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第2章/第9話 島耕作のようにはいかない!白熊誠のサラリーマン人生-クレーム対応から必死に逃げる上司-


誠は、大手某運送会社に勤めている。運送会社では思ったよりもお客からの苦情が多い。

クレーム対応から必死に逃げる上司とは、黒田純一。裏ではクロちゃんと呼ばれているのだが、誠(私)の所属する店舗の店長である。見た目はとても優しそうで爽やか高身長のクロちゃんだが、彼は気がとても小さい。声も小さい。正直、何て言っているのか分からないことが多い。管理者対応案件のクレームもどうにかして避けようとするのだ。

一応理念はあるらしく、それは上層部から言われた事を忠実に上層部の期待のためだけに応える。
部下のことなどは何も考えずそのまま仕事を落としこむ。自分の考えはまるっきりないため、咀嚼することもない。とにかく上しか見えない我が身保身タイプの典型的だ。

6月のとある日、小雨が降るなか私はトラックに乗り、大量の荷物を運び、一軒一軒配達していた。
傘などさせるわけもなく、私の体は濡れ、被っている帽子からは雨水と汗が額から流れてくる。

今日のコンディションは最悪だ。と一人溜め息をつきながら次へ次へと運転し、配達をこなしていく。

すると、ピロピロッ、会社の携帯が鳴った。着信は店長のクロちゃんとなっている。

「お疲れ様です。白熊です。なにかございましたか?」

「まことぉ〜、本当にすまないんだが越野町の北村様からちょっとした苦情が来ているんだ。君の方が越野町は近いし対応してくれないか?」

「すみません。今日は午前中指定の荷物が多くて、そこに対応に行くと他のお客さんの配達が間に合わなくなるんですが」

「そこをさぁ、なんとか上手く段取りできないのかなぁ。君も上を目指しているんだろ〜?経験だよ、経験を積もう!なっ!」

なんだか上から目線で腹ただしいのだが、当時の誠は配達員のチームリーダーであり、将来を期待された若手社員であった。その為、ついつい将来のためだとか上司から謳われると断る勇気を持てずにいた。

「ははぁ。かしこまりました。急いで対応してみます」

それからトラックで10分ほどかけ越野町へ対応に向かった。
クレームの内容は、荷物の箱が雨に濡れて不愉快だったと、配達員に伝えるも対応があまり良くなかった。とのことだった。
ぜひとも店長からのお詫びがほしいとの内容だった。

誠は配達員リーダーとして誠意を持って謝罪をした。お客もそんなに悪い人ではなかったため理解してくれた。

そうして私は再び配達に戻る。クレームに時間を割いたせいで、配達指定の予定時刻は刻一刻と迫ってくる。

ピロピロッ、ピロピロッ。
会社携帯だ。またもやクロちゃんである。

「はい、白熊です。いかがされましたか」

「おう、まこと。さっきの北村さんの対応はどうだったんだ?あれから電話が来ないもんだから報告を待っていたんだが」

次の配達が迫っているのにと腹を立てながらも焦る気持ちを抑え、顛末を黒田に報告した。
「そっかそっか〜。そんなことなら俺からチャチャっと電話すれば良かったな。サンキュー、サンキュー。運転には気をつけてなー」
大した事じゃなかった途端、声色が変わるクロちゃん。黒田はそうやってクレームがあると、自分では対応せずに部下を駒にして己の手は汚さない。
だが、そんな卑怯者にはいずれ大きなバチが当たるのだった。

ある日、新人の加藤が、お客の荷物を勝手に玄関前に置いてきたことによる大クレームが入った。当時はコロナ禍前だった事から、置き配と呼ばれるものは絶対的に禁止行為であった。

加藤は、無口で真面目な印象だが、配達能力は低く、とても時間がかかるのでいつも荷物を配りきれずに、他の配達員が手伝っていた。

そんななか、大問題が起きたのであった。

ピロピロッ。着信はまた黒田だ。

「はい、白熊です。どうしましたか?」

「まこと!すまん!加藤のやつがよりによってあの大瀧町の安田様の荷物を置き配してしまってな。しかも無許可でだ!安田様は大変ご立腹らしく、1番上の責任者を大至急連れてこい!!と言っております…と加藤から連絡が俺にきたんだ。本当に困ったものだ。とりあえずなんだが、うーん、どうしようか、そうだ、まことは急行してくれ!あとで副店長を援護で送り込むからよろしくな〜」

うん?大変なご立腹で1番上の責任者といっているのに私で大丈夫なのか?と私の頭に不安がよぎる。
まあ仕方がない、後輩の加藤がミスをしたんだ。あのお客は大変ご厄介者だし助けに行ってみよう!

急行してみると、仁王立ちの安田様が自宅の前で怒鳴り声を上げていた。加藤が棒立ちになり、怯えながらペコペコと謝罪をしている。

とりあえず誠は割って入り、お客をなだめてみようと試みる。しかし、仁王立ちの安田様は猛烈にキレており、身の危険を感じるほどだった。
それからは、お許しください、いや許さない。の攻防が続いていたが、ついにクロちゃんが送り込んだ副店長が到着した。

副店長は仕事にはあまり情熱をさほど感じはしないが、いざという時に漢気を見せる頼りになる上司だった。
「この度は誠に申し訳ございませんでした!」
「おいおい、副店長っていったな。おめぇら客をなめてんのかッーーー!!俺はな、1番上の責任者を呼んで詫びろって言ったよなッーーー!!すでに30分は経っているぞ、どうするんだ」
細い路地に響き渡る声は、近所迷惑なほどに喚き散らされる。どうやら我々じゃ物足りないと激怒しているようだ。
我々は誠意を尽くして早急に対応した。
お客の怒りの矛先は当事者の加藤の身勝手な行動と部下に適当に対応させて、お客を軽んじた黒田に対する猛烈な怒りだった。

「おい、今すぐ店長を呼んでこぉーい!!」
少しだけスカッとした。副店長はすぐさまクロちゃんに電話をかける。

15分後、クロちゃんの車がやってきた。
車からドヨンとしたクロちゃんが降りてきた。
「あ、ぁのーぉ……た、た大変お待たせいたしました。店長の黒田と申します。この度は、部下の加藤が大変なご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございませんでしたぁぁ……」路上で話しているため、クロちゃんのか細い声は自動車の音でかき消された。

「おいおい、お前が店長か?聞こえねーんだよ!!部下がどうじゃなくてよ、お前の対応に俺は1番腹が立ってんだよ。次から次へとやってくるのは真の責任者じゃなくて部下達だ。あまりにも誠意がないんじゃないのか?俺をなめているのか?どうしてくれるんだ?あぁん?貴重な時間まで取りやがってよ」

クロちゃんを横目に覗いてみた。一体こういう時はどうやって対処するものかと思い期待して待っていた。
すると、ゴモゴモと何かを必死な形相で繰り返し言っている…。
「あぁぇー誠に申し訳ございませんでした…へぃ、申し訳ございませんでしたぁ…へぃ、申し訳ございませ……」
「あん?なんだって!?申し訳ございませんでしただと?そんな言葉はもう何度も何度もお前の部下から受け取ってんだよ!さぁどうしてくれるんだよ、いますぐ答えろよ!」捲し立てる安田様。

クロちゃんは、よほどクレーム対応が苦手なようだ。メガネの奥に映る目は泳ぎまくっていた。
「ぁ、ぁ、えーーーっ、ま、まことにも、も、……」
「聞こえねーんだよ!!どうしてくれるんだ!」
安田様は真っ赤になっていた。

このままでは埒が開かない…
そう感じとった私と副店長は、場の流れを変える為に親身に話しを絞り出して、傾聴してお詫び、その再発防止策を少しずつお客に話した。
すると後方にいるクロちゃんが、いいとこ取りをするかのように相槌を打った。

少しずつお客もクールダウンし、最後はどうにか和解するところまで持ち込んだのは、誠の現場到着から3時間後のことだった。

「みんな、今日は本当にありがとうな!死ぬかと思ったよ。よりによって厄介な安田様に当たったな!目は本気でやるぞって感じだったなー!じゃぁな」
さっきまで消え入りそうな声だった黒田が、ガハハハ!と笑って車に乗って去っていった。
なんだコイツは。完全に見損なったぞ。
暗くなった路上に加藤と私、副店長は取り残された。

結局、クロちゃんとは2年くらい一緒に仕事をしたのだが、懲りずに何度もその後も誠にクレーム対応を押し付けてくるのであった。

こんな上司になりたくないランキングがあるのであれば間違いなく上位にランクインする。

誠は学んだ。真面目に誠実に仕事をするだけでは出世することはできないのだ。クロちゃんのように部下を差し出しても、上層部に気に入られ、パフォーマンスできる奴が出世できる会社。
嗚呼。なんて、理不尽な会社だ。クソ上司め。と島耕作のようにはいかない誠のサラリーマン人生である。

まだまだ誠の出世への物語は続く

-第9話 完-

※この物語はShirokuma_TAROの実体験をもとに着想したオリジナルストーリーです。登場する町名、人物等はすべてフィクションです。

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