【新刊発売】ぼくたちは、未来に向かって、縄文の古層へ旅をする『新版 縄文聖地巡礼』12月19日刊行
以前から縄文文化に深い関心を寄せてきた音楽家の坂本龍一氏と、人類学者の中沢新一氏が、縄文の古層に眠る、わたしたちの精神の源泉に触れるため、聖地を巡り、語り合います。
2010年に刊行され、現在入手困難となっていた『縄文聖地巡礼』に中沢新一さんの書き下ろしを加え、装いも新たとなった待望の新装版となります。
諏訪、若狭、敦賀、奈良、紀伊田辺、鹿児島、そして青森へ──
社会的な状況が大きく変化している現在、これからのビジョンを見つけるために、ふたりが人間の心の始まり「縄文」へと潜っていきます。
【目次】
なにを、どうつたえ、つくっていくのか
縄文とは何か
プロローグ 三内丸山遺跡からはじまった、ふたりの旅
第一章 諏訪
第二章 若狭・敦賀
第三章 奈良・紀伊田辺
第四章 山口・鹿児島
第五章 青森
エピローグ さらなる旅に向けて
旅のしおり
【本文「なにを、どうつたえ、つくっていくのか」より】
2004年の秋から数年間かけて、ぼくは坂本龍一さんと一緒に、列島の各地に残る縄文遺跡を訪ねる、「巡礼」の旅をおこないました。日本列島に住んでいた先住民族のことをもっと知っておきたい、という彼の希望を受けての旅でした。
2001年にアメリカで起きた9・11の同時多発テロ事件の起こった直後から、坂本さんにはこの思いが強くなっていたようです。当時のメールにはこんなことが書かれています。「死ぬときは、母国語の通じるところで死にたいと思う。と同時に、日本人とはなにか? もっと知りたいと思う。この列島に住んでいた先人たちのこと、当時の自然環境、彼らの暮らしのことをもっと知りたい。それを知らないと、いまの自分が見えてこない気がする」。
9・11は、グローバル化した資本主義に覆われていく世界の現状を、ぼくたちに強烈に見せつけました。その事件に衝撃を受けた坂本さんが、縄文の世界を知りたいと強く願ったというところが、いかにも彼らしい発想です。彼は現在の資本主義や国家の先に出てくるはずの、新しい世界の原理を求めていましたが、そのヒントが、商品経済ならぬ贈与経済で動き、国家を持たない縄文の世界にひそんでいる、と直感したのでした。
ぼくたちは、諏訪大社周辺の中期縄文の遺跡、若狭や敦賀の初期縄文遺跡、南紀田辺の南方熊楠邸、縄文人が初めて本州に上陸した大隅半島、青森県の晩期の縄文遺跡などをめぐる旅に出かけました。それは文字どおり巡礼の旅でした。巡礼をすることで、人は自分の魂たましいの原郷に戻ろうとしますが、「日本人とは何か?」という問いをかかえて、ぼくたち二人は、原日本人たる縄文の「聖地」への巡礼を繰り返したのです。(中沢新一)
【著者について】
中沢新一(なかざわ・しんいち)
人類学者。1950年山梨県生まれ。東京大学大学院博士課程満期終了。インド・ネパールでチベット仏教を学ぶ。帰国後、人類の思考全域を視野に入れた新しい知のあり方を提唱。人類学のみならず、歴史、哲学、民俗学、経済学、自然科学の分野にまたがる広汎な研究に従事する。著書に『チベットのモーツァルト』『雪片曲線論』『森のバロック』『フィロソフィア・ヤポニカ』『カイエ・ソバージュ』シリーズ、『精霊の王』『アースダイバー』シリーズ、『レンマ学』など多数。2023年春に『精神の考古学』(新潮社)が刊行される。
坂本龍一(さかもと・りゅういち)
1952年1月17日、東京生まれ。東京藝術大学大学院修士課程修了。1978年『千のナイフ』でソロデビュー。同年、YMOの結成に参加。1983年に散開後は『音楽図鑑』『BEAUTY』『async』『12』などを発表、革新的なサウンドを追求し続けた姿勢は世界的に高い評価を得た。映画音楽では『戦場のメリークリスマス』で英国アカデミー賞作曲賞、『ラストエンペラー』でアカデミー賞作曲賞、ゴールデングローブ賞最優秀作曲賞、グラミー賞映画・テレビ音楽賞など多数、『The Sheltering Sky』では2度目のゴールデングローブ賞最優秀作曲賞を受賞した。『LIFE』『TIME』などの舞台作品、韓国や中国での大規模インスタレーション展など、アート界への越境も積極的に行なった。環境や平和問題への言及も多く、森林保全団体「more trees」を創設。また「東北ユースオーケストラ」を設立して被災地の子供たちの音楽活動を支援した。2023年3月28日、71歳で死去。