【読書感想】「噛み合わない会話と、ある過去について」 辻村深月
読み終えて私がまず思ったこと。
「これはホラー小説だ!」
読み終えてゾッとしました。
精神を削るような恐怖感に襲われました。
四つの短編が収められている作品です。
「噛み合わない会話と〜」という表題の短編はないのですが、
どの話も噛み合わない会話や記憶を中心に物語が構成されています。
全て独立したお話で関連性はありません。
人によっては
一つの事象にまつわる出来事なのに
「こんなに噛み合わない訳がない」
「フィクションが過ぎるのでは?」
と思うかもしれません。
しかし人生も半ばを過ぎてくると
この小説のような食い違う会話と記憶は
全く起こり得ない話ではないのです。
親から、友人から、親族から、
自分の覚えている記憶とは違う過去の出来事が
語られることは稀にあるのです。
何気なく口にした言葉が
相手を酷く傷つけていることもある。
傷つけられることもある。
人を傷つけるような言葉を平気で吐いて
周りから許されている人もいるし、
自身も善人と思っている人もいる、
それは自分にも当てはまるかもしれない…。
また、接客業の経験がある私は
「そんなつもりで言ってない!」
「この話を聞いてそんな解釈する?!」
「なんでそーなるのっ?!」
精神的に問題を抱えておられたお客様だったのかもしれかもしれません、
悪意を持って立場の弱い販売員に八つ当たりをされていたのかもしれないのですが、
ウルトラCレベルの噛み合わない会話、
噛み合わない記憶で心底驚かされ翻弄された経験もある。
そんなこともあって
この小説が完全なフィクションとは思えず。
そしてどのお話も、
日常生活において同じような会話をしたことがあったり、見聞きしたことがあったり、
過去に似たような体験をしたり、
それを傍で見たことがあったり、
皆さんにどこかで身に覚えがあるようなことがスタートラインのお話なのです。
…ゾッ。
芥川龍之介の「藪の中」とはまた違う角度から攻めてくる食い違う会話と記憶の物語。
面白いより怖いが勝ってしまいました。
装丁の可愛さに騙されてはいけない!
これはホラー小説と思って心して読むべし、
と私は思います。