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消えた教室「ショートホラー」
ある地方の古びた中学校には、奇妙な噂があった。「3階の一番奥の教室に入ると、二度と出られなくなる」というものだ。その教室は、過去に何かがあったのか、誰も詳しくは知らない。けれど、何十年も使われていないその部屋は、今も校則で「立ち入り禁止」とされている。
僕はその学校に転校してきたばかりだった。噂話を聞かされても、そんなのただの都市伝説だろうと思っていた。でも、ある日放課後、一緒に帰る友人を待っている間にふと思いついた。「本当にそんな教室があるのか見てみよう」と。
学校が静まり返った夕方、僕は3階の奥に向かった。廊下は薄暗く、窓から差し込む夕陽が赤い影を作っている。その部屋には古い木製の扉があり、「使用禁止」と書かれた錆びたプレートがぶら下がっていた。
興味本位で扉を開けた瞬間、僕は驚いた。そこには教室が広がっていたが、ただの空き教室ではなかった。机や椅子が並んでいるが、全てが埃をかぶっていて、人が長い間立ち入っていないのが一目で分かった。
しかし、奇妙なのはその空気感だった。部屋全体が薄い霧に包まれているようで、かすかなざわめきが耳に入ってくる。
「……ようこそ。」
突然、後ろから声が聞こえた。振り返ると、そこには見知らぬ生徒が立っていた。古い制服を着たその少年は、微笑んでいるがどこか不気味だった。
「ここに来たってことは、君も“選ばれた”んだね。」
「何の話だよ?」僕が尋ねると、少年は静かに歩み寄り、机の一つに腰掛けた。
「この教室に入った人は、もう外には戻れない。だって、この教室は“外”じゃないから。」
意味が分からず、僕は部屋を飛び出そうとした。しかし、扉を開けた先には、廊下ではなく同じ教室が広がっていた。
「扉はたくさんあるけど、どこを通ってもここに戻ってくるだけさ。」
少年が楽しげに笑った。
僕は何度も扉を開けたが、すべて同じ教室に繋がっている。出口がない。時間の感覚も狂い始め、夕陽がずっと窓に残っているままだ。
「ここで一緒に過ごそうよ。他にもたくさんいるんだ。」
少年が指差した先には、ぼんやりとした人影がいくつも見えた。それらは全て生徒のようだったが、顔がはっきりしない。
「君もすぐに慣れるよ。」
その時、僕は気づいた。教室の壁に飾られた古い集合写真の中に、自分が立っているのを――。
その日から、僕は「3階の奥の教室」の一部になった。次に誰かが扉を開けるのを待ちながら。