【冒頭から暴投#011】平和ボケ
北海道ではあるあるなお話かなー。
2011年の冬のお話です。
北海道では冬になるとあちらこちらで、「頭上注意」や「落雪注意」の看板を見かける。今年のように大雪の冬は特に。
これは、自分だけかもしれないが、こういった注意を呼びかける看板も、見慣れてくると、見えているのに本来の意味、そこにそう書かれている理由をきちんと認識できない(注意を怠る)状態に陥る事がある。注意する必要があるから表示しているのにもかかわらずね。
リアルにそういう(事故や被害という意味での)体験をしないまま、注意表示だけを多く目にすると、きっとそれはどんどん自分の中で「あり得ない事」という位置づけに置換されていくのだろう。
山奥の深流に釣りに行くと「熊出没注意」という看板を幾度となく目にする。
でも、慣れてくると「そっかー、熊が出るんだったらやめようか?」とはなかなかならない。わざわざこんな山奥まで来たんだから、釣りをしないで帰るのはちょっと・・・と思ってしまうのだ。
心のどこかで「そうは言っても、熊なんてめったに出ないんじゃ?」と思いつつ入渓。結果、無事に釣りを楽しむ事が出来たら、次に同じ状況に出会った時も、また看板を無視して川に入ってしまう。
これを繰り返す事で、僕は「熊出没注意」を目では見えていても、注意どころか熊に対する恐怖すらどんどん感じなくなっていってしまう。
そこには、何かあってからでは遅い・・・と、わかっていても、圧倒的に確率の高い、「何も無い」事を信じて疑わない自分がいる。
でも、もしも、川に入ろうとした時「真新しい顔の足跡を見つけた」と、すれ違った釣り人から聞いたらどうだろう。
僕は、そこで間違いなく引き返すだろう。看板の注意書きだけじゃなく、それを裏付ける情報が入って来た事で、本来認識しつつも眠っていた、熊のに対する恐怖がリアルなイメージとなって頭の中を占有するからだ。
足跡があった!まだその辺にいるかもしれない、万が一出会ったら・・・思考がこうなるからね。
では、もしもそれが「真新しい態も熊の足跡を見つけた」という情報ではなく、「ドラキュラが集団でたむろしてた」という情報だったらどうだろう。たぶん僕は「この釣り人、アタマおかしいんじゃ?」と一蹴して、川に入るだろう。なぜなら、その情報は決定的にリアリティに欠けている。ドラキュラなんて存在していないと思っているし、しかも集団って(笑)。「あり得ない=情報が間違っている=熊じゃないし=危険は無い」と判断する。
結局、実際に痛い目に遭うか、リアルに危険を想像できないかぎり、人はどんどん危機管理が甘くなる。いわゆる平和ボケというやつだ。
そして、いつの日か、運悪く、最悪の状況に巡り会ってしまうのだ。それが限りなくゼロに近い可能性であったとしても、決してゼロではないのだから。
今、これを読んでいるあなた、危険に気付かず、軒下を歩いている自分を想像してみてください。できるだけ、リアルに・・・。
比較的暖かい冬のある日、滑る足下に気を取られて、今にも落ちそうな頭上の屋根の雪にまったく気がついていない・・・次の瞬間・・・・。
はい、これで、しばらくは、落雪事故に遭わないで済みますね・・・。
と いうことで、この季節、みなさんご注意を一。
よーく考えよー♪お金も大事だけど想像力も大事だよー♪(宇余り)
[2011年TARUPON FREE2月号 vol.78掲載]