【クラクラ旅日記】青森2日目 黒石の古い街並み
11月18日(金)
古い街並みの不意打ちに戸惑う
バスは田園地帯を抜けて、市街地に入ったと思ったら、有名な黒石の古い街並みらしい通りを走り始めた。
北陸で「雁木造り」、青森では「こみせ/小見世」と言うらしい、雪よけの屋根が張り出しているのですぐにわかる。
テレビの旅番組で見て知っているのだけど、こみせの外にカラフルな絵が飾られていて、イメージしていたより華やかだ。
僕個人としてはこういう飾り付けなしに、昔のままの古い建物が並んでいる方がいいのだが、明るく演出した方が観光客を呼びやすいんだろうか?
ここで降りれば歩かずに済むのに、路線バスが目的地を通過するという想定以外の事態と、街並みがイメージと違って華やかに飾られていたことに面食らっているうちに、誰も降車ボタンを押さないので、バスはそのまま通過してしまった。
動揺がおさまらないうちに、バスは終点の黒石駅前に着いた。
遠回りのローカル鉄道
黒石駅は時が止まったような、静かな駅だった。
弘前と黒石を結んでいる弘南鉄道弘南線は、朝と夕方を除いて1時間に1本。
1両編成の電車が外に停まっている。
かつては弘南線のほかに、黒石線というのがあって、川部経由で弘前までもっと早く行けたらのだが、なぜか廃線になってしまい、やたらと遠回りの江南線だけが残ったらしい。
遠回りする方の線を残したのは、非効率な気もするが、それだけ利用する地元住民の需要があるのかもしれない。
ただ、ローカル鉄道の常として、地元客だけでは経営が苦しいのか、途中に観光客向けの田んぼアートがあるとのこと。
こみせ通りの散策はそんなに時間を取りそうもないので、弘前までプチ電車旅を楽しむのもいいかもしれない。
造り酒屋でふれあいのチャンスを逃す
黒石駅からこみせ通りまで歩いて10分足らず。
人通りはほとんどない。
造り酒屋が2軒営業しているが、ほかの建物は板戸を閉めていて、中を覗くことも入ることもできない。
一カ所開けた空き地があり、その奥に廃墟のような蔵が見えたので、ちょっと覗いてみたが、ここが何だったのかわからない。
造り酒屋のひとつを覗いてみると、店には酒がずらりと綺麗に並んでいて、隣の事務所で社員たちが仕事をしている。
店からは商談スペース的な客間や、その向こうのガラス戸越しに、美しい庭園が見える。
酒を買うつもりもないので、声をかけるのも気が引ける。
僕に気づいたのか、主人らしい人が出てきて、「どうぞ上がってください」と言うので、ちょっとだけお邪魔して庭園を眺めた。
主人も社員も特に商品を勧める様子もないので、静かに店を出た。
こういう場合、飲まなくてもお礼に1本くらい買うのが大人の礼儀というものなのかもしれないけど、なんとなくこちらから声をかける勇気も出なかった。
店の人と一言二言話して、旅のふれあいとするためにも、そういう買い物は必要なのだけど、この街にはそういうふれあいを拒まれているような気がした。
拒んでいるのはこちらなのかもしれないが。
重要文化財カフェのアップルパイ
そのまま駅へ戻ろうとこみせを歩き始めたら、国の重要文化財・高橋家住宅がカフェをやっているという表示を見つけた。
木戸の一部が開くようになっていて、中の広々とした土間の奥に、テーブルと喫茶店のカウンターがあった。
年配の女性客がひとり、カウンターで食事をしながら、同世代らしい女主人と何やら話し込んでいる。
オーナーと常連客が話し込んでいる飲食店は、初めての客にとって居心地が悪いものだが、何もしないでこの街を立ち去るのも寂しい気がしていたところなので、とりあえずテーブル席に座り、コーヒーとアップルパイを注文する。
りんごの季節だし、弘前とその周辺にはアップルパイの美味しい店がいくつもあるとテレビで紹介していたのだが、出てきたのは冷凍していたのを温めたようなアップルパイだった。
伝統建築に生きる人たちの誇り
高橋家は黒石藩のコメを一手に扱っていた家で、この街の建物を貸家として所有していたという。
奥さんは他所から嫁いできたらしいが、今はご主人も亡くなり、子供たちも独立したので、1人でこの住宅を管理しているとのこと。
「どうぞ、勝手に見ていってください」と言うので、遠慮なく上がって部屋を見させてもらった。
造り酒屋もこのカフェも、観光客がお金を落とそうが落とさなかろうが、特に歓迎もしないし、建物を見物するのも拒まないというスタンスらしい。
それが伝統ある街に生きる人の誇りなのかもしれない。
女性客も交えて「郊外のイトーヨーカ堂が閉店した」とか「新しい食品スーパーができて人気らしい」、「今年の田んぼアートは全然ダメ」といった話をして店を出た。