ミモザの告白 (2) (ガガガ文庫) 著 八目迷
【たとえ、傷付き傷つけようと君と対話する事を諦めない】
ある出来事がきっかけで咲馬と汐がキスした所を目撃した夏希。関係がぎくしゃくしながらも文化祭で劇の準備に取り掛かる物語。
男であるのに女として生きる覚悟をした汐にとってこの世界は息苦しいだろう。
回遊魚のようにただ、流されるのでなく己の意志で、外の海を目指す。
自分にとっての居場所を探し求める。
人任せにすれば取り残されるのも分かっているから。
物の見え方が違っても、沈黙は金だとしても、君とちゃんと話したい。
恋と友情に揺れまどいながらも、確かな物が無い世界で己にとっての正解を掴み取ろうと足掻く彼らは、確かに青春の陰と陽、影と光が内在している。
普通という価値観は、皆がそれぞれ違うからこそ存在して、個性が皆それぞれバラバラだからこそ、世界は成り立つ。
自分と違った意見を受け入れて、自分の想いを言葉として相手に吐き出すからこそ、建設的かつ発展的に世界は変化していく。
そういう風に捉えれば、汐が女子として生きたいのも些細な問題で、自分の欲求を隠す事無く、体現して行けば、世界はもっと生きやすくなる。
もっと、自分に素直になれば、世界は生きやすい物になる。
他人がどうだからでは無い。
自分がどうしたいか。
何も言わず、他人と関わらなければ、自分の無知も浅慮もバレずに済む。
傷付く事で無闇に心を痛める事もないだろう。
しかし、他人の心をいくら想像して慮っても、実際の気持ちは食い違ったりする。
一番大切なのは、相手の気持ちを素直に聞く事。
また、自分の思っている事も包み隠さず伝える事。
人と自分が違う事を恐れてはならない。
感受性が豊かな青春時代だからこそ、人となるべく対話する。
そして、他人と関わって傷付ける事も傷付く事にも免疫をつけておく。
生きる事の耐性をつけておく。
大人になったら、世界は如何に視野狭窄で、理不尽な事も立て続けに起こる、清濁併せ呑む世界だと知るから。
最後に自分の素直な気持ちを自覚して文化祭を出来る限り良い物にしようと、行き違い続けた感情が交わって本当に報われたと思う。
五里霧中の手探りの行き先の中でパッと光が瞬間的に差し込むような、世界が少しずつ拓けるような気持ち良さがあった。
人は様々な側面を持つから。
美しい感情も醜い感情も人として持っていて良い。
他人とぶつかる事で、より考えが磨かれて成長してから。
他人と関わる事を恐れるな。
自分の考えが否定されても対話する事を諦めるな。