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dorobouneco
ヒューマン小説「コーヒーカップの向こう側」
朝日が差し込むカフェで、美咲は不安げに時計を見つめていた。約束の時間から15分が過ぎ、親友の彩香はまだ姿を見せない。
ようやくドアが開き、彩香が慌ただしく入ってきた。「ごめん、遅れて」と言いながら席に着く彩香の表情に、美咲は何か違和感を覚えた。
「大丈夫?何かあった?」
彩香は深呼吸をして答えた。「実は...転職することにしたの」
美咲は驚いた。彩香は今の会社で順調にキャリアを積んでいると思っていたからだ。
「どうして急に?」
彩香は目を伏せながら話し始めた。長年抱えていた不満、新しい挑戦への憧れ、そして何より、自分の本当にやりたいことを見つけたという喜び。言葉を重ねるうちに、彩香の目は輝きを増していった。
美咲は静かに聞いていた。親友の決断に戸惑いを感じながらも、その声に込められた情熱を感じ取っていた。
話し終えた彩香が恐る恐る顔を上げると、美咲は優しく微笑んでいた。
「すごいね。勇気がいる決断だったんでしょう」
その言葉に、彩香の目に涙が浮かんだ。「ごめんね、今まで黙っていて...」
美咲は首を振った。「ううん、話してくれてありがとう。これからの彩香の人生、きっと素敵なものになるよ」
二人はコーヒーカップを掲げ、軽く音を立てて触れ合わせた。その瞬間、彩香は自分の決断が正しかったことを確信した。
カフェを出る頃には、朝の柔らかな日差しが二人を包み込んでいた。新たな一歩を踏み出す彩香と、それを支える美咲。二人の絆は、この日さらに深まったのだった。