不良が現れ、それが元で自殺者も出るという。
謎の老婆の暗躍の中、ついに光が露天風呂で。だがゲンは呪いの原因をつかむ。ついに怒りのゲンからあの言葉が……『ビデやっちまえ!』」
田舎の鈍い話の解決に奔走するゲンたち。謎の老婆の出現でどんなアレな話かと思うが、ゲンは顔に似合わず科学的な検討を。まあ、ゲンはもともとインテリなのではあるが。
でも秘密を暴いた後はいかにもゲンらしい豪快な解決に進む。「ビデやっちまえ!」はもはやネットミームか。
◆第18話 静的破壊
「廃ホテルの解体を頼まれたゲンたち。だが施主の女将は二日で爆破しろと言う。バブル崩壊によって膨大の借金を抱えた、夫を亡くした女将だが、駐車場になると売ったホテルがラブホテルにされる、騙されていたというのだ。
流石に無理と追い返すゲン。だが慶子と女将が騙していた悪徳不動産屋に拉致された。ゲンの静かな怒りは新たな爆破を生み出す……」
後にゲンの得意な爆破のひとつ、そして最新の爆弾にも使われる静的破壊剤、サウンドレスマイト。そんな資材が中心となる物語はまたもバブルの遺産の話。思えば連載時から今までずっとバブル崩壊からの不景気続いているのだから当然か。
ギャアギャア騒ぐ悪徳不動産屋と静なるゲンとのコントラストが素晴らしい。
◆第87~第91話 海堡爆破(1)~(5)
「だいたい暑いと脱ぐ慶子さん。それはそれとして、そんな慶子さんが都庁で会ったのは東京都内の南の島な従兄島から来た男、一郎。一郎の話では従兄島の港の前に記録にない旧軍の砲台島である第五海堡(かいほう)があり、大型船が入れなく座礁も多いため島が廃れるばかりだと言うのだ。
軍に徴用されて工事責任者をしていた山形のトンネル技師だったという一郎の曽祖父が残した手帳を頼りに海堡の水中爆破に臨むゲンたち。そして光はダイビングの先輩で行代理店の企画担当である美子に資金援助を頼む。
フェリーと貨物船、漁船を乗り継いで従兄島に渡るゲンたちと美子。だが島では爆破反対派の長老たちがいた。島の意見は統一されていなかったのだ。そして水に不慣れなゲンが恐る恐るダイビングして現地確認すると、海堡には手帳に描かれていない部分が。
現状では撤去不可の話を聞いて荒れる島の公民館での寄合。そんな中で美子は自分の会社が足りなくなった爆破資金を提供すると言い出す。たが一郎はリゾート案には反対だった。若者も老人もバラバラになる中でゲンは手帳の秘密を見つける。
島の全てを敵に回してゲンは爆破を実行に移す。全ては手帳の示すままに。一郎の曽祖父が手帳に残した遺産とは?ゲンの点火で全ての謎が露わとなる!」
5話シリーズとなる、旧軍の負の遺産の爆破。いつもの解体屋ゲンとしても一話一話が面白いが、徐々に爆破の障害を描きつつも後半に一番の秘密を浮上させ、その解決と爆破を合わせて見せつつ一気に全てを解決する爽快な技術ミステリー。
そう、極めて上質なミステリーなのだ。謎解きは偶然だけど。犯人を捜すのではなく、先人の残した遺産の獲得。だがそれは金品ではなく、山形から南の島に軍の設備を作りに来た男の、技術での島への贖罪と未来への懸け橋。いつか動く絵で見たい作品である。
・グルメ編1
解体屋ゲンといえばグルメ。爆破解体という背骨があっても週刊漫画TIMES表紙を飾るのは美味しそうな食べ物と笑顔のゲンなのだ。解体屋ゲンの庶民の代表であるさくら商店街の面々は時に不景気の代表となり、時に美味しい食べ物の提供元となるのである。そしてそれはコンサルタント野島秀美の成長記録なのだ。
◆第34話 夏バテ対策
「高級マンションの浴槽でゴロゴロする慶子さん。会社では後輩の鶴見に先に昇進され、ゲンとの三友爆破の仕事は小さく赤字ばかり。そんな気を病む慶子さんだが、皆は夏バテが原因と思い込む。
ロクの発案から祭に合わせて慶子の夏バテ解消に取り組むゲンたち。そしてヒデがクレーンオペレーターの技量で全てを解決……?」
風呂に浴衣と一人頑張る?慶子さん。そしてその解決方法はUNA丼!車好きには違う意味となるUNA丼であるが、それはまあ置いておいて、やはり疲れた時にはUNA丼である。しばらく食べてないなぁUNA丼……。
◆第358話 おせち色模様
「そろそろお正月。ヒデの実家で過ごす光は義母に言われて家の前の掃除。さらにおせちを作ったらと言われてプンスカと慶子に吐き出す光。一方ゲンはさくら商店街を回り、世話をした大山・山岸・田上・秋庭におせちを要求する。
そんな中、光の義母、ヒデの母は光の過去を知る。ゲンの家とヒデ&光の家。両家のおせちはどうなるのか?」
さくら商店街のボンクラ店主たちの弱みを握ったゲンのおせち。嫁・姑戦争の起爆剤となりそうなヒデの家のおせち。家庭に恵まれなかった光の過去から家庭の味としてのおせちを主役とした話。
◆第365話~第367話 人事を尽くして(前・中・後編)
「会社から独立勧告というリストラを言い渡された野島。自分の店を持ちたいと言うトシの嫁小雪。ゲンはそんな二人を引き合わせる。顔色の悪い野島に手製の料理を出す小雪。小雪の料理の腕に感動した野島はお弁当屋を提案する。
不景気の中で新しい飲食店を嫌う大山たちが訝る中、野島から客層の調査の指示を受けた小雪は駅などを散策する。そんな小雪が注目したのは100円ショップで八百屋より割高なハーフのキャベツを買う老婆。
田上はゲンの家で疲れ切った商店街の現状を話す。イベントのネタもなく、ついには秘密兵器の水着姿をさらすという田上に呆れるゲン。
別の会社の面接を受けまくる野島だがいい話はなく、自分の情けなさに落ち込む野島。そんなタイミングに現れた小雪は人に役立つお弁当屋を見つけたという。小雪が出会った老人とゲンたちの前に出されるブリ丼の秘密とは?
そして商店街の一角に現れた『キッチン小雪』。大山たちの反応は?小雪の考えたお弁当とは……」
後に変顔の神……いや、コロナ禍と戦う筆頭として解体屋ゲンを支える存在となる野島と、解体屋ゲンの聖域でありほぼ変顔のない美女としてゲン世界、さくら商店街を生きる小雪。
そんな二人が主役のキッチン小雪の開業話。野島はコンサル料を貰えたのかな?と思いつつも、もっと大事なものを小雪からもらったのだ。でもまだ連載では不憫な野島……いや、そこがいいんだが。
◆413話 別人!?
「中東の油田を世界の為に守り、やっと日本に帰って来たゲン。世界を救った代償は第1話からの自慢だった貯金、腹の肉……脂の減少だった。慶子がホレなおす程に綺麗なゴリマッチョに化したゲン。
そんなゲンを置いて実家に向かう慶子と鉄太。ゲンひとりの家には帰って来たゲンに喜び、ゲンが連れて来た野島のおかげで苦労の中でも元気にしていたさくら商店街の面々が差し入れた御馳走の山が。さらにヒデと光、トシと小雪の二組からも晩御飯のお呼ばれが……」
慶子の夢はいつ閉じる……。
ネタばれ必至な話であるが、まあ平和な回である。商店街に陣取った野島がちやんとさくら商店街の役に立っている話。でもさくら商店街の危機と困難はさほど変わらない現実。コロナ禍が始まる前からこうだったのだ。
かなり飯テロが強い話。石井料理画恐るべし……。
◆第508話~第510話 さくら商店街カレー戦争(前・中・後編)
「さくら商店街に新しい店のオープンが決まった。インドの山奥で修行したレ……じゃない、世界を駆け回って香辛料に精通したビジネスマンらしい。
ライバルの北口商店街にはチェーン店の中……じゃない「スパイス一番」しかない。差をつけられると湧き上がるさくら商店街の面々。だが塩野の焼肉屋での歓迎会に現れた花田はビジネスホテル勤務の一般人。得意のカレーは市販ルーベースの……。
そんな花田を伝説のカレー職人にするためにゲンが動く。モヒカンに花マスク。見た目だけは伝説の……。
そしてゲンが小雪のツテで呼び出したのは一流ホテルの料理長やライバルの「スパイス一番」のルゥ開発をしていた調理専門学校の教師、久米。残念な動機でカレー屋になりたくなっただけの花田に怒る久米だが基本だけ教えると……。
そんな中でライバルとなる北口商店街の「スパイス一番」が本格派カレー専門店になるとの話が。それは昔から久米が「スパイス一番」に要望していた店なのだ。
予算のないリフォームと花田の基礎教育の中、久米はスパイス一番と戦うためにある決意をする。「スパイス一番」が作った本格的カレー専門店「ホールスパイス」の出す、圧倒的な味とボリュームの「五大陸カリー」。ついに開店する花田の店「ふらわーきっちん」は……」
解体屋ゲンの中でもかなりの問題作。なにせ花田のコスプレが往年の……(笑)
リフォームや厨房機器を描く部分もあるが、完全にグルメマンガの作りの回なのである。新規出店の厳しさもほどほどに、うなるカレー蘊蓄とスパイスの香り。
ほとんどが残念要素のド素人の花田だが、ド素人としてのポテンシャルがあった。壊れたカレーの夢を叩き込む真の伝説のカレー職人久米とのデコボココンビの成長が面白い。
ただ、花田じゃなく全面的に協力した小雪がカレー屋やったほうが商店街のためとなり、儲かるのではという疑念は残るのだ(笑)
◆第572話~第573話 あなたのおソバに(前・後編)
「野島のコンサル事務所に現れた大西。定年を機に、趣味で20年続けていた蕎麦の腕で蕎麦屋を開業したいと言う。だが野島はコンサルの仕事で失敗した蕎麦屋を数多く見ていた。
安易な考えを止めたい野島は大西の家に向かい、大西の妻と話をする。大西の妻は実際は蕎麦屋の接客はやりたくないと言う。そして大西が野島に用意したそばの味は……。
ゲンの事務所で野島が饒舌に大西の蕎麦を解説する中、ヒデと光が現場近くのやる気のない蕎麦屋、米寿庵の話をする。早く辞めたいという店のオヤジに怒るヒデと光だが、野島の目には……。
大西と米寿庵に向かう野島。オヤジには好条件と言われるも、二つの要望を出される。
配達と安価な蕎麦の提供。米寿庵のオヤジの要望、しかしそれは大西のプランとはかけ離れたものだった。米寿庵の引継ぎ案は亡き物となった。しかしゲンは大西とある場所へ連れて行く……」
蕎麦漫画の大傑作「そばもん」でも描かれた開業と引継ぎ事案。解体屋ゲンではコンサルの野島というキャラがいるために開業の難しさとその解決がメインとなるが、配達が重要となるのは蕎麦屋マンガの宿命か。
めんどくさがりな米寿庵のオヤジがしょうがねぇからとダラダラやっている仕事が街を少しだけ守っているあたりが良い感じである。
そして大西が蕎麦屋を繋ぐコトを意識したためにもうひとつの問題もさらりと解決しているあたりが良い風味。ゲンで蕎麦といえば原島屋という店もあるが、それは別のセレクションでのお楽しみか。
◆特典
グルメ編だけゲンと料理のイラストがついてくるのだが、これがもう完全完璧な飯テロ過ぎて困るのだ(笑)
・曳家岡本編1
解体屋ゲンにセミレギュラーとして登場している現実に存在する曳き家職人の岡本直也氏、そして岡本氏率いる曳家岡本。第462話から年老いたロクさん(失礼)に代わり、解体屋ゲンの曳き家・沈下修正の現場の親方となり、解体屋ゲンと現実世界を繋ぐ存在である。もう単行本1巻では収まらない岡本さんの活躍を最初から読めるセレクション!
◆第462話~第463話 曳家の心意気(1)~(4)
「首都圏の湾岸地域では大地震による液状化現象で多くの家が傾いたままである。ところが大工の国勝が言うにはそんな中にジャッキ2~3個で沈下修正をするにわか業者が存在しているという。
曳き家職人として怒るロクがゲンたちに紹介したのは高知から沈下修正に来ていた岡本直也。古くから地震や台風に悩まされた高知では曳き家の仕事が大切だったのだ。しかし高知の仕事も減り業者も僅かになっているという。
ゲンは岡本が沈下修正している家の見学会を開くコトにした。そんな中、にわか業者のひとつ、スマートフラットの滝口たちはインチキな手で補修した家の有料再補修で稼いでいた。曳家岡本に仕事を取られ出した滝口たちは見学会に潜り込むが……。
次に区民ホールで説明会を行う岡本。その場に紛れ込んでインチキだと言う滝口たちだが、七十年の曳家岡本の実績の前ではただの詭弁。よそ者として客を煽ろうとした滝口だが……。
区民ホールに現れたのは滝口だけではなかった。注入工法等が得意なウレテックジャパンの川口会長である。自分たちの技術以外もリスペクトする曳家岡本と提携したいというのだ。そんな夜に滝口たちは曳家岡本を狙う……。
ゲンたちの活躍によって滝口の悪事は止められた。だが、岡本の心に迷いが出る。東京を中心とした仕事でいいのか。だが曳家岡本の仲間たちは……」
曳家岡本登場。あの地震でズタズタになった首都圏のあのあたりの沈下修正に来た曳家岡本をにわか業者が狙う話。この回まででもロクを中心に曳き家の話は大工事も含め語られてきたが、曳家岡本登場からはその仕事の解像度が上がった。
そしてそれは職人の現状と心の解像度も鮮明にして行くのだ……。
※ 作中のウレテックジャパンは現在、メインマーク株式会社と社名を替えられている。
◆第485話~第486話 望郷(前・後編)
「高知の海で吼える岡本……。
関東での仕事は色々と厳しく、ダンピングするにわか業者も増えだした。好きな映画で心を癒す岡本だった。そんな中でしばらく無かった高知の仕事が入ったり、曳家岡本の仲間が欠けそうになる状況が岡本を襲う。
そんな中の沈下修正で大きなトラブルが。施主の怒りと仲間の離脱のダブルパンチで闇を抱える岡本。曳家岡本の他のメンバーはゲンとロクに相談に向かう。現場に向かったゲンとロク、そして国勝が見たトラブルの原因とは……。」
ありえないトラブルと人員の確保の難しさ。首都圏で仕事を増やせば増やす程に根が広くなり、高知の根が絶える可能性が高くなる。職人であり経営者でもある岡本さんへの負担は増えるばかり。
そして、若者のやりたい道の邪魔は出来ない岡本さん。止められないよなぁ。
◆第492話 沈下修正の未来
「ある爆破工事の際にウレテック工法で危機を乗り越えたゲン。だがウレテックジャパンでは経費面で思うような収益が出ていなかった。施工の容易さと費用請求のバランスが難しいのだ。高知では岡本が未来の災害に向けて尽力するが空回り。
さらにウレテックジャパンにも誹謗中傷がとある掲示板に。ダンピングにも悩む岡本と川口、二人の経営者だが。でも……」
次の災害がいつくるかなんてわからない。わからないが日本に住む以上、絶対の安全なんかあるハズもない。心構えをという呼びかけもあるが、起こった時にはそれではどうにもならない。
復興のために必要な沈下修正の技術をどう強固に保つか。もちろん沈下修正だけではない。平時でも職人不足な地震国日本の未来は?
◆第550話~第552話 老舗の味(前・中・後編)
「2012年の秋、老舗のうなぎ屋「小川菊」で耐震改修が必要になった。築90年の大きな重要建築物には都市景観条例で色々な縛りもある。国勝は自分の歳も考えてこの仕事を任せる棟梁を探していた。
ロクの紹介で棟梁となったのは吉野工務店の吉野。張り切るゲンたちだが90年の歳月は建物を深刻な状態に変えていた。その修正には曳家岡本の手が必要だ!
床下では基礎工事、その間も二階の作業が出来るようにすると言う岡本。だがそのためには大量に枕木とジャッキの準備、それを組む仕事が。光を運転手としてハードワークに挑む曳家岡本。棟梁の吉野の采配も手伝って順調に進みそうな仕事だが……」
実在の老舗うなぎ屋「小川菊」の改修工事とタイアップした3話シリーズ。歴史と味を繋ぐための改修工事はそれ自体が歴史の一篇となるものだった。岡本さんの辛さを紡いだセレクション、そんなラストの話にピシッと締まった大工事が綺麗にハマる。
それにしても枕木運ぶのも大変だけど、枕木描くのも大変そうだ。作画コストの高い一冊である。
◆特別付録 曳家 岡本直也さんインタビュー(その1)
原作者の星野先生による岡本さんへのインタビュー。解体屋ゲンと曳家岡本の出会いから岡本さんの生き方、仕事。色々書かれているが、岡本さんはとても底が深い方なので今後のセレクションのインタビューも楽しみなのである!
※ あらすじには敬称をつけておりません、すみません。
・ゲーム・異世界編1
解体屋ゲンには時事マンガの顔もある。20年間の連載の中には建設業だけではなく、さまざまな時節の話題が描かれてきたのだ。そして、その中にはゲームの話題もあった。解体屋にゲームなんて!などという時代はとうに過ぎた。
インベーダーゲームが猛威を振るった1978年からもう44年。当時テーブル筐体に100円玉を積み上げていた中学生はもう定年の時期なのだ。そしてそんなオッサンは多分、ERも異世界もウマも冥途戦争にも対応出来るのだ。
◆第548話~第549話 モンケンを探す男たち(前・後編)
「クレーンの吊るされた鉄球に襲われる夢を見る男。その黒川と飯田、中村、納口という男たちがゲンの事務所にやってきた。彼らはモンケンを探しているという。そして解体屋ゲンの魔法のポケット(?)ゴンの倉庫にモンケンはあった。
クラウドファンディングで資金を得た黒川たち。だがもちろんそれだけでは足りない。必死に資金を集めながらゲーム製作を目指す黒川たちは東京ゲームショーに。
女性陣が温泉に浸かる中、近くの現場ではヒデがモンケンでの解体を黒川たちに見せる。果たしてモンケンはゲーム界をどう壊して再生するのだろうか?」
セガで「バーチャファイター」や「デイトナUSA」の広報をして後にブシロードの副社長になった黒川氏、「アクアノートの休日」や「太陽のしっぽ」の飯田氏、「バーチャファイター」「トバル2」の音楽を作った中村氏、「牧場物語」のグラフィックデザイナーの納口氏。真にゲーム界の巨匠が集まって作っていたクラファンからのゲーム、モンケン。
そして時は流れて2021年3月、Nintendo Switch用の「モンケンクラッシャー」として復活したのである。
◆第655話 秘密の花園
「定時に逃げるように帰るようになったトシとヒデ。夜の店の美人の元に通っているのではと考えたゲンとゴンはショッピングセンターのゲームコーナーで幼児用らしきゲームに勤しむトシとヒデを発見する。
バインダーにシールまで張って熱中する既婚者二人をからかうゲンたちだが、なんやかんやでその建築系美少女ゲーム、ワクワークガールズのレバーを握る。キャラクターのノリの指示を受けてランマーをかけるゲン。そんな中でゲンの心臓がズキュンと撃ち抜かれた……。
始めて萌えを知り、沼にハマったゲン。だが二週間後にワクワークガールズは……そしてゲンが出会った三池という男から衝撃の事実が!」
解体屋ゲン現時点最大の問題作である秘密の花園。最初に既婚者であるトシとヒデがハマるあたりから爆笑なのだが、とにかく初の萌えに接触してしまったゲンが良い(笑)
だがしかし、これはその萌えが推しと共にオンラインから泡と消える物語。そして来年の2月末日、ゲンを連載している週刊漫画TIMESの刊行元、芳文社の萌えキャラたちが活躍する「きららファンタジア」が……。
◆第692話 未来への研究室
「息子の鉄太に強請られてスマホ用ゲームアプリ『ロボロボGO!』を遊ばせる約束をしたゲン。怒る慶子を他所に、夏の街を鉄太と歩くゲン。『ロボロボGO!』は街で見つけた希少価値の高い乗り物をロボ化して集めるゲームだったのだ。
夏の陽に照らされてボロボロになって帰宅したゲン。だが鉄太はこれからも続けるという。弱ったゲンは谷を訪ねてAIのボテによる『ロボロボGO!』越えゲームの製作を頼むのだが……」
あのゲームのようなゲーム。そりゃ老若男女がハマる面白さに決まっている(笑)
そしてなんと行ってもボテのAI擬人化技術。最近のAI絵師ブームを予想していたかのようにAIでキャラクターを描き出すボテ。そのボテが描くゲーム嫌いの慶子の姿がヤバい!
◆第666話 スーパー重機学園
「事故から人を救った二足歩行重機タキジロウ。その姿を見たあるプロデューサーからアニメ化したいとの連絡が谷に。なんと谷とゲンもモデルにしたいと言う。子供の頃の夢と盛り上がる谷。
やって来たプロデューサーの明石と監督兼脚本の立野。ゲンと谷の風貌を見て困る二人だが、タキジロウを見て盛り上がる。
そして二週間後、スーパー重機学園と名付けられたアニメのプレゼンが始まる。ツインテの主役と共に紹介される美少女たち。ゲンも指導教官として美少女に……そしてもちろん谷も、谷……?!」
タキジロウのポテンシャルならアニメ化されて当然。そして描かれる五人の美少女たち。ちゃんとメガネも防塵メガネのキャラも用意された完璧な企画。日の目を浴びないものか……。
◆第897話~第898話 ゲンは宇宙防衛隊員(前・後編)
「鉄太にノートパソコンを使わせるゲン。谷の話では若者のパソコン離れが心配だと言うのだ。うどん屋の池原から運転資金と買い取ったノートパソコンに入っていたゲーム宇宙防衛隊はグラフィックの怖さで鉄太には合わなかった。だが、ゲンがモニターを見ると入隊者はエンターキーを押せとの文字が。
その日からゲンの行動がおかしくなる。理由をつけて現場を離れ、とあるマンガ喫茶に通うゲン。ゲンは宇宙防衛隊に入隊して敵の宇宙人アンノーマルと壮絶な戦いを繰り広げていたのだ。
寝る時間も捨ててアンノーマルと戦うゲン。いつしかイアラという相棒とコンビを組んで巨大宇宙船への闘いに挑むコトに……」
ゲンが体験する宇宙防衛隊。アンノーマルや巨大エビ、そしてどこか悲劇の匂いが漂う宇宙戦闘機での巨大宇宙船との戦い。それを支えるイアラ。だが実はイアラも現実と解体屋ゲンを繋ぐ……。裏で流れていた製作秘話については原作の星野先生のnoteの記事を。
実はひとりの為にマンガになにが出来るのかという凄い作品だったのである。
◆第935話 秀美のお店経営チュー!?
「コンサルの仕事が伸びず、ファミレスのバイトの後に深夜のコンビニでも働く貧民の野島。そんな野島に有華が紹介したのは店舗経営シミュレーションゲームの『子ネコのクレープ屋さん』。だがそのゲームは本職が経営コンサルの野島にとってはぬるい、ぬるすぎるゲームだった。
自分と自分の現状から怒る野島は谷にゴリゴリの店舗経営シミュレーションゲームを依頼する。そして作られた『お店経営チュー!』は公開された。超絶難度の店舗経営シミュレーションゲームは果たして?そして谷の入れたある要素が……」
超絶難度のシミュレーションゲーム。まあ実際にあってもヒットはどうかなぁ。でも、そういえば「F1童夢の野望」と「アイドルプロモーションすずきゆみえ」はなんかとっても難しかったが好きだったなぁ……。
それはともかく、ちょっと前の連載では『お店経営チュー!』が!!
◆第800話 異世界のゲン
「いつもの事務所。高層ビルの爆破解体が決まったという慶子だが、なにか風貌が違う。とりあえず現場に向かうゲンだが、目の前には砂漠が広がっていた。実はゲンは異世界に飛ばされていたのだ。この世界を救わないと元の世界も消滅と言われたゲンは七人の敵と戦うコトになった。
従者としてヒデとトシが呼ばれ、三人で敵に向かうゲン。謎の魔人や獣人、魔女と立ち向かうゲン。そしてついには巨大なビル型の……」
異世界に旅立ったゲン。だがしかし、これは異世界物の定義と解体屋ゲンの闘いでもあったのだ。時代は努力しないでチート、鉄太が言うのだから間違いない。チートも努力もどっちもあって良いのだ……良いかなぁ?
・人工知能ボテ編1
解体屋ゲンで唯一現実世界を超えた谷の開発する無人重機とAI。本当はスーパーコンピューターの中で成長するAIだが、犬型のインターフェイスでフレンドリーに谷やゲンを助けるボテ、でもどこか俯瞰で人間を見ているような気配も。
◆第531話~第532話 人工知能の相棒(前・中・後編)
「住菱建設技術研究所で谷が開発中のAIはVoiceCommunicationAndroidの頭文字からボコアと名付けられていた。人間側の拒絶感を学習するためゲンと行動を共にするコトになったボコア。ゲンは勝手にボテと言う名をつけた。
現場でAIならではの的確なサポートを実施し、家ではゲン・鉄太・慶子の健康まで気遣うボテ。二週間24時間の居候で彼は何を学んだのか。
そんな中で落盤事故が発生する。ゲンと内田の旧知である研究者の坂田がトンネル内に取り残されているのだ。ゲンが現場に向かうと谷が不整地踏破用の四足歩行ロボットを連れて来た。通称はボテ。ロボットの中にはAIのボテが入れられているのだ。
危険なトンネル内を歩き、坂田を見つけたゲン。そんな中で不幸がゲンを襲う。ゲンを愛する内田がトンネルに内に向かおうとする状況でボテは坂田を救出するがバッテリーの残量がない。トンネル内に残るゲンは……」
ボテ登場の三話。無人重機とAIについてある種書き尽くしたくらいの完成度の話である。だが姿形は変わってもゲンとの行動で人格を得たボテ。そしてそれは既に解体屋ゲンに必須のキャラとなっていたのである。
◆第542話~第543話 賭けの代償(前・後編)
「今度は完全自律型ユンボの姿を得たボテ。ヒデが操作するバケットをよけ続ける程の操作と安全性をもつ重機となっていた。一方ゲンの元にはチャラい男が。その男が言うには出水で難工事が続いている黒貫トンネルの完成日が世界的な賭け対象になっているというのだ。
チャラい男がヤバイ業者にハメられる中、ゲンやトシ、そしてボテたちは工事を邪魔する外国人たちを捕まえまくる。しかし工事の邪魔はいくらでも入る状況だ。賭けに対して怒るゲンはある対策を考えるが……」
汎用AIとして成長したボテとゲンが世界のアレな奴らから工事を守る。賭けを根底からひっくり返す爽快な一手。その為にはボテ"たち"の仕事が必須だったのだ。ポンコツな人間のドタバタを仕事で解決するボテの回。
◆第628話~第629話 アンドロイドと山火事(前・後編)
「ガケ崩れで浮き出た巨岩の爆破に来たゲン。谷は不整地踏破用の四足歩行ロボットの姿のボテを連れて来ていた。現場近くのペンションで羊と遊ぶボテ。谷はこの現場でボテに危険を体験させようと実験する。
そんな中、3ペンション近くで山火事が発生した。ペンションを守るためにゲンはある爆弾による消火方法を思いつくが、その為にはボテが爆心地まで行く必要がある。準備が整い、危険を実習して恐怖心を覚えたボテは火災の中に突入する……」
AIに恐怖感を植え付け、さらに死すら体験させるような話。この作中では恐怖感も死のデータも研究所のボテ本体には届かなくも感じるが、第661話でボテがギリギリまでホストコンピュータにデータを送っていたと明かされる。
AIに死を体験させる、そしてボテはほとんどの人が知らないその体験の情報を持った。凄いSFなのである。
◆第661話~第662話 次世代型重機(前・後編)
「谷に頼まれて新型重機のテストをするコトになったゲン。そんな中でさくら商店街にポンコツな危機がと田上が。だがゲンは相手にせずに新型重機、多目的機能次世代重機ロボ『タキジロウ』を観に行く。谷の作った『タキジロウ』はゲンも喜ぶ二足歩行重機。実験で機嫌の悪い『タキジロウ』の脳であるボテをなだめつつ、ゲンはテストを実施する。
ゲンはそんな『タキジロウ』を商店街の目玉として連れて行こうと考えた。退屈なテスト生活に飽きたボテは人の役に立ちたいと谷にいう。そして『タキジロウ』が向かった商店街で事故は起こった……」
アンドロイドと山火事で死を覚えたかもしれないボテが人命救助に動く回。この回でもボテは自己犠牲をしつつ自分で考えて人命救助を実施する。ボテというAIが一つの階段を登った回である。
そしてタキジロウは……ロマンだ!!
◆第670話~第671話 違法ヤードの秘密(前・後編)
「ヒデの愛機であるラフタークレーンが盗まれた。盗難防止のために仕込んでいたGPSをを頼りに光とヒデが追うが、すんでの所で犯人にGPSを発見されてしまう。
それでも追った光とヒデ、そしてゲンは解体工場のような盗難車両の違法ヤードを発見する。警察に相談したゲンたちだが、現状では摘発は難しいと言われ、独自にヤードの調査を実施する。
谷のドローンでラフタークレーンを発見したゲンたち。確証をつかむために潜入したヒデとゴンだが、中にいた輩に見つかる。捕まった二人はヤードの隠されたさらなる犯罪を見つける。
行け、最強二足歩行重機タキジロウ!進め戦闘用アンドロイド……」
二足歩行重機タキジロウをスーパーロボット的に活躍させた回。活躍したタキジロウは前回の人命救助で見られた弱点克服と重機としての機能UPとして改良されている。まるで西部警察のマシンXかスーパーZのように現れるタキジロウの雄姿が頼もしい。
一方でただの重機泥棒のチンピラかと思えた悪人が、いよいよヤバイ仕事をしていたあたりは解体屋ゲンの凄味か。
◆第676話 ヴァーチャルと思い出と
「タキジロウと中東のオイルラインを守るゲン。そんなゲンの前にウ〇トラ最強怪獣の一体と呼ばれるアレのような巨大怪獣が出現。タキジロウと共に巨大な蟻地獄に吸い込まれるゲンだが……。
それはともかくARゴーグルによる操縦UIを試験する二足歩行重機タキジロウ。そんな時に谷を頼って来たのは竜巻で崩壊した防音パネルに下敷きになった作業員の救出以来。
そのパネルと足場が崩れた事故現場にゲンは自身のトラウマを重ねてしまう。強風の工事現場でゲンは一番大切なもののひとつを失っているのだ。ゲンの体調悪化のデータを受けたタキジロウ=ボテの判断は……」
盛大なギャグ回のような序盤から急転して、ゲン最大のトラウマとの戦いとなる話。ゲンの過去を知らないボテに「昼飯」などと声を掛けさせるあたりに「やめてあげて」と思ってしまう。ゲンの最愛の人はゲンの昼飯を持ったまま強風で崩れた……。
AIとしてゲンの体調データから的確な指示を出すボテ。死を知って搭乗者の命を守る考えを強く持つようになったボテ。でもゲンはまだその先にいる。
それはAIの限界か、人間の矜持か。
・おわりに
もう1000話・100巻が目前となった解体屋ゲン。膨大なその話数は得意の大型セールやKindle Unlimitedでの読み放題があってもなかなか追いつけないと読者が諦めそうな領域に入っている。
そんな中で始まった「解体屋ゲン セレクション版」。最初に解体屋ゲンに触れるには素晴らしい機会だし、石井さだよし先生が原稿から新たにスキャンした過去最高画質なので既刊全部持っていても揃えたいものとなっている。
付録の曳家岡本インタビューの今後なども楽しみだ。個人的には原作の星野茂樹先生の取材・原作作成レポート編などの刊行にも期待している。
ハズレ回の無い稀有な大長編マンガである解体屋ゲン。もっと世の人が知るマンガになって欲しい。絶対にそれだけの価値があるマンガなのだ。
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