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食と人類学


食文化と食文化研究

食文化とは、「食物の生産・産・分配・消費という経済活動と, 食物の調理加工や摂取方法, 及び食物の選択・忌避・禁忌, あるいは食物交換の社会的機能に関する生活様式の体系」。

食文化は固有の文化のなかで伝承され続けているものであるが、同時に日常的な環境の影響から生まれるものであり, 新しい考え方と伝承すべき古い伝統が混合されながら形成されていくという考え方は, 食文化の変容や創造に関する研究において, 踏まえなければならない視角である。

欧米の食文化研究

近代化以前

欧米社会の学術的食文化研究は, 世界に多くの植民地を抱えていたイギリスおいて, 19世紀後半に始まった。

E. タイラーやJ.フレーザー:
進化論の枠組みのなかで、食物禁忌に関する研究を行った。

イギリスの植民地における食習慣の研究:
アフリカやオセアニアにおいて、食物の生産、加工、消費が社会組織にどのように関係しているのかという研究。

これらの研究は、近代化以前(非産業化)の社会構造(社会秩序)の探求に役立った。

近代化以降

A.リチャード:
20世紀、栄養学者との初めての共同研究を行う。人々の栄養状態、食物の調理方法、儀礼における食物の栄養的観念、食物の調理方法、儀礼における食物の重要性、肉食に見られる人々の興奮、食物交換と社会関係、食糧不足に対する観念など、食文化の幅広い対象の研究を行った先駆者となった。

H.パウダーメーカー
アイルランドの経済生活における食物の宴会での役割に関する研究を行う。食物の社会的機能に関する事例として意義のあるものであった。

アメリカの食文化研究:
イギリスのように広い植民地を持たなかったため、食文化研究は後発であった、20世紀になって、当時盛んであった「文化とパーソナリティ」研究の一環として、食糧不足への不安の研究が行われた。

C.デュボア:
インドネシアのアロレーズ島で調査。飢えによってつくりだされた子供時代の不満と疎外感が、成人になった時のパーソナリティや社会関係のあり方に影響し、不安心理や猜疑心を形成すると主張。食糧不足は文化的、社会的、心理的機能に影響を与えることを明らかにした。

20世紀後半、フランスの構造人類学者レヴィ=ストロースとロースが、欧米の食文化研究に新しい方向付を提起。

レヴィ=ストロース:
食物の意味や食物の精神的、観念的、象徴的機能に関する研究を行った。象徴的機能に関する研究を行った。すなわち, 食物や食事は「食物コード」として, 社会関係, 文化的アイデンティティ, 浄と不浄, 正常なものと変則的なもの, 労働の性別分業などの在り方を表現する文化的構築物とみなした。この立場では, 食物の生化学的, 栄養学的, 経済的, 物質的側面は考慮しない。食物の嗜好や忌避が説明されるのは, 食物それ自体の性質のなかに求めるのではなく, むしろ人々の基本的な思考パターンのなかにあると主張した。「料理の三角形」。

M.ダグラス:
レヴィ=ストロースの二元論的思考を踏まえて、食文化研究を発展させた。彼女も人間の食行動は, 特定の社会集団や民族集団の食物に対する観念と認識によって規定されるという立場である。二元論的分類である日常的食事と非日常的食事が, ホスピタリティのコミュニケーションや民族的アイデンティティの象徴的・社会的価値を表現していることに関心があった。ダグラスはイスラエルの豚肉の禁忌につい
て, イスラエル人の精神性で解釈する。このような収入や富と関わりのない食行動の象徴論的・認識論的分析。

M.ハリス:
文化生態学者。食物の選択に環境や栄養を全く考慮しないことに反論した。食物の禁忌(タブー)は, 人間が住む生態系や環境によって規定されると主張した。

日本における文化人類学的食文化研究

日本における文化人類学的食文化研究は、2つの研究視点に大別される。

環境論的・文化生態学的・唯物論的立場

石毛直道とケネス・ラドル:
「魚醤とナレズシの研究」。彼らは東南アジアの国民的調味料である魚醤の製造技術や歴史, 食生活における役割, 稲作との関係, 魚醤圏の分布を明らかにしている。

象徴論的・構造機能主義的立場

食物に対する観念や社会的機能に関心を抱く食文化研究である。

秋道:
構造主義的方法によって、さまざまな状況や場面に応じて用いられる食物の民俗分類の問題をとりあげた。彼はミクロネシアのサタワル島において, 食物の種類, 食物自体のもつ属性や匂い, 食物と超自然的存在との関係, 料理のありかた, 食事の場といった諸条件に着目し, 分析を行い、二項対立的な行動を明らかにした。

清水:
ミクロネシアのポナペ島の代表的料理法である石焼き料理をとりあげ, この料理法を通じて, ポナペ島民の社会的・文化的世界を探求している。彼によれば, 石焼きは, 焼き石の上にパンの実, ヤムイモ, 豚を乗せてつくる料理であるが, この料理は, 「社会的上位者への訪問や宴への参加のための持参品, 何らかの寄与に対する謝礼, 物による援助といった, 社会関係を媒介し, 確認・強化・再生させる機能をもたされたもの」(清水1976: 192)であるとされる。

関本:
インドネシアの中部ジャワにおける、食物の儀礼的交換について報告。食物の持つ社会的・宗教的意味を, ジャワの儀礼的コンテクスト(文脈)のなかで明らかにした。

参照

秋野晃司 2017 「食文化研究の成果と課題」『女子栄養大学紀要』48: 33-39.


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