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海老原いすみ
2017年9月8日 21:06
某有名大学が一般家庭を対象に大規模なアンケートを行った。アンケートはFAXとメールで送られ、100個の設問をYesかNOで答えるシンプルなものだった。なかには「めんどくさい」とか「そんな時間はない」という人もいたが、そうした家庭には短い設問が送られた。「あれは何を調べるアンケートだったのでしょうか?」後日、大学には多数の問い合わせがあったが、大学側はこう答えるしかなかった。「何のことでしょう
2017年9月8日 21:00
「どうして先生は教師になろうと思ったんですか?」この仕事をしていると何度か同じ質問に直面することがある。「君たちに世界の広さを教えてあげることができるからだよ」たいていそう答えるし、この言葉に嘘偽りはない。しかし、どこか言葉足らずでそのたび胸の奥が痛む。まっすぐな目をしたこの時期の生徒の気持ちが私には痛いほど分かる。進路に悩み、存在に悩み、他人と比較して、自分は何の取り柄もない人間だと思っ
2017年9月8日 20:50
「あーあーあーあー。前村!どうしてお前みたいないい奴が死んでしまったんだっ!」「時田先輩やめて下さい、僕まだ死んでませんよ」「時田がこんなに泣くなんて… もし前村が生きていたらさぞかし驚いただろうな。ご家族には俺から連絡しておいたよ」「鈴木先輩まで冗談やめて下さい。僕はただママチャリでコケて、頭を少し打っただけなんですよ。死んだだなんて、縁起でもないことやめて下さい」「ご家族はなんて言って
2017年9月8日 20:44
タクシーの運転手をしていると「いろんな所へ行けていいですね」なんて言われることがあるが、行き先を決めるのは客しだいだし、長い時間同じ姿勢でいるから身体のあちこちにガタがきていて、休みの日は整体マッサージに行かないとやってられない。それに、どの時間にどこで客を乗せれば、だいたい何処へ向かうのか見当がつくから、勤続年数が多いほど楽しみはなくなる。この間も世界は意外と狭いんだなと思わされたことがある。
2017年9月8日 20:34
ロボ太くんとロボ美ちゃんはとても仲良しで、いつも一緒に学校に通っていました。ある日のこと、いつものように登校していると電柱からカラスが石を落としました。その石は豆粒ほどの大きさでしたが、けっこうな高さから落ちたのでみるみるうちに速度を上げてロボ太くんの頭をめがけて落ちました。「カーン」という音とともにロボ太くんは倒れて、すぐにロボ美ちゃんは「大丈夫?」と声をかけました。少しして「うん、大丈夫」
2017年9月8日 20:27
日常にありふれたどんなものにも、目の前に現れる肯定には様々な人間の仕事が介在している。影の功労者、縁の下の力持ち、目に見えない労働者。もっとそういう立場の人間を評価すべきだと私は思っていた。一部の人間が富を貪っていたのがたまらなかったし、自分もいつそうなってもおかしくないと理解していたからこそ、感情移入ができたのだろう。それから私は目線を変えて社会を見るようになった。走り去る車も、風に揺れる街路
2017年9月6日 19:16
人通りのない橋の上を男女が歩いていた。会話が無くなり沈黙が続くと、おもむろに男は女に顔を近づける。それまで男の魅力にうっとりしていた女は、顔が近づくほどに冷静になり、唇が触れる寸前で顔を横に背けた。「どうしたの?」「やっぱり嫌だわ」「どうして?」「だってあなた、私の…」「私のなに?」「私の身体が目当てなんでしょう?」距離感を詰めてくる男が自分の空間を侵略してくるように感じた女は、反