外に開くまで中は見えない――稲田豊史『こわされた夫婦』(清談社)

稲田豊史といえば『映画を早送りで見る人たち』でスーパーバズった(話題になった)人である。『ぼくたちの離婚』を角川新書で書いていて、本書はその第二弾。離婚した人(今回も半数以上は男)に配偶者との出会い、結婚、二人の生活、離婚を語ってもらう。特徴は、離婚当事者の一方の話だけを聞くこと。双方の主張で白黒つけるなら、双方の言い分を聞いて、中立的な機関(裁判所)などが判断しなければならないが、本書はあくまで一方の言い分を、基本的にはそのままに、聞く。ところどころ筆者によるツッコミや相対化も入り、語り手の「秘められた気持ち」を読者は推察することにもなる。

紹介されている事例は、けっこうハードなものではないか。それでも夫婦生活を営むために時に夫は心を殺したり、仕事で発揮するようなマネジメントスキルを使い地雷を踏まないようにする。インタビュアーの稲田にしてみれば、どうにも普通にみえない結婚生活だが、離婚しようと決めるまで、あるいは場合によっては離婚してからも、語り手たちは「それが普通」と思っていたりする。シュレディンガーの猫や映画『マトリックス』が比喩として導入されるが、自分たちの「おかしさ」は外に開いてみて初めて分かる。そして「おかしな」夫婦が、もし最後まで外に開かれなかった場合、その「おかしさ」はおかしくならない。本書に登場する語り手は、自分で自分に言い聞かせることに限界が来た場合が多い。読んでいて一番つらかったのは「咲かずして散る花」と題された、不妊治療を「諦め」、結婚生活を終えた夫婦の話。あとがきによれば、ウェブ掲載時に史上最大のPVだったそうだ。


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