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『室町九州の紛争・秩序・外交』を刊行します

11月の新刊、七隈史学会 監修/山田貴司 責任編集『室町九州の紛争・秩序・外交』(戎光祥中世織豊期論叢7。A5判・上製・416頁。定価9,000円+税)が刷り上がってきました。

本書の目次は下記の通りです。

総論  室町時代の九州に関する研究の現状と課題  山田貴司

第一部 列島社会における室町九州の位置
 第一章 室町九州の政治・軍事的特質――軍事紛争論と室町幕府との関係論を中心に  山田貴司
 第二章 室町期における九州探題渋川氏の活動とその役割  小澤尚平
 第三章 室町幕府と九州国人  山田 徹
 第四章 外交からみた九州の地域権力  伊藤幸司

第二部 室町九州の武家権力の動向・政治的立場・秩序観
 第五章 中世後期少弐氏の権力基盤と政治的地位の成立  松尾大輝
 第六章 肥後からみた室町九州  小川弘和
 第七章 一五世紀島津奥州家の対幕府関係と伊集院氏  新名一仁
 第八章 室町期西国社会における大内氏の権力形成と室町幕府  野下俊樹

「九州の「室町時代」」パネルディスカッション討論録  中村昂希・山田貴司


 本書は、昨年9月に行われた七隈史学会大会のシンポジウム「「九州」の室町時代」の成果をもとに編まれました。各論考はシンポジウム当日より精緻になっており、かなりパワーアップしています。

 九州は「ひとつ」なのか?
 それとも九州ならではの特質があるのか?
 本書では14世紀末から15世紀前半を中心に、九州各地の武家権力をおもなフィールドとして、断続的に争乱がつづく政治・軍事的事象の展開、中央(室町幕府・京都)や東アジア世界といった域外の勢力との関係を検討し、九州における「室町時代」の時期区分や特質、地域差(地域権力間の差)の把握に努め、列島における九州の位置づけを模索しています。
 九州探題渋川氏、少弐氏、島津氏、大内氏などを比較史的視点で検討し、これまでとは異なる視点を提示することに努めました。
 室町期のみならず、南北朝~戦国期の政治・社会の変化を見通す上で今後新たな基盤となる一書と言えるでしょう。

                             文責:丸山

以下、本書「はしがき」より抜粋

 簡単に研究史を振り返ると、中世後期の九州をフィールドとした研究(とくに政治史研究)は、地域ごと、または地域権力ごとに研究が進められ、それぞれについて成果が蓄積されてきている。ただし、地域間に差異(地域権
力間に差異)がある点を自覚しつつ、比較史的な観点をもって進められた研究は少ないのが現状である。
 また、しばしば九州はひとつの地域として括られ、とり扱われているが、室町時代に限っていえば、九州という枠組みのもとで固有の特質を議論することや、九州の政治秩序をみわたすような議論は、これまでほとんど行われ
ていない。九州はひとつなのか。九州ならではの特質があるのか。あるいは、九州内にも地域差があるのか。疑問は尽きない。
 中央(室町幕府・京都)との関係論については、九州探題や大内氏、大友氏などが拠点としていた北部九州を中心に、実態解明が進められつつある。ただ、「遠国」九州ゆえであろうか、これまでは地域権力の自立性が強調される傾向がやや強かったため、いまなお検討の余地が残されている。
 九州に対する幕府側の認識・対応については、これまでは幕閣の畠山満家の「遠国事ヲハ少々事雖不如上意候、ヨキ程ニテ被閣之事ハ非当御代計候、等持寺殿以来代々此御計ニテ候ケル由伝承様候」(『満済准后日記』)という発言がたびたび引用され、幕府は「遠国宥和策・放任策」を基調とする、と説明されてきた。たしかに、ほとんどの守護・国人が在国する九州の場合、他地域よりも幕府との関係性は希薄だったのかもしれない。ただ、実際のところ、幕府が九州に対してどういった施策や対応を示していたのか、という点はさほど検証されておらず、実態解明は不充分である。九州側からの視点、そして幕府側からの視点を両方用意し、相互の関係を改めて検討していく必要がある。
 対外関係の問題は九州論の大きな特徴であり、これについてはすでに多くの研究が蓄積されている。九州が東アジア世界の玄関口となり、積載物資の供給地・集積地として、また人材の提供地として機能していたことは周知の
とおりである。ただ、既往の研究は、やはり地域ごと、あるいは対外関係の担い手ごとに立論されたものが多く、九州でみられた対外関係を俯瞰するような研究は管見に入らない。地域間の差異や共通性を明確化するためには、
九州という枠組みで対外関係を見直していく必要がある。

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