EDA市場に中国企業が殴り込む
私の未来予言は、週刊エコノミストに寄稿しています。
半導体設計開発(フロント/バックエンド含め)には、EDAツールが必要です。
米中貿易戦争が続けば続く程、中国は鎖国された市場形成に動き、独自のテクノロジー進化を遂げます。
そして、未来は人間が介在しないAIが半導体設計をする事になり、人間とのインターフェースで成立しているEDA世界にも大再編も起こり得るでしょう。
【筆者の週刊エコノミスト寄稿記事】
国際・政治エコノミストリポート
米中対立 中国半導体覇権 ソフトと装置の国産化を加速 逆効果だった米の対中制裁=豊崎禎久2021年1月4日
~引用~
日本の半導体メーカーも1990年代半ばまでは各社が自前でEDAをそろえていた。ただ、コスト負担が重い部門であり、日本の半導体産業が自社で抱える資産を軽量化する「アセット・ライト」が時流となる中で、日本の各社は自前でのEDA開発を断念。米国のEDA企業は、従来は、図式的に書いていた半導体回路の設計図を、コンピューターのプログラミング言語で記述する「論理合成」など魅力的な機能を次々と盛り込んでいったことも、日本がEDAを手放す契機になった。
そして、日本が30年近い過去に手放したEDAを中国が新たに開発に乗り出し、関連のスタートアップ企業が複数、出現している。
そのうちの1社が「芯華章科技(エックスエピック)」社だ。20年12月9日付の香港紙『サウス・チャイナ・モーニング・ポスト』によると同社は20年3月に江蘇省南京市で設立、20年1年間で6000万米ドル(約63億円)を調達。創業者でCEOの王礼賓氏は、ケイデンス中国法人で15年間、エンジニアやセールス担当として勤務し、その後、競合のシノプシスで5年間勤務したと伝えている。英ハイテク専門サイトElectronic Weekly.comによると、同様のEDAスタートアップの全芯智造技術(アメダック、安徽省合肥市)は、シノプシス中国法人副社長の経験を持つCEOの倪捷氏が19年9月に創業した。シノプシスは同社に出資している。
これら中国版EDAが米国による寡占状態を突き崩すかどうか予断は許さないが、ここはソフトウエアが中心の分野だ。ファーウェイは19年、米グーグルのスマホ用OS(基本ソフト)「Android(アンドロイド)」が搭載できなくなる事態に備え、独自OS「HarmonyOS(中国名・鴻蒙)」の開発にこぎつけた。EDAでも同様のことが起こらないと断定できるのだろうか。
【EDA市場の動向】
~引用~
半導体のEDA(電子設計自動化)ツールは米国3社、Cadence Design Systems(ケイデンス・デザイン・システムズ)、Synopsys(シノプシス)、Siemens Digital Industries Software(シーメンス・デジタル・インダストリーズ・ソフトウエア)が市場を寡占する。企業買収を重ね第4の勢力となりつつあるのが、熱や電磁界の解析技術に強い米Altair Engineering(アルテア・エンジニアリング)だ。
【EDAベンダーシェア】
~引用ー
EDAソフトウェア市場はSynopsys、Cadence、Siemensの3社が寡占しており、TrendForceの分析による2021年の市場シェアは以下の通り。Synopsys シェア32%、Cadence シェア30%、Siemens シェア13%
【EDA市場調査報告書】
EDAツール市場分析
世界の電子設計自動化ツール市場規模は、2024年に177億2,000万米ドルと推定され、2029年までに265億9,000万米ドルに達すると予測されており、予測期間(2024年から2029年)中に8.46%のCAGRで成長します。
市場の拡大を推進する主な要因は、小型電子デバイスに対するニーズの高まりと、自動車、IoT、AI を含むさまざまな業界での SoC テクノロジーの使用の拡大です。
シリコン分野は、電子設計自動化 (EDA) 技術のおかげで近年進化しました。 EDA は、エコシステムが利益を上げて運営できるコストで、IC 設計プロセスに必要な設計ツールを作成する責任を負います。
EDA ツールを使用する利点には、複雑な IC の開発に必要な時間の短縮、製造コストの削減、製造欠陥の排除、IC 設計と使いやすさの向上などが含まれます。
世界半導体貿易統計 (WSTS) によると、半導体産業は 2021 年に 8.46% の成長が見込まれており、これは前年の成長 (約 4,880 億米ドル) に比べて大幅な成長です。このため、さまざまな半導体ベンダーが研究開発予算を増やすことが予想されます。たとえば、2021 年 4 月、台湾積体電路製造公司 (TSMC) は、チップ製造能力と研究開発を拡大するために今後 3 年間で 1,000 億米ドルを支出すると発表しました。
チップメーカーは、AI がデバイスレベルでの計算能力をもたらし、効率と応答時間の両方を向上させるため、エッジ コンピューティングに AI を組み込むことにますます傾いています。たとえば、インテルは「エッジ コンピューティングに注力しています。 IoTデバイスからスマートフォンまでAIの組み込みを可能にします。
EDA は、設計時間の短縮やエラーの減少など、多くの利点があるため、ますます普及しています。 EDA ツールは、自動車産業や航空宇宙産業を含むさまざまな産業で広く使用されるようになりました。ただし、EDA の欠点の 1 つは、以前の設計から洞察を得ることができないことです。
半導体の誕生以来、集積回路内のトランジスタの数は 18 ~ 24 か月ごとに 2 倍に増加するというムーアの法則が当てはまります。しかし、近年、科学者たちは、基本的な物理的限界により、同じ小さな領域に追加の要素を配置することが経済的に困難になる可能性があり、最終的にはムーアの法則が間違っていることを証明する可能性があると考えるようになりました。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生以来、半導体業界は深刻な影響を受けており、サプライチェーンと生産施設に大きな影響を与えています。 2020 年 2 月と 3 月に中国と台湾の生産が停止され、世界中の他の OEM 生産に影響が及びました。しかし、主要ベンダーのかなりの部分が旧正月を見越して電子機器を買いだめし、リスクを軽減した。さらに、半導体業界の成長鈍化に伴い、最初のパンデミック流行では EDA ツールの需要が若干減少しました。しかし、1 年の間に市場は成長しました。
EDAツール市場動向
IC物理設計・検証部門が大きく成長
IC物理設計とは、EDAツールを使用してICの幾何学的表現を作成することを指す。EDAは、チップを小さなブロックに分割し、各ブロックに必要な特定のスペースを計画し、最大の性能を確保するために使用される。その後、クロック合成の前後を利用して、これらのブロックを配置する。
最近の技術進歩は、主に5G向けにASIC技術を活用するチップセットメーカーを後押ししている。ASICとFPGA(フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ)の両方の要素を持つアーキテクチャのような構造化ASICの登場により、ベースとなるASICレイヤーの上に変更可能なものを追加する必要がある本格的なASICに比べて、製造コストが安くなった。
ミックスド・シグナル・チップ、つまりアナログとデジタルの回路を備えた集積回路(IC)は、増加傾向にある。ミックスド・シグナル・アーキテクチャは、SoCやASICの設計者にとってますます必要になってきている。この需要は、モノのインターネット、通信、自動車産業、産業制御などの産業から影響を受けている。例えば、2022年7月、シーメンスEDA(旧メンター)のミックスドシグナル検証ソフトウェアSymphony Proが大幅にアップデートされた。
また、2022年7月、シーメンス・デジタル・インダストリーズ・ソフトウェアは、集積回路(IC)フィジカル検証用のCalibreプラットフォーム向けに、電子設計自動化(EDA)のためのさまざまな拡張早期設計検証(EDV)機能を発表した。これらの新機能は、IC設計チームや企業がプロジェクトをより迅速に完了できるよう支援するために開発されたもので、ICやシステムオンチップ(SoC)のフィジカル検証における困難な問題の特定、解析、解決を設計・検証フローの初期段階に置くことで、IC設計者がフィジカル検証や回路検証のタスクを「左遷できるよう支援します。
さらに、2022年2月、エレクトロニクス設計サービスの著名な国際的プロバイダーであるVeriest Solutions社は、英国にデザインセンターを建設し、物理設計サービスを含むサービスの拡充を発表した。英国に新設された専門チームにより、同社の顧客は既存・新規を問わず、テスト用設計(DFT)と物理設計のサポートを受けられるようになる。新チームの設立により、電子システム企業はASIC設計プロジェクト全体をベリエストにアウトソーシングできるようになり、カスタマイズされた半導体設計に対する高品質なソリューションに対するニーズの高まりに対応できるようになります。
【筆者の週刊エコノミスト寄稿記事】
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