【冒頭から暴投#018】小樽ぶらり夜の街
小樽に遊びに来た観光客の方にごく稀に紹介したくなるお店の話。
あ、マニアックな小樽好きさん限定ですが。
フリーペーパーに掲載するお店の取材途中の出来事。
その日は、お店情報に加えて、イベント情報の収集も兼ねて、夜の飲み屋さんを中心にあちこち取材していた。ひと通り取材を終え、編集作業の続きをしようと、事務所に向い始めた時、視界の右隅に見慣れぬ店の行燈が横入りしてきた。
店名を見ると、どうやらそこは「バー」のようだった。「こんなところにバーなんてあったっけ?」と、ふと気になった。
その通りはこれまで幾度となく通っている道だったし、自分自身、どんなお店が並んでいるかは把握しているつもりだった。見覚えの無い店などあるはずが無かった。ただ、通りから、細い路地とも廊下ともつかない小道の奥にあるお店だったので、これまで気づかずにいたのだろう。
歩き慣れた通りにある、見覚えの無いお店・・・でも、決して昨日今日出来たばかり・・・という雰囲気ではない。もう既に何十年もそこにあるような、そんな佇まい。
ドアの向こうには、「世にも奇妙な物語り」の世界にでも広がっている…そんな錯覚をしてしまうほど…。
「どんな店なんだろう」僕の好奇心に火がついてしまった。その小道を突き当たりまで進むと、ドアの外にちょっと凝ったディスプレイがあり、小洒落たライティングが施されていた。ますます興味が薄いてきた。まだ、入り口のドアを開ける前だったが、きっとレトロでおしゃれな店内と、腕の良いバーデンダーさんが、僕を迎えてくれるはる・・・。絶対いい店だ・・・フリーペーパー、置いてくれるかな・・・僕は期待に胸を膨らませてドアを開けた。
「いらしゃいませ」出迎えてくれたのは、二人の女性店員。
お店の中の雰囲気は、概ね僕の想像に近かったのだが、どことなく違和感があった。その違和感が何なのか判らないまま、とりあえす中に入る。ここまで来たら引き返せないもの、人として^ ^
「初めてなですけど・・・1人です、良いですか?」こう言いながら、店内を見渡しつつ、カウンターの奥を目指す。店の中程まで進んだ時に、さっき感じた違和感の原因がわかった・・・。
「ここ、バーじゃないかも・・・」カウンターの後ろの棚に並んでいるお酒のラインナップがバーのそれとは程遠いものだった。置いてあるのは、キープ用と思われる焼酎が中心。カウンターの中に居る2人の女性もバーテンダーさんという雰囲気ではない。
恐る恐る…「あの・・・ここって・・・バーじゃ・・・」そう口にするとすぐさま「違いますよー、スナックですよー」と元気に返って来た。
「ですよねーw」
ある意味納得。まあ、店名と通りから入り口までの雰回気で、僕が勝手に「ここはきっと素敵なバーだ」と思い込んでしまっただけだった。
ぶっちゃけ期待を裏切られた結果となったが、 英語圏では、お酒を扱うお店は大体バーの括りに入るそうなので、まー、勘違いした僕が悪い。お店は決して悪く無い。
カウンター内の2人の女性は、僕より少しお若いスタッフさんと、僕より気持ち?お年を召されたママさんだったのだが、僕の勘違いから始まり、大笑いの連続、こういう体験も実は嫌いじゃない・・・ってゆーか、むしろウェルカム(笑)。
そんなこんなで、結局このバー、いや、スナック…ええ、しっかり楽しいお店でした。
自分の想像を越えた何か、予想を180度覆されるほどの何かに出会うのは、とても刺激的。快感すら覚える。
いつか、「いいバーがあるんだよ、・」と、このお店に、誰かを連れて行きたいな・・・ふふふ。
[2011年TARUPON FREE9月号 vol.85掲載]