見出し画像

月が凍る二月の夜に

今年は雪は少ないけど、あまりに寒い。

夕方起きて、運動して、0時から1時にはだいたい終わるから、そこからしばらくは自由時間。

アクセサリーを作ったり、本を読んだり、痩せて着れるようになった服で1人ファッションショーをしたり。

寒く暗い陰鬱な夜には、身勝手で冷酷な話がよく似合う。

私は本当に選り好みの激しい人間で、食べるもの着るもの触れるもの、すべてが自分が少しでも気に食わないと癇癪を起こすのだが、それは本でも同じ。

基本的にファンタジーは好きでない。ましてや、異世界ファンタジーは苦手な分野だ。


例えば小野不由美の、十二国記は読めなかった。
魔性の子は読めたけど。
屍鬼、残穢は好き。

ハリー・ポッターは、無理矢理本を貸してくるタイプの人に押し付けられて、アズカバンの囚人までは読んだ。周りによくいるよね。趣味でない本強く勧めてくる人。

まだ小学生だった弟と映画も見たけど、のめり込むようなことはなかった。

確かに、小学生の時に読んでいたら感想は違ったかもしれない。

私が唯一、読めると言っていい異世界ファンタジー。

異世界ファンタジーと今風に言ってるけど、やはりヒロイック・ファンタジーなのだろうか。

途中主人公女の子になるけど。

タニス・リーの、平たい地球シリーズ。

闇の公子、アズュラーンの出没するところ、残虐非道が繰り返されていく。

しかし、乱れることないアズュラーンが、惑乱の公子で、愛する人間の娘ができ、その娘を処女のまま懐妊させ、そのために娘を失うことにもなるのだが、そのために感情を制御出来なくなる様がなかなか悩ましく描かれていた。

私の好きな栗本薫の、魔界水滸伝で、北斗多一郎さんが涼を亡くしたあとのようで、大変私の嗜好にあった。

熱夢の女王は、その娘に生ませた女の子の話なのだが、タニス・リーグらしく、残酷で波乱万丈で、そうして悲しい。

不死であるアズュラーンの娘は、やはり不死であったのだけど、ある方法で不死を捨てる。

長年隔絶された親子関係であったのだけど、娘の死の床にアズュラーンが現れる。

「お愛しい父上さま」

干からびて老いた娘は言う。

「お泣き下されますな」

「それが余の呪わしさ。泣けぬのだ」

「お言葉の一つ一つが涙でありましたよ」

それは、物語の中程で、アズュラーンが娘に対して言った言葉なのだけれど、ここで物語は終わる。

とにかく美しい。

この圧倒的な美しさを知ったら、昨今の、「異世界ファンタジー」、ましてや、異世界転生ものなど鼻で笑ってしまう。

思うのだけど、このような中世(設定上はともかくそう読めるもの)を舞台にした物語を書くなら、キリスト教の考えは絶対あった方がいいと思う。

厚み、重みが全く違ってくる。

血ごとく赤くは、タニス・リー版グリム童話。

桐生操は、中学の時にエリザベート・バートリの伝記を読んで嫌いではないけど、本当は残酷なグリム童話は好きでなかったな。

タニス・リーの圧巻の筆力で描かれた童話は、そんな物じゃない。

表題の、血のごとく赤くは、白雪姫だけれど、完全に善悪の立場が逆転している。
最後に出てくる王子の正体もなかなか憎い。

緑の薔薇は、美女と野獣。
私はディズニーが大嫌いなので、決してディズニー作品ではなく、子供の頃読んだ童話集の美女と野獣がとても好きで、特に、末の娘が父親にお土産に薔薇の花を頼む描写にうっとりしてしまったけれど、この物語に出てくる薔薇も美しい。
そして、やはりそれは白羽の矢なのだ。
少しSFぽいお話。

ゴルゴンは、人狼、猫、人魚などをモチーフにした短編集。

白の王妃が好きだな。

幻魔の虜囚はラストが秀逸。

タマスターラー以外は、少しジョビナイルっぽい作品たち。

白馬の王子は、そこらに溢れている異世界転生ものの作者は読んで欲しい。

闇の城は、この作品と、タイトルを忘れたがあしべゆうほの吟遊詩人の話のおかげで、私も吟遊詩人を主人公にした連作を何度か書いた。

竪琴を作る過程が凄まじく息を呑む。

タマスターラーは、インドをモチーフにした幻想譚で、運命の手、輝く星が印象的だった。
この本のおかげで、いきなりインド神話に目覚め、なかなか散財したものだ。


タニス・リー版、ロミオとジュリエット。

この作品と、野阿梓の兇天使のおかげで、私はすっかりシェイクスピアを読む気をなくした。

本物のロミジュリに触れたことがないので比較は出来ないが、やはりこの筆力はすごい。

圧倒的な、剣と魔法版ロミジュリ。

タニス・リーらしい皮肉も散りばめられていて、一筋縄ではいかないところがとてもいい。

タニス・リーの数少ないSFのひとつ。

ありがちな、アンドロイドと少女の恋愛が基軸だけれど、そこかしこにタニス・リーらしい仕掛けがあって物悲しく美しい。

この作品には、強烈に娘を抑圧する母親が出てくる。

当然、悲恋なのだが、見えない希望に手が届きそうな、そんな焦燥感で終わる。


仕事が忙しくなり、読む本も厳選して(それでも小説は月10冊、マンガは30冊、雑誌も10冊は定期購読していたが)、一番興味の薄かったファンタジーを読まなくなり始め、最後に買ったタニス・リーの中編集。

堕ちたる者の書の、黄の殺意が、一番わかりやすくて好きかな。これを、わかりやすいと言う私も相当捻くれているが。

タニス・リーの白馬の王子の翻訳も手がける、翻訳家で歌人の井辻朱美の短編集。

一編一編がとても短く、まさに歌のように読めるのだけれど、イシルハーンの賭けがとても素晴らしい。
こんな話を書いてみたいものだ。


読み返して思うのは、繰り返すけれど、圧倒的に美しい。

訳も恵まれたのだろうけど、まるでそこにあるかのように異世界が広がる、この描写力。

アマプラで、よくあるファンタジーアニメ作品は絶対見ないし、指輪物語などの大作も手に取る勇気はない。


でも、これだけあれば十分じゃないかな。異世界の香りは。

エアコンは霜取りで効かないし、セラムヒートの前で丸くなって、カフェインが飲めないから白湯など飲んで、怒涛の物語に飲み込まれていくのは、なかなかよい過ごし方だ。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?