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『文章講座植物園』試し読み 筒井透子「赤い花」
筒井透子「赤い花」より抜粋。作品ごとに異なる挿画もお楽しみください。
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コピーして席に戻ったら、メールが届いていた。広瀬課長の前任者の沢渡課長からだった。一ヶ月前、十月の異動で本社に戻ったが、本社の統括部門にいるので、今も仕事の連絡はやってくる。さりげなくメールを開けたら、いつもは課内の数人に宛てて送っているのに、今回の宛先は私だけだった。
「おつかれさまです。
週末に異動のお祝いが届きました。ありがとうございます。
ガーデニングに凝っている妻が喜んでいました。
新しい課長はどうですか。
今後ともお仕事頑張ってください。」
この人はいつも年下の部下にも敬語だった。感情の一切伺えないそのメールを三回くらい最初から最後まで読んだ。
お祝いに送ったのは赤いアネモネだった。そして今日、それが植えられたのも知っている。届いたみたいですね、球根の写真見ました、と返事したら、この人は画面の向こうでどんな顔をするんだろう、と考えると、少しだけ愉快になった。
メール画面を閉じた。返事はしなかった。
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続きは『文章講座植物園』にてお読みいただけます。
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