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ショートショート

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2017年10月の記事一覧

死亡推定時刻

その死体が見つかったのはあたりが薄暗くなった冬の夕暮れだった。この時期というのは季節性のうつ病を発症する確率が高いため、警察は自殺志願者の線で行方不明者と照合することにした。すぐに分かるだろうと思われたが、どこの誰だか一向に分からないのだ。外見は20代前半の男性に見えた。死体には外傷もなく、血液検査の結果、薬物反応もなかった。HIV等の検査も行われたが、自然死としか言いようがなかった。
不自然な点

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腐っても鯛

「おい、これ見ろよ」
「あれ? この人… この間までテレビ出てただろ?」
「それが訳あって、芸能界を干された挙句このありさまだ」
「ワイプ職人とまで言われてたのになぁ」
「ああ。まさか食い逃げで逮捕だなんて…」
「コンビニの防犯カメラに食レポしたんだろ? そりゃあ捕まるよ 」
「ガン見だもんな」

✳︎職業病について書いた短い話です。 #小説 #ショートショート

Not There leabe Knight

夫 マクベス「なんということだ… まさか、待望の我が子がこんな姿で生まれてくるなんて…」

妻 マリア「あたしのせいだわ。きっとあたしが悪いのよ…」

夫 マクベス「いや、君は何も悪くない。難産をよく頑張ったよ。それに、生まれてきたこの子にだって何の罪もない。あるとすれば…」

妻 マリア「まさかっ!」

夫 マクベス「あるとすれば、僕が人を殺めたせいじゃないだろうか?」

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Love GAME

休憩の合間に男は給湯室にあった新聞を手に取った。それを見るや否や、数日前の出来事を思い出さずにはいられなかった。
「あのぉ… いつも目が合いますね」
見飽きた朝の風景に溶け込んでいた群衆の中から、一人の女が男に話しかけてきた。目線をやるとそこには至って普通のどこにでもいそうな顔があった。思い出そうとしても記憶になかった男は「そうですかね…」と返すしかなかった。
「そう! それも毎日! こんな偶然っ

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十二回目に会いましょう

「ねぇ知ってる? あの俳優さんとモデルさん別れたみたいだよ」
「ふーん。そうなんだ」
昼食休憩中、同僚にてきとうな相づちをうっていた。
ふと時計に目をやると1時5分を指していた。

「そういえばあのおしどり夫婦、実は奥さんが浮気してるんだってね。あたし驚いちゃった」
「ほんとなんですか?」
「人は見かけによらないものねぇ」
息子を保育園に迎えに行くと知り合いのママ友が話しかけてきた。
時計は6

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報告

密室の中で一対のケモノが甘美な吐息を漏らしている。それはようやく訪れた二人だけの空間であり、二人だけの時間のはずだった。
「ハァ、ハァ、ちょっと待って…」
「どうしたの?」
異変に気づいたのは女だった。
「何か変じゃない?」
「変って何が?」
「誰かに見られている気がするわ…」
「僕ら以外に誰がいるっていうんだい? さぁ、続きを始めよう」
「ごめんなさい。ちょっと気分じゃないわ」
「はぁ…わかった

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初恋

「やぁ、お嬢さん! いい天気ですね。こんなにいい天気だと歌でも歌いたくなりますよ!」
そう言うと男は自慢の歌声を披露し、乾いた空気にロマンティックな歌が響き渡った。
女は透き通る瞳でそれを見ていた。
また次の日も男は女のもとを訪れたし、晴れの日には太陽の歌を、飛ぶのが難しい日には風の歌を、屋根の下に水たまりができれば雨の歌を歌った。男は詩人であり音楽家だった。
「やぁ、お嬢さん! あなたに似合うと

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