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本当にあったこわいはなし

序.

「お尻を見せてくれるお店ありますか?」

商業施設の運営管理をする会社で働いている。
入居しているテナントの苦情や意見は店舗ではなく、管理事務所であり商業施設の代表番号として公開しているうちの会社にかかってくることがほとんどだ。

苦情を言ってくるタイプは以下の通りに分類される。


「お尻が見たい」
そうですか。このパターンは簡単に分類出来る。
電話口から通話相手の近くに居る人の押し殺すような笑い声も聞こえてきた。声の感じからして大学生だろうか。

「お尻でございますか。あいにく当施設にそのようなお店はございません」

「そんなものも無いとは!! 困るんですよね!!!」

「ハァ…。 ←(相槌のようで溜息)
ではお調べしてご連絡を致しますので、お名前とご連絡先を宜しいでしょうか?」

ガチャッ!!!☎ 

電話を切られた。こんなもの造作ない。
このような電話をかけてくる人の声色や、話し方の傾向はだいたい似通っている。

しかし1週間前、かかってきた電話は少し様子が違った。
まさかこの電話が後の私の日常を脅かすものになるとは、この時は知る由もなかった…。


始.

「あのさー!!!宝くじ売り場の本社は何処!?」
電話を取るなりのっけから威圧的な怒号。
意見やクレームの一次請けをし、本社や従業員にまで被害を拡大させないように努めるのも業務の一環だ。

イマムラと名乗るその男性(50代後半?)の主張はこのようなものだった。

顔馴染みの宝くじ売り場のスタッフに、自分の個人的なことを話したら他のスタッフにも口外されていて、不愉快な想いをした。
自分は高級住宅街の地主で、最近住友林業で2億円の家を建てた。
「そのお金は一体何処から入ってくるの?」とモラルもデリカシーも無い質問をしてきたおたくの売り場の従業員のレベルが低すぎる。

別の店でロレックスを買った時にも、退院したばかりの痩せた自分の姿を見た店長が「お客様、ガンなんじゃないですか?」と言ってきた。
「俺ってガンなの?」とショックを受けた。
息子に話したら「それはおかしいよ。病院の先生にも言った方いい」と言っている。

一体おたくの教育と事業方針どうなってんの!?

プライバシーを侵害されたという割に、聞いてもない個人情報や直近の購買状況、入院していた病院名まで伝えてきたことに疑問を感じた。

しかし時計店での会話に関しては、店員はフレンドリーな接客のつもりでも相手を不愉快にさせたネガティブワードには違いない。
ことさら退院した人ならばナーバスになるのも当然で、謝罪すべき事象だと思った。

彼の言い分をよく聞き、同情と謝罪の言葉をかけることに徹した。
事実確認と共に今後同じことが起きないよう改善・指導していく旨、貴重なご意見に対する感謝の気持ちを伝え、15分に渡る長電話を終えた。
電話がやっと切れる時の喜びは映画「ショーシャンクの空に」の有名なシーンを彷彿させる。



店舗の営業担当に顛末を伝えると、以前も同様のクレームがあり、店舗に確認をしたところ、そのような事実は無いことが明らかになった。
「アタオカだから放っておけばいいよ。クレームの共有も別に要らないよ」
業務が滞っていた為、このイマムラ事件の顛末を文書にしてメールで共有する時間さえ惜しいと思い放っておいた。

「暖かくなると変な人が出てくるなぁ。あ、スタバの桜ラテ始まったかな🌸飲みに行こう~っと♬」私の頭の中は春が近づいていた。

動.


業務異動もあり、引継ぎ等でバタバタしていた。
忙しいさなか、受付の内線電話が鳴った。

「〇〇さん(私の本名)居る?」

聞いたことない声の男性が息を荒げて私を指名してきた。

「どちら様でしょうか?」

「イマムラや」

「ダレや」←心の声

千手観音のように動かしていた手を止め、業務を中断してイマムラの待つ受付に向かった。

そこには2メートル近くの、「EXIT」と書かれた赤い帽子を被った大男が立っていた。
片手には携帯電話、マスクで顔は半分しか見えないが柔道の篠原信一を連想させた。

「あ、あの時計屋のことで電話した者だけど」

驚いた。
まさかここまで来るとは。クレーマーが直接事務所に来たのを見たのは10年勤めてきて一度しかない。
あの時は凄かった。入口で女性が半狂乱で2時間以上泣き叫び、怖くてトイレに行きたくても行けなかった。

この男もそうなのか?内心ドキドキしながら冷静に対処を試みる。
「どのようなご用件でしょうか」

「時計屋から謝罪の電話が無かったから、ちゃんと伝えてるのかと思ってよ!!!」自分の発言によって更に興奮してくるイマムラ。
水着素材で出来ていそうなピッタリとしたマスクが、彼が喋るたびベコベコ凹んだり膨らんだりする。

謝罪?電話? 
あ~た聞いてもないのにひたすら自分の個人情報話して満足して、電話切ったでしょうが。
電話欲しいならちゃんと「欲しい」って言って、非通知で架けてきたらダメでしょうがあ~た。
しかもその日超絶忙しかったから、あ~たのことで時間割いてる場合じゃなかったんですわよ。嫌ぁ~ねぇ本当に。あ~たおかしいわ。

受付から聞こえるイマムラの声と異様な雰囲気を察し、ざわつき始める社内。

社内環境と円滑な出入り口の確保に考慮し、エレベーターホールまで移動をし話を聞いた。(このタイプは座らせたら長居する)
その間、エレベーターホールに用があるフリをして様子を伺いに来る同僚たち。「大丈夫、何かされたら労災おろしてくれれば👍」心で合図した。

大きい身振り手振りで支離滅裂なことを言い、とにかく自分はガンと言われて傷ついたこと、息子も酷いと言ってクレームの電話をした話を無限ループしている。

「こんな男にも息子が居るんだな…」
「この話の出口が見えないよ…。あっ!帽子にEXIT(出口)って書いてあるww」
 そんなことを考えながら熱心に彼の話を右から左に受け流していると、いきなり「これ、手術で取った胆石」と、携帯の画像を見せてきた。

大きい瓶の中にゴツゴツした黒っぽい石が7個くらい入っている。ぎょえ。
胆石ってこんなに大きかったっけ?
その辺に落ちている普通の小石を拾って、小麦や砂糖を入れる百均の瓶に入れたようにしか見えなかった。

「へ~!!!大変でしたねぇ!!!」
私のオーバーリアクションに気を良くしたイマムラ。
急に「〇〇さん(私の本名)に直接言いに来ちゃってホントごめんね!!」
「直接お店行ったら迷惑になると思ってさ!!」とフレンドリーに物理的な距離を縮めてきた。

近づかないでほしい。
「ではご要望通り、時計店の店長から謝罪の連絡をさせて頂きますのでご連絡先をお伺いして宜しいでしょうか?」

無事にイマムラの連絡先を入手し、満足げな顔をした彼にお引き取り頂いた。
その顔は「また来るよ」と言っているようで、お見送りしながら「もう二度と来るなよ」と心から願った。

着.

この後上司に報告し、時計店の店長に経緯報告と、改めて事実確認の電話聴取が営業担当より行われた。
「あ~~!!!あの人ね~~~~!!!はいはい。また来たんですね~~~~!!!www」とキャッチーで軽いリアクションの店長。

聞けば時計店が当施設に移転してくる前から頻繁に来店しており、毎回店舗に30分以上滞在。散々訳の分からない自慢話をした挙句、何も買わずに去っていくことで有名な、お馴染みのイマムラらしい。
飲み屋でひたすら店員に絡んでいた目撃情報も寄せられた。

「あの人、息子のフリして自分で『父親がこんな目に遭った』とクレーム電話してくるんですよ~~~!!!声もしゃべり方も全部一緒だからすぐ解るんですよね~~~www」


分類出来ない人も居る。

心の病気はどれだけ胆石を取っても治らない。
早く出口を見つけてほしい。なにより二億円ほしいと思った。


🍀あとがき
今後イマムラが私宛てに電話や訪問をしてきた場合は「もう辞めた」と言ってもらい、男性社員が対応する運びになりました😂
全国のイマムラさんごめんなさい🙇‍♀️


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エバ@エグくて優しいエッセイスト🖋

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