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紹興酒を飲み比べる会

食べるのが好き、お酒が好き、美味しいお店を探して開拓するのが好き…食の楽しみ方は人それぞれですが、また新しいスタイルの場所がひらかれました。

2024年夏、墨田区にて開催されたのは「紹興酒を飲み比べる会」。実は墨田区で開催されるお酒の飲み比べ会のはじまりは2010年に遡ります。もともとは誰かの家でひらかれていた会は、今回、〝まちのリビング〟ことノウドひきふねというレンタルスペースにて行われました。

過去実施したのはランビックビールの会(全部酸っぱかった)、ジンの会(ダウナーなお酒故に皆どんより…冷静に帰宅)、ラムの会(すごく陽気になって路地で寝る)をはじめ、シェリーの会、ウイスキーの会など…。

今回のメンバーの中には10年前にも参加した人も

普段から口にしているけど、考えてみるとどうやって作られているのか、他にどんな種類があるのか、その世界を知らないものはきっと山ほどあるはず。食べること・飲むことは毎日のことだからこそ、ちょっと知るだけで新しい楽しみの扉が開けるのかも?お酒の基礎知識、味わう順番…いつもの飲み会とは違った形で、皆でワイワイ楽しく・真剣に味と向き合ってみよう、という試みです。

そもそも「紹興酒」ってなに?

今回メインに置かれたお酒は「紹興酒」。存在は知っているけれども、どんなお酒かと聞かれるとパッと答えられない人も多いのではないでしょうか。

米などの穀物で醸造された酒を「黄酒」(ホワンチュウ)と呼ぶのですが、それを熟成させると「老酒」(ラオチュウ)になります。その老酒のなかでも浙江省紹興市で作ると「紹興酒」と呼ばれるものになるのだそう。スパークリングワインにおけるシャンパンみたいなこと。ところが結構例外的なものもあったり…そちらは追々…。

歴史は古く、紹興市のあたりでは2400年前から酒造りの記録があり、2000年ほど前には今の紹興酒に近いものを作っていたらしい、とのこと。

今回用意したのは全13種の紹興酒

写真左から順 商品名(熟成年数/10mlあたりの値段)
1.塔王 紹興花彫酒(3年/¥6.3)
2.福建老酒(記載なし/¥11.0)
3.玉泉 台湾紹興酒(5年/¥18.3)
4.即墨老酒 焦香型5年(5年/¥55.0)
5.石庫門 黒ラベル(8年/¥27.6)
6.古越龍山 5年(5年/¥24.2)
7.古越龍山 8年(8年/¥39.1)
8.古越龍山 10年(10年/¥66.1)
9.古越龍山 30年(30年/¥551.0)
10.財神 特級 花彫酒(18年/¥13.3)
11.夏之酒 2019年(5年/¥160.0)
12.女児紅 2010年 原酒(14年/¥60.0)
13.黄中皇 20年(20年/¥127.6)

日本人にとってはまだまだ“謎多き酒”

紹興酒は安いと1本400円以下で手に入り、高いと数十万円まで。しかし、日本で暮らしているとせいぜい出会うのは中華料理屋に置いてある1・2種類だけ…今はまだ“謎多き酒”と言ってもよいのでは。

昨今あたらしいモダンな中華料理屋が増えていますが、そのおしゃれ中華屋の多くは紹興酒も置いているもののナチュールワインを中心にそろえる傾向にあります。「今はまだ“謎多き酒”である紹興酒ですが、これから需要は伸びると思うんですよね」と語るのが、今回の主催者EAT&ART TAROさんです。

EAT&ART TARO
調理師学校を卒業し飲食店勤務を経てから、ギャラリーや美術館などでケータリング、カフェのプロデュースなどを行う。その後はアーティストとして、食をテーマにした作品を制作。これまでに、瀬戸内海の島々で作った「島スープ」、会ったことのない人と食を送り合う「食通」など食をテーマにしたものを多数発表している。大地の芸術祭 越後アートトリエンナーレ、瀬戸内国際芸術祭など地域の芸術祭などで多く活動している。
Instagram @eat_art_taro

今回はTAROさんセレクトの美味しいおつまみとともに、13種類の紹興酒を飲み比べます。テイスティング初挑戦の人も参加しやすいように、テイスティングのポイントや参考にできる味の表現例なども用意しました。

近くの中華屋さんでお料理テイクアウト&TAROさんセレクトおつまみを用意


紹興酒の概念が変わる!?パンチありすぎ変わり種ラインナップ

早速TAROさんから紹興酒についてのレクチャーを受け、順にテイスティングを始めていきます。

TAROさんのおもしろ紹興酒レクチャーに興味津々

序盤の1〜4種類は「変わり種」。まさかの変化球からスタート。「スタンダードから入ると味の変化に気付きにくいと思うので」とのことです。

注いでみると確かに色味から全然表情が違います。1本目の塔王はなんだか馴染みのある感じ。「絶対どこかで飲んだことある」「よく店で飲む味」と皆ちょっと安心顔。2本目の福建老酒はフルーティーで酸味と甘みが五分五分くらい。「なんか身体に良さそう」「ロックで飲んでみたい」とこちらも好評でした。

空気が変わったのは3本目、玉泉 台湾紹興酒。

「うわあ!全然ちがう!」「びっくり…」「なんか1・2とは違うゾーンにきた」と皆が口々にするその味は、苦みとちょっとの酸味…?首を傾げつつ眉間に皺を寄せつつ言葉を探しますが、「ケミカル」「濡れた土っぽい」と一体どこでこれを見つけたのですか…?とTAROさんを見つめる始末。

「ファーストアタックがガンッ!ってくる」「パンチが最初から最後までずっといる」「発酵してるアピールがすごい」「カビを頑張って食べれるようにしたら多分こんな感じ」(※個人の見解です)とだんだん具体的かつ独創的なワードも飛び出してきます。TAROさんのお母さんが台湾出身だそうで、たまに部屋にこのお酒があった記憶があるとのこと。この強すぎるクセが好きという人もきっといるのでしょう…。

続いて4本目の即墨老酒 焦香型5年に関しては、「キビを焦がしているチンタオの紹興酒」だそうで、米でもなけりゃ紹興でもない…。紹興酒の懐の深さ(?)に衝撃を受けながらも、コーヒーのような独特の香りにわくわく。しかし先ほどの台湾紹興酒の打撃の余韻が…ときどき戻って比べたり確かめたりしながら、テイスティングを進めてゆきました。

混乱から混沌へ…考えて味わい尽くすという体験

5本目以降は発酵年数の違いなど、また違うベクトルでの指標があり、今回の最高値も登場しました。だんだんお酒もまわりはじめ、味の機微をつかむために集中…!先ほどまでが変わり種ラインナップだったこともあり、飲みやすいと思うと同時に味の小さな変化をうまくキャッチするのが難しくなってきます。

メモをとりながらテイスティング…しかし中盤で早くも混乱

そんな中でインパクトを残したのはやはり、今回の最高値。9本目の古越龍山 30年ものです。

「もう瓶から違いすぎる…!」「なんか鍵かかってるよ」「このパッケージだけで上がる」と大盛り上がり。高級な紹興酒はこちらのように景徳鎮に入っていることが多いのだとか。その重厚感たるや…一気にボルテージが上がっていきます。

金額に惑わされないように!とお互いに良い合いながらのテイスティング。水みたいにサラッとした飲み口で優しいが複雑な味。「なんだかいろんな味がする!」という声が多くあがりました。良い紹興酒は「甜・渋・辣・苦・鮮・酸」の6味のバランスが良いのだとか。(辣はドライさやアルコール感、鮮は旨みのイメージ)
「はいり口から最後まで物語がある感じ」「良いワインみたいな丸さがある」「カッとしたアルコール感がなくて平穏」味の変化を感じながらもバランスの良さを感じる紹興酒でした。

紹興酒は基本的に大甕で発酵し、それを販売のタイミングで瓶などに移し替えます。その際に8年ものと10年ものが混ざったりしちゃったりすることがあるとかないとか…?それ故に年によっては味に違いがあったり、瓶ごとにちょっと味にブレがあったりしちゃったりするとかしないとか…?
奥深き紹興酒の世界。その深淵をのぞくこととなりました。おしゃれ中華のお店にクラフト紹興酒が並んだり、紹興酒スタンドのお店ができたり、そんな日も近いのかも?

“集中する楽しさ”を提供する、新しい食の形

私は今回初めて参加したのですが、「普段の自分は本当に味わって食事をしているのだろうか?」と思わず考えてしまいました。特にお酒の席は話をしたりするのが楽しく、そちらに夢中になってしまうこともしばしば。それはそれで充実した時間ではあるものの、ここまで真剣に味と向き合って考え抜くことが新鮮で、好奇心をくすぐられる体験となりました。

会が進むにつれ、みんなの味の表現もだんだん豊かに広がってゆきます

会を主催したTAROさんは「カルチャーセンターと飲食店の間みたいな、そんな場所ができたら楽しそうだよね」と話します。
「飲食店ってサービスを提供しなきゃっていう感じが強いけど、知識と体験を提供する、もはやサービスを除外した空間をつくってみたい。みんな真面目にメモとったり、写真撮ったり。すごくリッチなレストランとかは、いろんな食の文脈があって、それを知っている人同士で語り合うみたいな文化があるでしょ?それはそれで素敵なんだけど、高度なマニア同士の仕組みになっちゃう。そういったものとはまた違う、食に向き合う楽しい場所がつくれたらいいなって。」

圧巻!13種飲み比べセット

友人達と楽しく過ごす食事の時間、家族団欒のための食事の時間、そして味覚と知識を一緒にインプットする食事の時間。
新しい食事の楽しみ方の実験として、飲み比べの会はこれからも続いてゆきます。次は、何を味わい尽くすことができるのでしょう?

次回の開催はTAROさんのInstagramにてお知らせ予定です。参加してみたい・ちょっと話を聞いてみたい方は、お気軽にどうぞ。

文/神谷日向子

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