4話:仲春の鎌倉散歩とアンティーク博物館
「日本の旅と風景印の物語」をテーマに、日本各地の旅紀行を綴っていきたいと思っています。
4話目は、今月のお話になりますが、そうぞ読んでください。
自然、歴史、グルメ、などなど魅力あふれる鎌倉だが、1年のうちで絶対に近づかないと決めた季節が3つある。
桜と紫陽花、そして紅葉。
これらの季節の鎌倉がとんでもなく素晴らしくて、世界中から人が集まってくるのは当然理解できるが、その混雑といったら‥‥。
周知のとおり年々拍車がかかって、もう殺人的とも言えてくる。
昨年の話、
紫陽花を見ようと鎌倉へ行ったが、お寺に入るだけで3時間待ち。道路はのろのろで(歩くのがだ)移動もままならず、おいしい物も食べれず、とうとう何も見ずに帰って来た。
コロナ禍だったから空いているだろうと思ったら、アテがはずれたのだ。
そんな事もあって、花も緑もない仲春の鎌倉へ、散歩へと出かける気になった。
今日は珍しく公共交通機関を利用しての移動だ。
いつもより少しまともな服を着て、春を感じる鮮やかな色合いのショールを首に巻いた。
JR鎌倉駅を東側に降り立つと、駅前のロータリーには早くもおおぜい人の姿があった。スーツケースを携えた外国人のかたがたもおられる。
駅を1歩出ただけで、空気が変わったような気がした。
若宮大路に出て、段葛の上を八幡さまの方へとゆっくり歩く。
この段葛は言わば、大通りの中央分離帯にあたる。(情緒を壊しますよね、ごめんなさい)
従って、ビルによる日陰が無く、とてもあたたかい。
のどかな春の陽を全身で浴びて堪能する。
このあたりで、ちょっと早いが今日の風景印をいただこう。
若宮大路沿いに中層のビルがならぶ中、気分よく段葛を歩いていると、3階建てで間口が狭い建物が見えてくる。
鎌倉雪ノ下郵便局だ。
段葛からいったん下りて、歩道から入る。
鎌倉らしい切手を探したら、ちょうどピッタリのがあった。
しかし、クドくなるな。
迷いがあったが、それ以上の切手も持ち合わせないので貼る。
ここの女性の局員さんは非常に手慣れていらっしゃるようで、全く待たせずあっという間に押してくださり、しかもギリギリを攻める見事な押印。
超メジャーな観光地だと、こういうことも数をこなすうちに鍛えられていくのだろうか。
感服のきわみだ。
そうこうしている郵便局のすぐ先に、「英国アンティーク博物館
BAM鎌倉」がある。
4階建てのあまり大きくないビルだが、隈研吾氏の建築デザインによるものだとかで、非常に興味があったので、よっぽど異彩を放っているかと思っていたらそうでもないように見えた。
そうか、土地にとけこむ方がいいのか。
それよりも、黒塗りロンドンタクシーの現物が展示してあって、看板代わりに目立っている。
このビルの1階はミュージアムショップ。関連グッズの売り場になっていて、そこは入場料を払わなくとも自由に見て触り買うことが出来る。それだけでも結構たのしい。
入場料を払った奥は、見ても撮ってもいいが触ってはいけないというお約束だ。
ここで嬉しいのがJAF会員100円割引。
電車に乗る日でも、運転免許証とJAF会員証は肌身離さないが(とにかくドライブが好き)、こんな所でも役に立った。
この博物館のユニークなシステムは、モバイルによるガイドだ。
手持ちのスマホで博物館のQRコードを読むと、博物館の館長があらわれて各階の展示品の説明を聞かせてくれる。Wi-Fiも整って快適な通信環境だ。
各自、自分のスマホを片手に、まずは2階への古めかしい階段をあがっていく。壁には古めかしい絵画。
2階にはジョージアン時代のアンティークがならんでいる。
大時代風のシャンデリアがいくつも天井からさがり、古めかしい家具がならんだ中に、豪華な銀食器がひときわ目を引いた。
さらに階段をあがると、3階はシャーロックホームズの部屋がある。好きなかたにはたまらないのだろう。雰囲気はじゅうぶん伝わってきた。
最上階の4階はヴィクトリア時代のアンティークがならぶ。
優雅なソファや書斎机に椅子などは、どれも豪華なうえに使い心地もよさそうで、貴族のかたがたの暮らしが偲ばれると共に、ここの空間だけ時間の流れがゆっくりしているようだった。
何もかもが、丁寧に時間をかけて作られていた。
せっかく鎌倉まで来たので、鶴岡八幡宮にお参りしよう。
境内には観光客がいっぱいだが、混雑しているわけではなくいい日和だ。
ちょうど八幡さまのぼたん庭園が開園していて、春ボタンのシーズン到来を告げていた。
入園料は500円だが、開花具合はいかがかなぁと遠くから覗いてみたところ、どうやら本格的な見頃になるには、まだ少し時間が掛かりそう。
今日のところは、やめにして、ぶらぶら歩く。
境内を横切る一本道を渡ったところで、ふと立ち止まった。
その一本道をあらためて眺めたのだが、あれ?コレは?もしかして、ヤブサメをやる時に馬が走ってた道?!(テレビで見たことある)
そこで、近くにいた普段着っぽい人に
「ココは、ヤブサメの場所ですかね?」
と尋ねてみたら、そうだと返事がかえってきた。
そのかたは、子どもが小さかった頃は毎年連れて流鏑馬を見に来たと、嬉しそうにおっしゃった。
なるほど。
鎧武者を乗せた馬はここを走るのか。
見たところ、踏み固められた散歩道のようにしか見えないのだが。
しかし、これが風景印の現場だ。
馬に跨がり走り抜けてみたいものだが、今日のところは歩いていくことにしよう。
桜の花芽は、まだまだ固い。
それではまた、次の旅で。