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波打ち際の足跡「ショートホラー」
夏の終わり、僕は久しぶりに地元の海岸を訪れた。陽が沈むにつれ、観光客の姿はまばらになり、潮騒だけが静かに響いていた。海風に吹かれながら歩いていると、砂浜に奇妙な足跡があることに気がついた。
その足跡は、一つだけ。まるで片足の誰かが歩いたように、波打ち際へと続いている。誰のものだろうと思い、目で追っていくうちに、不思議なことに気がついた。どこにも始まりがないのだ。ただ、海から現れて砂浜を進んでいるように見えた。
不思議に思いながら足跡を辿っていくと、やがて朽ち果てた古い漁船が打ち上げられているのが見えた。船の側には、小さな祠があり、そこに古びた写真が収められていた。
写真の中には、見覚えのある顔が写っていた。幼いころ、海で遊んでいた時によく見かけた男の子だ。しかし、彼はある日突然姿を消し、それ以来、誰も見たことがなかった。
急に背後から冷たい風が吹きつけ、波が大きく打ち寄せた。慌てて振り返ると、足跡は波にさらわれ、消えていた。
胸騒ぎがして急いで帰ろうとすると、足元にひとつの貝殻が転がっていた。それを拾い上げた瞬間、かすかに囁き声が聞こえた。
「また、戻ってくるよ。」
背筋が凍りつき、貝殻を浜辺に投げ捨てると、再び海に溶けるように消えていった。もうここには来ないほうがいい——そう思いながら、僕は足早にその場を離れた。
けれど、それ以来、夜になると部屋の窓から波の音が聞こえる気がしてならない。そして、時折、片方の足音がすぐ背後から聞こえてくるのだ。