読書感想:負けヒロインが多すぎる! (4) (ガガガ文庫 ) 著雨森 たきび
【乙女の秘密を覗き見れば、混沌が渦巻いていく】
古都の齎したBL本により、温水の関係が混沌と化す物語。
人には言えない趣味を鬱憤の捌け口する事はままある。
公の場で、BL本を持ち込むという猛者を果たした夢子。
当然、生徒会に没収されるが、天愛星が職員会議にかけると豪語し、雲行きが怪しくなる。
文芸部を守る温水は、夢子に助力を仰ぐ。
天愛星を籠絡し、事件を揉み消す。
行動力の化身と化した温水が、古都と夢子の確執を突き止める中、負けヒロイン達からは釘を刺されて。
受難の日々が続く温水。
人助けのために動いているだけなのに、クリスマスという時期もあってか、ヒロインたちを盛大に勘違いさせてしまう世知辛さ。
期せずしてマケイン達のフラグを次々と樹立させていく無自覚なまでの女たらし。
文芸部関連が落ち着いたと思った矢先、生徒会メンバーと文芸部の確執が描かれる中で、温水の行動が鼻につかないのは彼の言動に誠実さが現れているからであろう。
彼は相手に対して好意ではなく敬意に基づいて、相手の言動に対し自分の信念に基づいて、迷いながらもよく考えた上で行動している。
そして、杏菜に檸檬、そして知花。主人公である和彦の前には三人のマケインが揃った。
ツワブキ祭も終わり、世の中は聖夜に向かうばかり。
ではこのまま平和に流れていくのか、と思いきやどうもそうは問屋が卸さない。
突如生徒会副会長である天愛星により実施された持ち物検査で、文芸部OGである古都が捕まってしまったのである。
一体何を咎められたのか?
それは受験勉強のストレスから作り上げたBL小説本。
しかも温水×ひばり(男体化)という思わず何作ってるんだとツッコミたくなる、ナマモノ同人誌だったのである。
職員会議にかけるという天愛星を止められず、和彦と文芸部の名前が出されているから逃げられもせず。
容赦なく巻き込まれ、杏菜と温水は共同で何とか取り戻そうと隙を伺う最中で。
ひょんな事から温水は、天愛星の成績が生徒会としては低めという秘密を知ってしまい。
その秘密を守る事と、同人誌を引き換えに半ば脅迫されるような形で彼女から条件を突き付けられる。
それはあと八日以内、終業式までに生徒会書記である夢子と古都の仲に決着をつけるという物。
かつて生徒会役員だった古都の亡霊に縛られる先輩たちを解放する為にという建前の元、気が付けば温水は事態の中心、濁流に巻き込まれていく。
聖夜に何をやっているのか、と思わなくもないかもしれない。
だがこれも彼らの一つの青春の形なのだ。
そして事態の中心で流れの濁流にのみ込まれる中、温水という存在はさらに磨かれ、新たなヒロインとの繋がりが出来ていく。
三者三様の反応が非常に興味深かったが、温水を巡るヒロインたちの関係が留まる所を知らず混沌としていく。