いとおしいほど壊したくなる 手のひらにつつんで汗ばむその手前
一日中飲んで、話し続けて、抱き合って、やっと昨日の夕方、私が寝付くのを待って、帰って行った北。
北が、私と関係を持ったのは、それまでの彼氏があまりにひどくて、世の中普通の男だっていっぱいいるぜ、と言うのを教えたかったのが主な理由らしいが、こういうのが普通なら、確かに私は普通でない恋愛しかしてなかった。
そうして、やっぱり去年までの私自身が異常だったのだなと改めて思う。
4月のイライラが消え、私も北に素直になる。
でも、芯から寛げないところもあるのだ。
信じて寄りかかった先、ふいと支えを取り除かれたら。
これほど一緒にいて、多分お互い家族ですら知らない顔を見せ合っているというのに、どうして信じきれないのだろう。
確かに私の恋愛遍歴はひどい。
初恋は…あー、中学の時の先輩。
これは正しい片思いで、私も青春したものだ。
2度目の恋が、当時は大変珍しかった二次元相手だ。
14の時から、19歳まで一途に思いつめた。
実らないからこそ恋は美しい。
21の時に好きになった先輩と付き合いだしたが、なんと6股かけられていた。
そうしてその中の1人とデキ婚したのだが、その嫁に敵認定されて意地悪をされた。
6股が発覚した時点で氷点下まで冷めている。
そうして、生まれた子供は、新生児でありながら父親にそっくりだった。
6股男の、さらにその先輩の既婚者に瓜二つ。
流石に噂になった。
6股男は、私に騙されたと泣き縋ってきたが、いや、お前が言うな。
その時、付き合っていた男とは、不毛で憎しみしかない関係を7年続けて、やっと別れ、そのきっかけになった人は…
私はとても好きで、今でも好きだけど、ちょっと普通ではなかった。
何がとは具体的には言えない。
社会的に成功して、見目よく、努力家で、尊敬できる人だが、ちょっとあれだな。性癖が独特。
後で知った言葉だけど、NTR願望が強かった。
本当に浮気されるのは嫌だったらしいが、私が挑発的な服装で男性ばかりの中にいて、相手が私の体(まあ胸ですね。当時Gカップあった)を見るのに興奮する人だった。
だから、彼と不倫になり、何度も別れ話になり、その過程で北と関係を持ち、問い詰められた時に素直に認めたら、この世の終わりのように傷ついていたのは不思議に思った。
まあ、私はその人含めて、歴代の男のせいで、すっかり性行為が嫌いになった。
あれさえなければ、もしかしたら私は未だにあの人と付き合っていたかもしれない。
どれほど自尊心を傷つけられようと、日陰の身でも。
親友は私の恋を応援してくれていたし、母になど相談はしなかったが、あの人も不倫をしていた人だ。どうにもならない。
そういうのは良くないよ、と、とても当たり前の事を言ってくれる人は、北以外いなかった。
北は私に恋をしない代わりに、あらゆるものをくれた。
私も北に恋をしない代わりに、自由奔放になれた。
恋など、ものの役にはたたない。
その為に狂う人生もあるとわかって言っているのだけどね。
私たちを繋ぐのは、ただ、北の心だけ。
北が私と関わらないと決めたら、今日にだって終わる。
怖いから、全てを北に投げ出せないのか。
今更と、北は笑うだろう。
大切な人。
大切な絆。
でも、だからこそ、たまにいたたまれなくなり、握りつぶしそうになる。
どれだけの力で、壊れるだろうかと、脆さを肌で知りたい。
自暴自棄になるのは昔から得意。
意味ないのに。