【クラクラ旅日記】青森 津軽鉄道で五所川原へ戻る
10月17日(木)
列車のすれ違い
せっかく青森に来たのに、福島の母の実家のことや、太宰治の自殺のことなどを考えながら、ぼうっとした意識のまま「斜陽館」から金木駅へ戻る。
途中、「太宰が戦時中に疎開していた家はこちら」みたいな写真付きの表示を見かけたが、なんだか立ち寄る気になれなかった。
考えごとを始めると、変にすべてが面倒になってしまう。
駅のホームで五所川原方面に見える岩木山をぼんやり眺めながら帰りの列車を待つ。
五所川原方面から1両の列車が来るのが見えた。
続いて津軽中里方面から2両編成の列車が来た。
津軽鉄道は単線だから、すれ違うとしたら途中の駅でということになっているのだろう。
もしかしたらほぼ中間点にあたる金木が唯一、その駅なのかもしれない。
昔、もっと便数が多い時代があったとしたら、もう何ヶ所かそういう駅を設けていたのかもしれないが。
消えた女性職員
津軽中里からやってきた2両編成は、僕が来るとき乗ってきた列車なんだろうか?
五所川原から金木まで二十数分とのことなので、金木―津軽中里間もそれくらいかかるだろう。
つまり往復で45分くらい。
終点でしばらく停車していただろうから、1時間くらいで金木に着くとしたら、時間的には合っている気がする。
しかし、行きの列車に乗っていた女性職員らしき2人は乗っていなかった。
津軽中里で降りて業務終了だったんだろうか?
時間的にはまだ4時過ぎだから、五所川原に戻って事務所で夕方のルーチンワークをすれば、ちょうど5時くらいになるはずだ。
彼女たちには津軽中里で何かやるべき仕事があるんだろうか?
それとも実は津軽鉄道とはなんの関係もなく、津軽中里にオフィスがある会社の社員だったりして?
あるいはそもそも彼女たちは存在せず、僕が見た幻だったとか?
元々意識がぼんやりしたまま旅に出たのだから、幻覚を見てもおかしくないのかもしれない。
解明されないままになってしまう旅の謎
昨日ネットで予約したホテルは、五所川原駅から10分くらい歩いたところにあった。駅のすぐ近くに同じ系列のホテルがあるのだが、それより歩く分不便だから1泊6700円という低価格なのかもしれない。
夕暮れ時なので客が次々チェックインしているが、作業服を着た人たちが多い。
メーカーの工場の製造ライン改修・増設とかで、別の事業所から応援に来ているんだろうか?
何ヵ月も滞在するならアパート・マンションを借りる手もあるが、週単位で済むならホテルに交渉して、格安で泊まるという手もある。
ロビーにはレンタサイクルが10台ほどあった。
仕事で滞在する人たちが、工場・事業所への通勤で使うというニーズがあるんだろうか?
あるいは観光客がのんびり自転車で走りながら、「斜陽館」や遮光器土偶で有名な亀ヶ岡縄文遺跡・博物館などを訪ねるといったニーズがあるのか?
「斜陽館」は津軽鉄道に乗った方が楽しいだろうし、亀ヶ岡遺跡は普通の人だとママチャリではちょっと遠すぎる気もする。
フロントのスタッフに訊けばわかることだが、チェックインのときにはそこまで頭が回らなかった。
旅では気になったのにわからないままになってしまうことがたくさんある。
ライターとして取材するならそのままにはしないが、今回の旅はそんな気になれない。
酒呑みでない旅行者の飲食店選び
部屋に荷物を置いて外に出ると、5時過ぎでもうあたりはそこそこ暗い。
飲食店は駅周辺に集まっているようなので歩き始めると、数分のところに小さな食堂があった。
新しい建物で、家族的な雰囲気。
中は明るいが、まだ準備中らしいので通過。
どうせ入るなら、もっと古くて暗い店で、津軽の郷土料理を食べてみたい気もするが、そういう店は酒呑み向きだったりするだろう。
ここ5年くらい体調が思わしくないので、基本酒は飲んでいない。
旅行とか友人と食事するときには、料理をおいしくするためにビールとかワインとか日本酒を少しだけ飲む。
そんな感じだと、居酒屋でない方がかえってくつろげることもある。
今回も意識が朦朧としているせいか、駅まで歩く気力がなくなり、さっきの家族的な食堂へ引き返した。
青森名物貝焼き
店内はけっこう広く、テーブルが2列に並んでいて、奥が座敷になっている。
オープン直後なのでほかに客はいない。
生ビールと青森の郷土料理貝焼きを注文。
貝焼きはホタテ貝の身を刻んで大きな貝殻の器で煮て、卵とじにした青森名物だ。テレビの旅番組で何度も見ていたが、食べたことはない。
青森県は若い頃青函連絡船で北海道へ行くのに、青森駅で降りたことはあるが、駅の外に出たのは今回が初めて。
これまで仕事や旅行で日本中の都道府県はほぼ行っているが、鉄道で通過しただけの県が岩手県。あと交通機関で通過すらしていないのが高知県。
青森県には今回初めて足跡を残すことができた。
それ祝して、貝焼きをつまみにビールで1人乾杯。
想像していたような、酒呑み用の濃い味付けではなく、家庭料理的な優しい薄味だ。この店が家庭的な店だからなのかもしれない。
津軽で食べる謎の長崎名物トルコライス
メインの食事は定食やら洋食やら麺類やら、食堂らしいものは一通り揃っているが、特に青森だからこれというのが見当たらないので、つい長崎トルコライスを頼んでしまった。
ピラフとナポリタンスパゲティにとんかつをのせたもので、なぜトルコライスというのか、テレビで紹介していたとき説明していたような気がするが、忘れてしまった。
長崎には旅行でも仕事の取材でも何度か行ったが、トルコライスというのが県民に人気だというのは最近まで知らなかった。
普通に喫茶店などで地元の人が食べるメニューらしく、ちゃんぽんのように全国区の料理になったわけでもないので、長崎に行かないかぎりまず食べる機会はない。
それをなぜ五所川原の食堂で出しているのか、ちょっと気になったが、店内は続々と客が入ってきて、注文が立て込んでいるようなので、ご主人は厨房で料理に追われているし、奥さんらしい女性も注文対応で忙しそうなので訊けなかった。
また解明されない旅の謎がひとつ。
トルコライスは、いかにも喫茶店の定番メニュー的なナポリタンとピラフ。これとデミグラスソースたっぷりのとんかつを交互に食べるとなかなかうまい。
旅に出ると、その土地の名物をまず探すのだが、意外と洋食屋に入ってしまうことも多い。
慣れない土地で一日中歩き回った後なので、体がいつもよりカロリーを欲しているのかもしれない。