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言いたいけど言えない。

今日は仕事終わりに美容院へ行った。
私は毎月美容院へ行くのだけど、
本日はカットのみの日。

こういう日は未だに悩むことがある。

私は髪のセットに毎朝整髪剤を使用する。
そのため、美容院でのカットではまずしっかり目のシャンプーが必須となる。

いつもシャンプーは心地よい。
丁度良い指圧具合。

頭皮がどんどん軽くなる。
気持ち良すぎて、仕事終わりの疲労感に沁み渡る。
いつも眠ってしまいそうなくらいだ。

心地よさが全身を伝い、力が抜ける。

そう、余計なトークはいらない。
と言わんばかりに美容師さんは、
今日は特に無口だった。

さあ、スッキリしてからカット。
他愛のない話をした。

その中で少し気になることがあった。
「ぜんようとう」
会話の中で出てくるワードだ。

文脈からして、明らかに
「前頭葉」のことだ。

こんなワード、医療人でなくとも一般用語に等しいレベルになっているだろうが、私は医療者の端くれのため、よりその誤りが気になった。

「“ぜんようとう”ってコミュニケーションとかでも使ったり、会話とかでもよく使う場所なんですって。だから会話とかしなくなると“ぜんようとう”が小さくなる。」

短い文に一気に2回も出てきた「ぜんようとう」

これは以前からある間違いだ。
ここまで何度も大きな声で「ぜんようとう」と言われると、もしかしたら私が知らないだけで、そのような部位が中枢神経系に存在するのかもしれない。

調べた。
なかった。

やっぱり前頭葉だ。
私は過去に医療に携わっていた身。

しかもしっかり目に中枢神経系については勉強していた身。

この言い間違いを修正できず半年以上過ぎている。
美容師さんが気を遣い、なぜか私とのトークの際にヘルスケアのこと医療系の話をよくしてくれる。

そんなことまで知ってるんだ、と驚く時もあるが、半年経っても直らぬ「ぜんようとう」。

今日こそは、と意気込んだが言えない。
喉まで出かかっている。
が言えない。

だからこの人にはマジで余計なトークは要らないのだ。
気を遣ってくれて本当に嬉しい。
楽しい話もある。

だけど「ぜんようとう」を聞いているのは苦しい。
意を決して声に出してみた。

「へ〜。ぜんようとうってすごいですね」

私は完全折れた。
なんだ、言ってみたら案外いけるじゃないか。

私は甘んじて「ぜんようとう」を受け入れた。
受け入れたことが美容師さんのためになっているとは決して思っていない。

その場だけが何事もなくすぎるだけの安易な行為であることは間違いない。

ただ、微妙な空気になるという行為を、金を払ってでもする意味はこちらにあるのだろうかと、葛藤した。

やっぱりまだ言えない。
だれか正解を教えてほしい。

おやすみなさい。

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